M-325 騎士団からの救援要請を受信したらしい
お土産をたっぷりと買い込んで、日暮れ前に王宮の館に帰宅する。
メープルさん達に3人で頭を下げてメープルさん達に礼を言ったら、帰ってペコペコと頭を下げられてしまった。
「次も待ってるにゃ。今回もかなり楽しかったにゃ。次は負けないにゃ」
「あまり無理をしないでくださいよ。それじゃあ、次の休暇にはまた連絡いたします」
荷物をアリスの手に乗せると、俺達はコクピットに収まる。
メープルさん達が手を振って見送ってくれる中、俺達は上空に向かって飛び立った。
そのまま南に向かって飛んで海上に出たところで亜空間移動を行う。
景色が歪んで元に戻ると、目の前に白亜の別荘があった。
「さて、これでのんびりできるわね。早速着替えましょう。もう直ぐ夕暮れだから皆も戻ってるんじゃないかしら」
「明日から、お土産の魚釣りが始まると思うとなぁ……」
「少しは協力しますよ。できれば小魚がたくさん欲しいとベルッドお爺さんに頼まれましたから」
離着陸台で焚火を作り、小魚を炙っての酒宴を開こうなんて考えてるに違いない。
たぶん移動できるように、車輪が付いたコンロのようなものを作ったんだろうな。後でどんな品か見て来よう。
便利そうなら、俺達も1つ欲しいからね。
「兄さんに頼んで小魚用の仕掛けと竿を用意して貰ってるの。明日から頑張れば10日ぐらいはベルッド爺さん達が楽しめるんじゃないかしら」
完全に皮算用をしているな。
まぁ、釣れなければベラスコ達も手伝ってくれるに違いない。
別荘に入ると、リビングに向かいドミニクやアレク達に到着を報告して、自室へと向かう。
王宮ではかなりラフな姿だと思われていたようだけど、ここでは皆が水着だからなぁ。調理をしてくれる2組の壮年の夫婦ぐらいが平服だけど、それだってかなり砕けた格好だし、俺達の前にほとんど姿を見せないんだよね。
黒に俺の紋章が入ったTシャツを水着の上に着たけれど、このエンブレムは盾の中にヴィオラ騎士団の紋章であるヴィオラの紋章そのものだ。強いて言えば、左下に妖精が描かれてるんだけど……。この感性は考えてしまうんだよなぁ。
「着替えたな。先ずはこっちだ!」
リビングに入ったとたんアレクに呼び止められてしまった。
これから夕食なんだからあまり飲みたくはないけど、ワイン1杯ぐらいなら良いかな。
「小魚を釣りたいってことだから、仕掛けと竿を準備しておいたぞ。入り江の浮き桟橋ならよく釣れそうだ。明後日は、それを餌にして大物釣りをする予定だ。頑張ってくれよ」
ベラスコも一緒になって、「よろしくお願いします」なんて言ってるんだよなぁ。
俺には無理だと思っているのかもしれないけど、頑張るしかなさそうだ。
木製の保冷庫に入れておいて、釣りを終えたところで亜空間に収納しておけば鮮度もそれほど落ちないに違いない。
王都に都合5日はいた勘定になるから休暇の残りは10日間だ。
リバイアサン用に、俺はもう少し大きい魚を狙ってみよう。
夕食は、魚ではなく肉料理だった。
テーブルには大皿がいくつも並んでいるから、皆が適当に取り分けていく。
食事バランスは完全無視しているけど、調子が悪くなるとカテリナさんの治療が待っていると考えないんだろうか?
偏らないように注意しながら皿に取り分けて頂いていると、ドミニクから砦建設の状況について問い掛けられた。
「そうですね……。今のところは当初の計画より進捗が速いです。さすがはウエリントン王国軍の工兵部隊だと感心してます。魔獣はリバイアサンを警戒しているのかもしれませんね。あまり近寄ってこないようです。近寄れば、メイデンさんとブリアント騎士団がさっさと倒してますから、俺の出番はありませんよ」
「なら良いんだけど……。エルトリア王国所属の騎士団が、北緯55度近辺で30頭を超えるトリケラに襲われたらしいの。ヴィオラ騎士団にはリオの偵察もあるし、飛行機もあるからそんな事態にはならないけど」
「万が一、救難要請があった場合は連絡してください。俺とアリスで救援に向かいます。ブラウ同盟に加わる王国ですからね。騎士団同士も協力しないといけないでしょう」
「その時は、お願いするわ。でも無理は禁物よ」
魔獣の動きが活発になっているってことかな? それともスコーピオの余波なんだろうか?
