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M-320 お土産で大騒ぎ


 今度の休暇はリバイアサンの住人が半数ずつ取ることになった。

 期間は15日だけど、往復に1日ずつ掛かるから実質は13日になる。とりあえず10日以上の休暇だから、誰も不満を言うことはない。

 強いて言えば、エミーとフレイヤなんだけど、3日間のサロン暮らしを我慢すれば別荘でのんびりできるんだからね。それぐらいは我慢すべきだろう。

 俺達はアリスを使っての移動だ。今度はファネルさん達も休暇を取るようだから、王宮で合うこともあるかもしれないな。


「リオはその格好で良いの?」


 これからスポーツでもやるような姿だからかな?

 だけど、今回は第2離宮前の広場ではなく貰った館の裏庭だからなぁ。

 そこでアリスが片膝を付いて座っていたならだれにも気付かれずに済みそうだ。


「王宮だけど、森の中だろう? これで十分さ。ヒルダ様に連絡を出してあるから、今頃はメープルさんがせっせと掃除をしてるんじゃないかな」

「ヒルダ様への挨拶は到着してからってことね。まぁ良いか……。もう少し、ちゃんとしないと誰も伯爵だとは思わないわよ」


 そうは言ってもなぁ……。窮屈な服は着たくないぞ。

 これだって、かなり自分なりに考えているんだけどねぇ……。


 3人分のトランクを紐でつないで俺が曳いていく。相変わらず2人の荷物は多いんだよなぁ。

 前回と同様に、駐機台で待っていたカテリナさんとユーリル様を先に王宮に送ったところで、エミー達を乗せて館に向かった。

 裏の広場に具現化すると、メープルさんが手を振って現れた。

 聞く話では、かなりの高齢らしいから、そんな子供みたいな行動は止めた方が良いと思うんだけどなぁ。


「待ってたにゃ。荷物は下ろして片隅に置いてくれれば後で運ばせるにゃ。お茶を一杯飲んだら、ヒルダ様のところに行くにゃ」

「色々とやって頂きありがとうございます。また学生達が来ると思いますから、昼食の準備をお願いしますね」

「たぶん前より増えると思うにゃ。たくさん用意しておくにゃ」


 増えるかな?

 呆れかえって減る気もするんだけど、メープルさん達の作るサンドイッチは美味しいからね。それにつられてやってくる者もいるかもしれないな。


 エミー達とリビングでお茶を頂き、ベランダに出るとあの気配を探る。

 いたいた。やはりこちらをうかがっているようだ。実害が無いんだから放っておこう。それに館の中の様子を覗こうという気も無さそうだ。


 エミー達が着替えを終えたところで、第2離宮にご挨拶に向かうことにした。

 結局俺と似た格好なんだから、文句を言わないで欲しいところだ。


「玄関に3輪自走車移動してくれたみたい。運転は私で良いわよね」

「ああ、良いよ。お土産を用意したんだけど、喜んでくれるかな?」


 何を用意したかは教えないでおこう。すぐに分かることだからね。

 フレイヤのちょっと危ない運転に車体側面をしっかり握って耐えることになってしまったが、さすがに森を抜けると速度を落としてくれた。

 歩いている人を見かけないのは昼過ぎだからだろう。結構暑くなる時刻だ。


 第離宮の広場の端に3輪駆動車を止めると、玄関の階段を上り大きな扉を叩く。

 直ぐに、ネコ族のお姉さんが現れて俺達を案内してくれる。


「よくおいでくださいました。ユーリル様達はすでに来ておりますよ」

 

 ヒルダ様の言葉に、リビングの奥を見るとソファーの横から手を振っている。カテリナさんも一緒のようだ。


 ヒルダ様の案内でソファーに腰を下ろすと、直ぐに冷たい飲み物が出てきた。

 さっきお茶を飲んできたんだよね。もう少し経ってから頂こう。


「エミー達にたくさん招待状が届いていますよ。でも、参加するのはこの4つにしておいた方が良いわね」

「他は物珍しさで招待状をよこしたということでしょうか?」


 俺の問いに、笑みを浮かべて首を振った。

 となると、目的が問題だということになるんだろうな。


「どちらかと言えば、勢力争いに巻き込まれかねません。夫の派閥に取り込むには先ずは奥方を味方に……、ということです」

「軍略家並みの考え方ですね。判断して頂き、ありがとうございます」


「リオ君達が王都に住んでいたら、いずれ派閥争いに巻き込まれることになりそうだけど、今のままなら問題はないわ。強いて言うなら、マクシミリアン派になるでしょうね。軍の派閥だから、王宮貴族はあまり手を出さないはずよ。何かあればマクシミリアン家から先に誘われていると断ることも可能よ」

「それだと、マクシミリアン殿に迷惑が掛かりそうですけど」


「リオ君なら笑って頷いてくれるわよ。例の件、マクシミリアンに話を付けたわよ。驚いていたけど、すでに工廟での製作が始まったわ」


 その時に話を付けてくれたのかな? カテリナさんに頭を下げると笑みを浮かべて頷いている。


「3日間の予定だと聞いていましたが、4日にして頂けませんか? 1日に1つのサロンなら、前回のように気疲れすることはないと思うのですが?」

「構いませんよ。残った日々を別荘で過ごすだけですから。連絡はこちらでしておきます。それと、王宮には獣機の部隊が常駐していると聞いたのですが?」


 首を傾げたヒルダさんが頷いてくれたから問題なさそうだな。

 

