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M-318 帝國の歴史


 砦作りも4か月を過ぎるとだいぶ形が出来てきた。

 当初は3年ぐらい掛かるかもしれないと思っていたんだが、さすがはブラウ同盟軍の工兵部隊だな。みるみる形が出来ていく。


「来月には、工兵部隊をさらに1個中隊増強します。少し工程が進んでいますから、午後には各中隊長を呼んで調整会議を行う予定です」

「行程の進捗が早くとも、問題はあるということか……。だが、悪いことではあるまい。支障がある場合は進み過ぎた現場の中隊に一時休暇を与えることも可能だろう」


 フェダーン様の言葉にファネル様が頷いている。

 それほど長期でなくとも、2、3日の休みを取らせるぐらいなら士気が下がることは無いはずだ。


「休暇と言えば、そろそろ部隊を入れ替える時期ではないか?」

「はい。それもあるので中隊長達と工程会議をするのです。導師が貨客用の飛行船を新たに作ったと聞きましたので、高速輸送艦と飛行船を組み合わせて部隊の入れ替えを行うつもりです」

「なるほど、リオ殿達も2週間ほど休めそうだな。エミーに工程会議への出席を依頼しておけば良いだろう」


 朝の周辺偵察を終えて指揮所で状況報告をしていたのだが、休暇の話を聞くことが出来た。

 そういえば前回の休暇から2か月近く経っているんじゃないかな?

 工兵部隊の入れ替えに合わせての休暇のようだから、エミーに詳しく聞いてきて貰おう。

 

「リオ殿を学生達が待っているのではないか? ユーリルが面白い話を聞いたと言っていたぞ」

「ユーリル様も聡明なお方ですから、興味があったということなんでしょう。この頃は夜になるとデッキで望遠鏡を眺めていますよ」


「風邪をひくような体ではないが、あまり体を冷やさぬように伝えておいて欲しい」

「了解です」


「夜に望遠鏡を覗くのはあまり意味がなさそうに思えるのですが?」

「星を眺めているんです。神官見習いの娘さんと一緒に、星の地図を作ろうとしてますよ。完成したら結構役立ちますよ。正確な時計があれば、夜でも現在位置を特定できますからね」


 また妙な事を始めた……。という口調のファネル様だったが、俺の説明を聞いて、俺とフェダーン様の顔を交互に眺めている。


「勧めたのはリオ殿ではないのか?」

「星の動きは微々たるものですから、『夜空の星の位置は変わらない』と言った事を確認しようとしているのではないかと思います」

「なるほど、それを図に表そうというのは、ユーリルの考えということだな」


 笑みを浮かべたフェダーン様が頷いている。

 おかげでせっかく手に入れた望遠鏡に妙な器具が取り付けられてしまったし、望遠鏡の位置を変えると怒られるんだよね。

 また、俺専用の望遠鏡を買ってくるしかなさそうだ。


 指揮所を後にして、プライベート区画に向かう。

 ソファーに腰を下ろしてタバコを取り出していると、マイネさんがマグカップに注いだコーヒーを運んでくれた。


「今日は早く終わったにゃ」

「ヴィオラ周辺と砦の周辺偵察だけでしたからね。ヴィオラ騎士団の方は、今頃数頭のチラノを狩っていると思いますよ。ドミニクがやる気満々でした」

「稼げるときに稼ぐのは良いことにゃ」


 うんうんと嬉しそうに頷いてカウンターの向こう側に帰って行った。

 マイネさんも段々騎士団に感化されてきたんじゃないかな?

 王宮のメイドの戻れるんだろうか? ちょっと心配になってきた。


 カテリナさん達がいないから、例の宇宙船のファイルを覗いてみるか。

 かなり膨大な情報が記録されていたようだ。オルネアの結晶体の記録装置と比べるとどちらが新型なのかと考えてしまうが、とりあえずは情報が記録されていたことを喜ぶべきだろう。

 帝國の歴史というファイルを開けると、年表が表示された。どうやら年表のその年の特記事項に沿って詳細情報を探れるらしい。

 色の異なっているところは……、どうやら、敵対勢力ということになるのかな?

