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M-324 王都の雑貨屋さん


 4日間のゼミを終えると、フレイヤ達と王都の商店街へと出掛ける。

 ドレスを2着に靴を2足、それにバッグを買い込むらしいけど、今のでも良いように思えるんだよなぁ。

 サロンに行くとなると、いつも同じドレスというわけにはいかないらしい。

 やはり俺に把理解できない世界がサロンということになるんだろう。トリスタンさんが「俺のクラブに1度来てくれないか?」と言っていたから、興味本位で「はい」と返事をしてしまった。

 そのクラブは別荘での休暇中に行われるらしいから、アリスで向かえば問題は無いはずだ。

 第2陸港にあるホテルのエントランスホールで待てば迎えが来てくれるらしい。


「リオもクラブに参加するのね? 海千山千の人達がたくさんいるから注意するのよ」

「たまに決闘も起きると聞きました。クラブ内の規則に則って行われる決闘に関しては、たとえ相手が死んだとしても罪に問われることはありません」


 買い物疲れをコーヒーショップ内のテーブルセットで癒していると、2人からそんな忠告を受けてしまった。

 トリスタンさんのクラブとなれば、そんな物騒な話にはならないんじゃないかな?

 派閥争いのクラブというよりは軍人達の集まりらしいからね。マクシミリアンさんもその一員らしいから、俺が参加しても大丈夫だろう……。


「少しはフレイヤ達の世界も見てみたいけど、サロンに入れる男性は執事と吟遊詩人ぐらいと聞いたからね。男性はクラブに参加と前に聞いたから、案外似てるかもしれないな」

「それでも、ドレスコートでないだけマシよ。黒のつなぎで参加するんだったら、きっちりと折り目を付けておかないと……」


 糊でバリバリだったら、騎士団の制服にしよう。

 トリスタンさんの話では制服ではなく私服が多いと言っていたから、どちらでも問題はなさそうだ。


「さて、次はバッグね。ヒルダ様からカードを受け取ったけど、いったいいくら請求が王宮に行くのかしら?」

「全て値段を言ってませんでしたね。でも、あの中では安いと思いますよ」


 慰めにもならない会話を聞いてしまった。

 要するに支払いは王宮が行うってことか? 見た目が安くとも、品質やデザイン次第でどんどん値段が跳ね上がるらしいからなぁ。暑い王都ではあるが、背中に冷たい汗が流れるのが分かる。

 国王陛下の我儘に、少しは我慢しなければならないようだ。


「リオ様は、何か欲しいものがありませんの?」

「俺かい? そうだなぁ……、エミー達がバッグを選んでいる間に、あの雑貨屋を見てくるよ。面白そうな物があるかもしれないしね」


 荷物持ちに徹しようと思っていたから、何も考えてないんだよなぁ。

 雑貨屋なら面白そうな物があるに違いない。

 すぐ目の前にある、小さな広場で待ち合わせということで、バッグ屋さんの前から分かれることにした。

 数脚のベンチもあるし、灰皿も準備されている。

 何人かの男性が懐中時計を眺め名が座っているのを見ると、俺もあのような感じになりそうだと考えてしまう。

 まぁ、とりあえずは店に行ってみよう。

 

 王都の商店街だから、石造りの立派な店が並んでいる。大店は1つの建物を使っているようだけど、階を違えて別の店とか1つの階をいくつかに仕切った店もある。

 エミー達が向かったのは大店だけど、俺が行く先は階ごとに異なる看板が出ているから、中規模のお店ということになるんだろう。

 店の扉を開くと、チャリン! とドアベルの音がする。

 澄んだ音は好感が持てるな。これだけで気分を良くする客もいるに違いない。


「いらっしゃいにゃ。何を探してるにゃ?」

「どんな品を扱ってるのかと、入ってきたんだ。どんな物を扱ってるんだい?」

「いろいろにゃ。でもお客さんは軍人や騎士団の人が多いにゃ。後は、農家の人もいるにゃ。王都で暮らす人達はあまりやってこないにゃ」


 替わった客筋だな。王都の有名所の商店街に、そんなお客を相手にして商売が成り立つんだろうか?

 そういえば俺達が所持している品物は、王都の住民が普段使いすることはないだろうな。確かに専門店としても成り立つかもしれない。

 毎年多くの新兵が王国軍に配属されるのだ。軍が装備品を支給するようだけど、それは最低限の装備だけだ。

 中には、少しマシな品物を用意していく兵士もいるだろうし、俺達騎士団員も支給されたもの以外に色々と持っている。


「となると、売れ筋を教えて欲しいね」

「こんなセットが良く売れるにゃ。消耗品もあるから、その補充用品も売れるにゃ」


 カウンターに真鍮製の小箱を出してくれた。

 中に入っていたのは、髭剃り用のカミソリに櫛、小さなハサミと爪切りそれに石鹼などだ。蓋の裏に鏡が付いている。

 なるほど、これは便利かもしれない。アレクやベラスコもこんなものを使っているんだろうな。


「これは、それなりに売れるにゃ。数はあまり出ないけど、毎月2、3個は確実にゃ」


 次に出してくれたのは、薄手のショルダーバッグだった。

 中に入っているのは2種類のノートだけだったが、鉛筆やスケールを入れるホルダーがバッグに備わっている。ちょっと大きめのホルダーにはコンパスが入っていた。

 士官の中の何人かが、いつも肩から掛けているバッグがこれなんだろう。

 現地で伝令やちょっとした状況図を描くには最適だな。


「なるほどね……。コンパスも扱ってるんだ。虫眼鏡なんて置いてあるかな?」

「あるにゃ。大きいのと小さいのがあるにゃ」


 いくつか出てきたけど、小さいのは倍率が高くて大きいのは3倍ほどでしかない。

 レンズの直径が5cmほどのものが3倍で、直径3cmほどの物が5倍になる。さらにレンズが1cmの物があったけど、これってレンズが2枚になっているな。倍率は10倍になるようだ。