「まさかと思うけど……。持ってきたの!」

「辺境の珍味ですし、一度は国王陛下にも食べて頂こうかと」


「ヒルダ。獣機を1個分隊に戦機を2体、完全武装状態で広場に待機させて頂戴。それと大型貨物用の荷台を曳いた自走車が3台はいるんじゃないかしら」

「ものものしいですけど……。それほどのお土産ということですか?」


「生きてるカニなの。甲羅だけでもこのテーブル6個分程あるんじゃないかしら? 美味しいことは間違いないけど……、本当に困ったリオ君ねぇ」


 喜んでいるのか怒っているのか、微妙な表現だけど、フレイヤ達が呆れているところを見るとやはり持ってこなかった方が良かったかな?


 ヒルダ様が、メイドを呼んで大至急宮殿に伝えるように頼んでいるから、用意が整ったら始めよう。

 王宮勤めの兵士や騎士だって、ここで本物と戦えるんだからね。

 訓練の成果を見せて欲しいところだ。


「こんなことが日常茶飯事なんだから、王都で暮らすのは私には退屈でしょうがないわ」

「リオ様には色々と教えを受けています。私も退屈はありませんね」


 自由奔放の2人の意見だから、さすがのヒルダ様も笑みが少し冷たく感じてしまう。

 ヒルダ様にタバコを見せると、頷いてくれたので1本を咥えて火を点ける。


「カニを最初に食べたのはローザ達だったことは話したでしょう? 私達も何度か食べたけど、煮ても焼いても美味しかったわ。向こうで始末した後で凍らせたら味が落ちてしまうから、リオ君の判断は正しいことは間違いないんだけど……。王宮の獣騎士達はちゃんと訓練をしてるんでしょうね?」

「聞く限りでは訓練をしているらしいわ」


 自信が無さそうだな。場合によってはアリスに始末してもらうことになりそうだ。


「一応、アリスを広場に呼び寄せます」

「そうした方が良さそうね。あの大きさだもの、怪我で済めば上等かもしれないわよ」


 パタパタと足音が聞こえてきた。扉が開き、メイドのお姉さんがヒルダ様の耳元で何か囁いている。


「分かりました。国王陛下にも困ったものね。今日は大事な会議だと聞いていたのですけど、もう直ぐやってくるそうです」


『アリス。第2離宮の前の広場に来れるかい?』

『用心棒ということですね。了解です。……移動完了しました。宮殿方向から自走車の車列と獣機部隊、それに戦機が4機移動してきます』


 戦機が4機あれば十分だろう。用意したカニは5匹だからね。獣機だけで倒して欲しいところなんだけどなぁ。


「大勢でやってきたみたいですね。アリスを広場の片隅に待機させました。獣機であれば十分に倒せると思っているんですが……」

「たぶん今年一番の王宮の見世物に間違いないわ。宮殿内にいた貴族達も来るでしょうから、近衛兵も小隊規模でやってくるわよ」


 そんなに大げさにしないで欲しかったな。

 新鮮な食材を持ってきただけなんだけど……。


 扉が叩かれ、ネコ族のお姉さんが俺達に、国王陛下の来訪を告げると頭を下げて出て行った。

 ヒルダ様が立ち上がったのを見て、俺達も腰を上げて待つことにした。

 直ぐに、ネコ族のお姉さんが再び扉を開いて頭を下げる。その横から入ってきたのは、国王陛下にフェダーン様そしてトリスタンさんの3人だ。


 ヒルダ様が国王陛下をソファーに座らせると俺達に頷いてくれた。それを合図に俺達も腰を下ろす。


「ここは略式で構わん。知り合いばかりだからな。獣機部隊を用意するようにとのことを聞いて、フェダーンが紅茶のカップを落としたのには驚いたぞ。

 話を聞くと、多分生きた状態で運んできたのだろうという事であったが、それなら是非とも、獣機で仕留めなければならないようなカニを見たいということになってなぁ」

「その場にいた会議の連中が、全員是非とも見たいと言うことになってな。会議は中断、先ずは見物ということになってしまった」


「アリスが待機しているなら、国王陛下の安全は担保できそうだが、命の保証は致しかねると言い聞かせてから問題はあるまい。近衛兵達もやる気満々であったぞ。多少の怪我は名誉になるはずだ」


 なんか大事になってしまったな。


「申し訳ありません。こんな騒ぎになろうとは思いませんでしたから。ローザ様から『珍味じゃった』との言葉を聞き、何度かカニを手に入れて食べましたが、どのように料理しても美味しく頂けます。一度国王陛下に味わって頂こうと思い、新鮮な状態で運んできた次第です」


 俺の言葉をうんうんと嬉しそうに聞いているのは、お土産のカニが嬉しいのか、この騒ぎが嬉しいのか微妙なところだ。


「国王陛下もまいられましたから、そろそろ始めましょうか?」

「もう少し待ってくれ。今準備を整えている最中だ。終わったなら連絡が来る手筈になっている」


 トリスタンさんの言葉が終わらない内に、ワイングラスが運ばれてきた。

 そんなに準備が必要なんだろうか?

 たぶん、見学者が揃うのをなっているということなのかな?

 お立ち台を作っているなんてことは無いだろうな? だんだん不安になってきたぞ。


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