 あの宇宙船が不時着した場所は敵対勢力の真っただ中だったということなんだろう。

 さぞかし凄惨な戦いが起こったに違いない。


 年表の最後の記載と、最初の記載の間の年月はおよそ3千年……。これなら科学も発展しただろう。最初に大気圏を脱出してから500年近い歴史がある。

 大偉業が達成されてから、150年後に帝国の崩壊が始まったようだ。年を追うごとに戦火が広がり、この年表の最後の記載は宇宙からの動員の始まりになっている。

 

 魔法については、バイオテクノロジーによるエーテルの制御の始まりという項目がそれにあたるのだろう。

 少し読んでみるか……。


帝國歴4211年。『エメルニア女史』、エーテルの存在を確認。

 帝國歴4245年。『ヨクルム氏』、人間の意思によるエーテル制御理論を発表。

 帝國歴4247年。『グルアズ氏』、無から炎を出す公開実験。

 帝國歴4251年。『ガネルネモス教』の神聖文字によるエーテル制御方式の確立。

 帝國歴4312年。エーテル制御による一連の事象を『魔法』と定義。

 帝國歴4315年。『オベルナン氏』、エーテルの結晶化に成功。『魔石』と命名。

 帝國歴4317年。『オベルナン氏』、エーテルの結晶体の『属性』化に成功。

 帝國歴4318年。『ガルツモア氏』、生物改変によるエーテルの効率的抽出に成功。

 帝國歴4321年。『ガルツモア氏』、生物改変によるエーテル結晶体の生成に成功。

 帝國歴4331年。『オルバート氏』、魔道機関の発明。

 帝國歴4355年。『ベルッティ女史』、魔石の融合理論を発表。

 帝國歴4412年。『パンデル氏』、魔石融合に成功。

 

 エーテルというのが魔気なんだろうな。

 存在を知ってから実用化まで120年ほど掛かったのか……。リバイアサンの動力炉が魔石融合によるものだから、帝國歴4412年以降製作されたことになる。

 まさしくこの時期が、魔道科学と自然科学の絶頂期ということなんだろうな。

 それにしても、脳神経学がそこまで発展していたとはねぇ……。

 バイオテクノロジーの発展も度が過ぎている感じだ。遺伝子操作により変種を次々に作ったんだろう。イヌ族やネコ族の子孫はそんな実験成果をもとにしたバイオ戦士ということになりそうだ。

 寿命が人間より短くとも、兵士としてなら十分と考えたんだろうか……。反吐が出る

連中だぞ、まったく。人間の尊厳を何だと思っているんだろう?


 だが奇妙なことに気が付いた。

 これほどまでに科学を発展させたのなら、ナノマシンも作られているように思えるのだが、それに関わるような記載はどこにもない。


『魔道科学の発展が原因かと推察します。生体工学と融合した魔道科学はホムンクルスやゴーレムの製作まで可能にしています。電脳はそれまでのシリコン結晶体から生体電脳に変化したようですね』