気になる話だが、ブラウ同盟に加わる3王国の中で葉一番東に位置する王国だ。
ここまで連絡が届けば良いんだが……。
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フレイヤ達と桟橋で小魚を釣る日々が続いている。
魚のすり身を撒くと、面白いように小魚が集まる。それを沢山の枝針が付いた仕掛けで釣り上げるんだけど、餌は必要ないらしい。
針の手元に虫の羽のような形で鳥の羽を付けると、餌と間違えて食べようとするみたいだな。
釣れり魚は、多くがイワシのような青物だ。たまにサバやアジも混じるんだがそれほど多くはない。
竿を上下に振るだけで食いつくから、たちまと用意した木箱に一杯になる。魔法で氷を出して保冷したところでアリスが亜空間に収容してくれる。
「そろそろ終わりにしましょう。午後は、素潜りで良いわね?」
「結構サンゴが広がってるからね。俺は賛成だ!」
釣れ過ぎるのもあまり面白くないんだよね。
午後は水中の景色を楽しもう。
3人の竿を畳んで俺が持つと、エミーとフレイヤが先に別荘に戻っていく。
アレク達はどうなのかな? 数なら俺達の方が間違いなく上だけど、重さでは3倍近い開きが昨日はあったんだよなぁ。
アレク達の自慢話を聞かされながら、夕食を食べることになりそうだ。
ベラスコには負けたくなかったけど、彼にも天性があったようでアレクと良い勝負をしているようだ。
老後はここでワインを飲みながら、釣り興じるつもりなんだろうな。
さてそろそろ昼食だろう。
そんな思いで玄関の扉を開けた時だった。
カテリナさんが2階から階段を駆け下りてくる。
「リオ君! 急いで救助に向かってくれないかしら。隠匿空間から救援を求める騎士団の連絡が来たの」
「直ぐに出掛けます。でも、よくここまで通信が届きましたね?」
どうやら隠匿空間から王宮に届いた通信を、王宮からカテリナさんが持ち歩いている通信機に中継して届けてきたらしい。
カテリナさんの通信機は大きなトランクの中だから、その通信機から魔道通信でカテリナさんの腕のバングルに通信があったことを伝えたんだろう。
魔道通信機⇔魔道通信機、中波通信機⇔中波通信機、短波通信機⇔短波通信機と来て、最後に魔道通信機⇔魔道通信機とリレーしたんだろう。
案外何とかなるものだと感心してしまう。
「魔道通信機の電信なら200ケム以内ということになるわ。でも、隠匿空間の防衛艦隊ではその距離でさえ数時間以上掛かるはずよ」
「アリスなら1時間も掛かりませんよ。すぐ任出掛けてきます!」
カテリナさんから黒のツナギと装備ベルト、それにブーツを受け取って、別荘前の広場に向かいアリスを呼ぶ。
空間から抜け出すようにしてアリスが現れた時には、まだ着替えを終えていなかったが急いでブーツを履くと装備ベルトを掴んでアリスの手に飛び乗った。
「隠匿空間から東南東方向よ。気を付けてね!」
片手をメガホンのようにして場所を教えてくれたから、後はアリスが探してくれるはずだ。
「話は聞いていたかな? 救助に向かうぞ」
『隠匿空間に亜空間移動を行います。その後東南東に向えば直ぐに見つけられるでしょう』
高度を上げながらアリスが亜空間移動を行うと、すぐ目の前に青銅の柱が見えた。高度は300mほどだから、高度を200mに上げて東南東へと移動する。音速を越えているが、この高さなら地上の光景も良く見えるし、アリスのセンサーなら100kmを超える範囲の状況を把握できるだろう。
「どうだい? 目視ではまだ見えないんだが」
『魔獣の群れが北東に3つほど確認できました。南に向かって時速30kmほどの速度で3つとも移動しています』
3つの魔獣の群れが全て同じ方向というのは何かありそうだ。
2つなら偶然ということもあるだろうが、さすがに3つはあり得ない。いや……、あり得るか。
スコーピオのような脅威が北であったとしたら、一斉に南に逃げ出すこともあり得るんじゃないかな?
『4つ目の群れを見付けました。やはり南に向かっています』
「原因を調べたいが、そうはいかないだろうな。先ずは騎士団の救出だが……」
『確認できました。少し南にズレていましたね。距離80km……。5分も掛かりません。群れはすでに去っていますが、かなり損傷を受けているようです』
間に合わなかったか……。後は被害が少ないことを祈るばかりだな。
『損傷した陸上艦の北に魔獣の群れがあります。80分後に接触します』
「さすがに、それは迎撃したいね。見えた! あれだな」
見張り台が1つ折れているな。側面から煙が出ているのは舷側を破られたに違いない。
戦機が3機警戒する中で、船体の点検をしているようだ。
少し離れた位置で地上に降りると、魔道通信で救援に来たと告げながら陸上艦に接近する。
ダモス級と呼ばれる中型の輸送艦を転用した船のようだ。
あれだと、肩舷に8門ほどの大砲を搭載しているんじゃないかな。
接近するにつれ、その被害が目に入ってくる。舷側の中ほどに戦機が並んで入れるほどの大穴が空いている。
盛んに煙が出ているのは、何かが引火した感じだな。炎は見えないからほとんど消し止められたのだろう。
『返信です。「損傷、大なるも自力での移動が可能。修理中の警備を依頼したい」以上です』
「了解と返信してくれ。それと接近してくる魔獣の種類は分かるかな?」
『レグナスです。頭部に角が2本後ろに向かって伸びています。図鑑には記載されていませんから、レグナスの亜種と推察します。数は14頭です』
陸上艦に1kmほど近付いたところで速度を緩める。
そのまま舷側に近づき、光信号を使ってブリッジと通信を始めた。
次の群れが近づいていると知って、かなり驚いているようだ。
救援に駆け付けた戦機が1機だけと知って少しがっかりしているが、直ぐに俺達だけで十分だということが分かるだろう。
通信を終えると直ぐに舷側から獣機が下りてきた。
1個分隊を常備していたんだろうが、7機だけなのを見ると、3機食われてしまったんだろう。かなり辛い戦いをしたに違いない。