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M-321 お土産で大騒ぎ (2)


 リビングの扉が開き、近衛兵がトリスタンさんのところに向い報告をしている。

 どうやら準備が終わったらしい。何となく外に出るのが恐ろしくなってきたけど、ここで『後にします』とも言えないからなぁ。


「リオ殿。準備が出来たらしいぞ。騎士団にとっては日常茶飯事なのかもしれんが、王都では初めてのことだ。近衛兵達も日頃の訓練成果を見せられると張り切っているに違いない。武装はスコーピオ戦で獣機が使っていた小銃を持たせた。念の為に戦機4機に魔撃槍を持たせている。それで十分かな?」

「リバイアサンではローザ様の指揮の下、獣機1班で仕留めていました。少し過大にも思えますが、一応アリスに搭乗して状況を見ることにします」

「了解だ。私の合図で獣機の囲んだ中に1匹ずつ出してくれ」


 トリスタンさんが右手を上げたらカニを出す準備。上げた右手を下ろしたらカニを出すという簡単な合図だ。

 顔を見合わせて俺達が頷くのを、フェダーン様が呆れた表情で見ているんだよなぁ。

 国王陛下は笑みを浮かべて俺達に頷いている。楽しみでしょうがないと言う感じが見ただけで分かるようだ。


「さて、それでは行ってみようか。リオが是非とも食べさせたいと思う食材だ。近衛兵達にもそれなりの褒美を与えんといかんな」

「たまには、このような催しもよろしいかと。できれば専用の場所を作った方が我等も安心してみることができると考える次第」

「そうじゃな。トリスタンに任せよう。少なくとも千人の観客が入れるようにせねば、ワシが責められそうじゃ」


 不安になる言葉を2人が交わしながら、俺達の差秋を歩いている。

 後でフェダーン様からお小言があるのは確実だろう。囚人が刑場に引き出されるときは、こんな気持ちなんだろうと思いながらも、玄関の扉から出た時だった。

 まるでお祭りの場にいるような雰囲気が伝わってきた。

 大勢が広場の周囲を取り囲んでいる。ワイワイと言い合っているのは、どうやら掛けを始めたらしい。

 どんな賭けなんだかわからないけど、即興で誰かが始めたことに悪乗りしている感じもするぞ。


 近衛兵が国王陛下を案内する先には、やはりお立ち台が作られていた。

 容易に組立ができるお立ち台が準備されていたのだろうけど、かなり立派なもので30人ほどが壇上で観戦できる様だ。

 国王陛下の登場で、それまで座っていた貴族達が席を立って陛下を迎えている。

 俺は列を離れて、アリスの元に向かった。

 俺が搭乗しなくとも、亜空間からカニを出すぐらいの事はアリスが一人でできるだろう。だけどそれは皆が知る戦姫の能力をはるかに超えている。

 俺が動かしているということで、少し変わった戦姫と言うぐらいの認識で抑えておくのが一番だ。

 

 アリスのコクピットに収まったところで、ゆっくりとお立ち台近くに歩いていく。

 始めて動く戦姫を見る連中もいるみたいで、ポカンと口を開けて俺達を見てるんだよなぁ。鳥の糞でも落ちないと良いんだけど……。


『だいぶ厳重に囲っていますね。4体の獣機を1個半の分隊が囲んでいますし、四方には戦機までが魔撃槍を構えていますよ』

「万が一にも王族や貴族が怪我をしないようにとのことだろうけど、それ以外にも1個小隊規模で近衛兵が人員整理をしているよ。大事になってしまったね」


 獣機が直径20m程を囲んだ外側で、近衛兵が槍を横にして少しでも前に出ようとする連中を押えている。

 国王陛下達は、1.5mほどのお立ち台の上で椅子に座っての観戦だ。ワインなんて飲んでいるけど、優雅なものだな。

 

 頃合いが良いと思ったのだろう。トリスタンさんが立ち上がって、俺達に顔を向けると右腕を上げた。

 アリスが小さく頷いたのを見て、大きな声を上げる。


「良いか! 最初の一撃で上手く仕留めるのだ。それぐらいの技量はあるだろう。……それではリオ殿、出してくれ!!」


 獣機が囲んだ真ん中に、いきなり大きな音を立ててカニが降ってきた。

 亜空間からいきなり現れたが、時空魔法があるからそれには驚いていないようだけど、カニの大きさを見て、観衆が一歩足を引いている。

 カニの方も驚いているようで、威嚇するように両方のハサミを大きく振りかざした時だった。

 ドォン!! という銃声が王宮内に響き渡る。

 さすがに数発の銃弾を浴びれば仕留められるな。狙った場所もカニの両眼が出ている間のようだ。あれだと甲羅が無事だから、そのまま何かに使えるんじゃないかな?