「人間の脳を電子回路で模擬するにはかなりの大きさになるらしいからね。それならシナプス細胞を培養した方が早いってことか……」


 帝国の内乱の始まりは、予想通りの継承権争いのようだな。若くして亡くなった皇帝の十数人の子供はいずれも10歳未満だったらしい。

 普通なら長子継承なのだろうが、生憎と病弱ということから次男、三男を担ぐ輩が現れたということなんだろう。

 宮廷内での毒殺や、不慮の事故で子供達が次々と亡くなったのはどう考えても腹黒い連中の仕業に違いない。

 とうとう王宮の破壊に及んだところで、2人の王子が大陸の正反対方向に逃れたらしいが、担いでいった貴族連中がそれぞれ正当性を主張したんだろうな。

 皇帝の死から3年後に内戦が始まったらしいが、10年後には大きな都市が全て破壊されたというんだから、すでに後戻りはできない状態になってしまったんだろう。

 泥沼の内戦の中で獣機や戦機が作られたらしい。

 毒ガスや生物兵器が使われ始めたのは、内戦が始まって100年も経過していない。

 最初の反応弾は内戦開始の150年後のことだ。

 バイオテクノロジーで常人を超える兵士が次々と作られ、相手の陣営を完全に根絶やしにすべく世界が動いていたんだろうなぁ……。


「これか! 魔石融合実験の成功は、平和目的だけにしておくべきだったな」


 あいにくと、魔石融合の最初の実験は新型爆弾によって確認されたものだった。核兵器よりも強力な武器としての登場だが、最初は使われなかったようだ。

 あまりの威力に、怖気付いたに違いない。それとも運搬手段が無かったんだろうな。

 実戦で使われたのは、最初の魔石融合弾の実験から数十年の時が流れていた。

 1発を打てば2発を撃ち返すということを繰り返していたんだろうが、数年も経ずに内乱が沈静化に向かったらしい。

 帝國歴4859年。この年、世界に戦の音が無い。との記載で年表が終わっている。

 たぶん小競り合いはさらに継続したのだろうが、互いの陣営の資源が枯渇したのだろう。兵力、食料、武器……、たぶんその辺りだろうな。

 世界を壊したんだ。当然その報いは受けたに違いない。


 今の世界は王国制を取っている。民主的とは言えないが、民衆の幸せを考えていることは確かなようだ。

 現在の国王が急に亡くなったとしても、しっかりと王国は続いていくだろう。

 だけどなぁ……。これは、教えるべきなんだろうか。

 大帝国が、継承権の争いで滅んだとはねぇ。それほどまでに権力が集中したのかと思うと少し怖いところもあるが、反面教師として王族の人達だけにも教えるべきかもしれないな。


「あら? 何を悩んでいるのかしら。次の休暇にはまたゼミを開いてね。先方には連絡してあるから、学園中が大騒ぎしてるらしいわよ」


 カテリナさんとユーリル様がリビングにやってきた。

 カテリナさんが俺の隣に腰を下ろすと、抱きかかえるようにして俺の見ていた仮想スクリーンを眺め始める。

 少し距離を置いて座ったユーリルさんが、俺達を見て笑みを浮かべながら口元を押えているのは、笑い出す寸前という感じだな。


「またじゃれてるにゃ。大人になっても人間族はじゃれつく人がいると母さんが言ってたのは本当だったにゃ」


 マイネさんがやってきて、2人に紅茶のカップを渡しているけど、この頃皮肉が多くなってきたな。やはり俺達に呆れかえっているんだろう。


「これは肌と肌の触れ合いということなの。大事な愛情表現なのよ?」

「あまり人前ではやらない方が良いにゃ。エミー様達の矜持もあるにゃ」


 マイネさんはエミーの見方だからなぁ。俺はエミーの物という感じで見ているに違いない。

 とりあえずタバコでも吸って、場をごまかそう。


「珍しいものを見てるわね。古代帝国の文字のようだけど、リオ君は読めるのよね」

「神殿の古老でも部分的に読むことができるだけと聞きましたが?」

「リオ君は特別よ。おかげで隠匿空間を開くことも出来たし、このリバイアサンだって動かせるようになったでしょう? ……この部分は数字よね。それに続く短い文となれば、年表のようなものかしら?」


「さすがはカテリナさん、凄い洞察です。年表ですよ。でもこれをどうしようかと、先程から悩んでいたんです」

「悩む理由? ひょっとして帝国内戦の始まりが分かったということ!」


 ハグしていた腕の力が強まった。

 俺だから良いようなものの、他の人ならば悲鳴を上げるほどの力だ。

 ここは、ある程度話して助言を受けた方が良いのかもしれない。そうでもしないとこのまま締め続けられそうだ。


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