「このノートが1つ入って、この虫メガネとこっちの小さい虫眼鏡を収容するホルダーを新たに設けることができるかな?」

「特注にも応じるにゃ……。これぐらいになるけど、良いのかにゃ?」


 1つ銀貨3枚は高そうだけど、5つ買い込むことにしよう。

 学生達のフィールドワークには役立つに違いない。


 注文書を作る前に、コーヒーを出してくれた。一緒に灰皿を出してくれたのは、来客の多くが喫煙者ってことかな?

 ありがたく頂きながら一服を楽しんでいると、一所懸命注文書を書いているネコ族のお姉さんが話しかけてきた。


「お客さんは、軍人なのかにゃ? それとも教師なのかにゃ?」

「騎士団員だよ。広場の反対側のバッグのお店に妻達が入ったから、その間の暇つぶしだったんだけど、良い買い物が出来た」


「あのバッグ屋は貴族達ばかりにゃ。散財してるみたいだけど、大丈夫なのかにゃ?」

「サロンに出掛けるとどうしても必要になるみたいだね。爵位を持つと散財ばかりだよ」

「騎士団員で貴族! ……あの騎士かにゃ?」


「あの騎士かどうかは分からないけど、騎士でもあるよ」

「それなら、そのカップにサインして欲しいにゃ! お宝にするにゃ」


 魔道科学で作られた絵の具を塗るような絵筆は、描かれた物が長く残るらしい。さらに永続性の魔法陣を刻むと、さらに長く同じ状態を保てるそうだ。


「これで良いのかな? だけどお宝にはならないと思うけど」

「王宮のカニ騒動は聞いているにゃ。次の機会は賭けの対象になるって胴元のお爺さんが言ってたにゃ」


 娯楽に飢えているんだろうな。

 何か面白そうな遊びを考えたら爆発的にヒットするかもしれないぞ。


 何気なく店内を見渡すと、スゴロク盤が目に付いた。

 サイコロはあるんだよなぁ。なら、バックギャモンや周回型の不動産投資ゲームもありそうなんだけど、いまだに見かけたことがない。

 

「ボードゲームは売れてるんですか?」

「それなりにゃ。似たスゴロク盤ばかりだから、大人達は飽きてるにゃ。でも子供達や獣人族には人気があるにゃ」

「こんなゲームを知っているんですけど……」


 俺も説明を聞いたネコ族のお姉さんが小さな叫び声を上げる。

 思わず窓越しに通りを見てしまったけど、俺は強盗じゃないからね。


「こんな遊びができるなんて……。これと、これは貰っても良いのかにゃ?」

「良いですよ。その代わり良く出来たら、俺にも1つ送ってくれませんか?」


「ちゃんと送るにゃ。でも、リオ閣下は王都に住んでると聞いたことが無いにゃ」

「それなら、第2離宮のヒルダ様に届けてくれませんか。次に休暇で王都にやってきたときに受け取れますから」


「了解にゃ。……それと、パラメントの登録をしておくにゃ。独占できるから利益の2割をリオ閣下に送るにゃ」


 お姉さんとしっかりと手を握る。

 これで俺のお小遣いが増える。カテリナさんからも頂いてるけど、あれは人体実験が代償だからなぁ。

 

 バッグの注文書以外にも作成したゲーム盤のパラメント譲渡に関わる書類や利益分配の書類までもお姉さんが作り始めた。

 コーヒーのお代わりを持ってきてくれたけど、まだまだ時間が掛かりそうだな。


 どうにか書類作成を終えたようで、10枚近い書類にサインをする。

 全ての書類が2式あるから、結構面倒な事をさせてしまった気がするな。

 サインが終わると、お姉さんが書類ケースに1式を入れて俺に渡してくれた。

 

「これで終わりにゃ。バッグの方もヒルダ様に届けるにゃ。これが私の名刺になるにゃ。面倒な物でも注文に応じるにゃ」

「もう1枚頂けないかな。一応、ヒルダ様に渡しておくよ。……それにしても『黒猫屋』ねぇ。お姉さんは白ネコだけど?」

「父さんが黒ネコにゃ。私は母さん似にゃ」


 もう1枚名刺を貰ったところで、銀貨を15枚前払いをしておく。ヒルダ様に出して貰うのはちょっと気が引けるからね。


「それじゃあ、機会が合ったらまた来ます!」

「絶対に来るにゃ。できれば賭けの前日に来て欲しいにゃ」


 笑みを浮かべて店を出る俺に、カウンターから手を振って見送ってくれた。

 父親から店を引き継いだみたいだな。たぶん兄弟姉妹と一緒に店を守っているんだろう。中々良い場所にあるんだけど、雑貨屋だからなぁ……。

 

 広場のベンチに腰を下ろしてエミー達を待っていると、片手を振りながら近づいて来る2人を見付けた。

 まだまだ時間はたっぷりある。次はベルッド爺さん達へのお土産でも3人で探してみよう。


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