 長い槍を持った獣機が2体、カニに近づき突いている。

 お立ち台の国王陛下に向かって大きく槍を掲げたから、上手く仕留められたことをアピールしているから、大歓声が起こった。

 笑みを浮かべて頷いているから、近衛兵達の褒美は確定したってことに違いない。


 トリスタンさんが再び立ち上がる。

 急に静かになったのは、トリスタンさんの言葉を待っているのだろう。


「さても大きなカニだ。急いで運びだすのだ。カニは全部で5体あるらしいからな」


 カニを運び出すときも大騒ぎだ。やはり本物を触ってみたいと思うんだろうな。群衆が押し寄せて中々宮殿に運んでいけないようだ。


 そんな騒ぎがカニを出すたびに起きてしまう。

 カニを仕留める獣機は、その都度部隊を変えている。技量が同じであることを皆に示しているのだろう。

 あのカニを相手に戦えるとなれば、早々王宮内で騒乱を起こすようなことはしないだろう。ある意味、調度良いデモンストレーションということになるのだろう。


 最後のカニを出したところで、アリスが片手を上が手トリスタンさんに合図を送る。

 頷いてくれたから、理解してくれたんだろう。


 これで終わりだとトリスタンさんが宣言しても、中々群衆が去らないんだよなぁ。

 国王陛下達が全て立ち去っても、まだ広場を離れずにガヤガヤしている。

 この場にアリスを置くことも出来ないから、ゆっくりとその場を離れて森の中の館まで滑走していった。裏の広場に到着したところで、今度はメープルさんに第2離宮まで送って貰う。

 玄関先で下ろして貰った時に、「これを皆で、食べてください」と大きな包みを魔法の袋から取り出した。


「カニですよ。今夜は王宮でカニ料理になるんでしょうけど、メープルさんまでいきわたるかどうか分かりませんからね」


 大きな目を見開いて、包みを受け取ってくれたけど、「役得にゃ!」なんて言いながら俺に手を振って帰って行った。

 ちゃんと前を見て運転して欲しいなぁ。苦笑いをしながらメープルさんに手を振ったところで、第2離宮に入って行った。

 メイドさんにと一緒にリビングに入ると、皆が上機嫌で俺を迎えてくれた。

 エミー達の隣に座ると、さっそくワインのグラスが渡される。


「国王陛下が大喜びだったぞ。騎士団の獲物を王宮内で見られたからなぁ。貴族達も大喜びだから、リオ殿を謗る者もおるまい。まぁ、良い土産ではあったな」


 国王陛下は居合わせた貴族達とカニを焼いて食べる、と言って周囲を困らせているらしい。場所は宮殿の庭先らしい。

 確かに困ってしまうだろうな。だがたまには息抜きも必要だろう。


「それにしても大きなカニでしたね。両方のハサミを振り上げた時には、淑女達も大きな叫び声を出していましたよ」


 ヒルダ様も嬉しそうだな。

 これでとりあえずは問題ないだろう。


「次に土産を持ち込む時には、前もって知らせて欲しい。カニなら問題なかろうが、リオ殿だからなぁ。チラノ辺りは止めておくことだ」

「さすがに俺だって少しは常識を持ってますよ。次は事前にフェダーン様に相談します」


 うんうんと頷いているから、これ以上文句を言われることは無いだろう。

 だけどフェダーン様だって、近衛兵の乗る獣機が最初の一撃でカニを倒すのを嬉しそうに眺めていたように思えるんだけどなぁ。


「あの大きさですから、宮殿内の人達にそれなりの料理を出すことができるでしょう。今日の日に王宮に来なかった貴族の嘆く姿が目に浮かびます」

「そうだ! これもあるんでしたっけ。カニの足ですけど、今日の料理次第ではサロンに出す料理として使ってください」


 メープルさんに渡したカニの肉と同じように、魔法の袋から包みを取り出してテーブルに乗せると、ヒルダ様がメイドのお姉さんに指示しを出して直ぐに下げさせた。

 一応、冷凍してあるから大丈夫だと思うんだが、悪くなるのも早いと聞いたことがある。あの味を、気に行ってくれれば良いんだけどね。


「さて、どのサロンにお出ししましょう? 今夜はそれを悩んでしまいますわ」

「王侯貴族でさえ食せぬ珍味であると同時に、この上ない美味でもある。国王陛下の言葉は容易に想像できるが……。リオ殿、分かっておるな?」


「もっと、取って来いってことですか? リバイアサンを使うなら結構楽なんですが、俺一人での釣りとなると、さっきのように生きたままになりますよ」

「その命が出た場合は、艦隊を派遣してリバイアサンの代わりとするほかになさそうだな……」


 それも、何かだよねぇ。

 まぁそんなことになったら、艦隊の訓練だということで本音を教えない方が良いだろうな。


「そういえば、面白い物をリオ殿が見つけたと聞いたのだが?」

「見つけたのは見つけましたが……」


 もう、話したってことか。俺の心の準備が出来ていないんだけどなぁ。

 ここは包み隠さず話しておいた方が良さそうだ。


「大きな船を見付けました。たぶん帝国時代の遺物に間違いないでしょう。地中に埋もれていましたが、どうにか中に入って、調査を行いました。その後は穴を塞いでおいたのでハーネスト同盟の調査艦隊に見つかる心配は無かろうと思います。星の海の西岸よりおよそ2千ケム先ですから、あれを発見するにはかなりの危険が伴います」


 こんな船ですと言って、プロジェクターで画像を見せたんだが、やはりカテリナさんと同じ反応だな。首を傾げてみている。


「大きいということだが、どれほどあるのだ?」


 フェダーン様の言葉に、カテリナさんが頷いているから、同じようにリバイアサンのシルエットを重ねてみた。


「あのシルエットがリバイアサンの大きさです。全長はリバイアサンの3倍近くになります」


 俺の言葉を聞いたとたん口をポカンと開けている。


「やはりそうなるわよねぇ。私も言ったのよ。次に何か見つける時には小さい物にしなさいって」

「とんでもない大きさだ……。それで動くのか?」


 どうやら立ち直ったようだ。

 制御室が半分土砂で埋もれていることを話したんだが、武装が何もないことを知ると少し考え込んでしまった。

 利用価値が見いだせないってことなんだろうな。

 あの大きさなんだから、十分にシェルターとして使えると思うんだけどねぇ。


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