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M-317 シェルターとして使えそうだ


 土砂が噴水のように吹き上がっていく。

 ある意味壮観ではあるけど、アリスの能力を使うなら砦の建築は案外簡単なのかもしれないな。

 みるみる直径15mほどの穴が深く掘り下げられていくのが、上空から良く見えるんだよね。

 深さ10m程の穴が、それほど時間が掛からずに出来上がってしまった。


『下りてみましょう。ライトはありますよね?』

「魔法が使えるから明かりの心配はないと思うよ。でも念の為に、ライトはバッグに入れてあるよ」


 穴の底はさすがに暗いな。

 アリスのコクピットを下りて金属製の躯体の上に下りると、くすんだ銀色の表面にハッチのような部分がある。

 直径2m近いんだが、これがこの船体の出入り口なんだろうか?

 さて、どうやって開けようかと考えていると、アリスが躯体に手を付いた。


『やはり扉ですね。電動扉ではありますが、手動でも開きそうですからマスターを扉の内側に亜空間移動することにします。扉の内側にハンドルがありますから出る時には手動で開けられますよ』

「内部調査もしてくるよ。かなり広そうだけど、状況を見ていてくれないかな?」

『了解しました……。それでは、移動させます!』


 薄暗い場所から、真っ暗な場所に移動した。

 ここが内部ということになるんだろう。とりあえず【シャイン】と魔法を呟くと俺の頭上に直径50cmほどの光球が出現した 。点光源というわけでは無いから、これで十分に周囲を観察できそうだ。

 先ずは扉を見たんだが、円筒状の通路の前後に2つ扉がある。どちらも同じように見えるが、片方の扉には『外部』と文字が書かれていた。

 扉の真ん中にハンドルが付いているから、これを回せば自力で開けられるということなんだろう。

 さて、奥に進んでみるか……。

 通路にはうっすらと塵が積もっている。

 俺の足跡が残っているから、帰りは足跡をたどれば問題なさそうだな。

 もう1つの扉を、ハンドルを操作して開くと大きな部屋に出た。

 色々と工具や部品が散らかっているけど、歩けないわけでは無い。

 工具の1つを手に取ってみたが、結構軽い金属だ。これもチタン製ということになるんだろう。

 ぼろ布のような物体を見ていて、急に気が付いた。

 これって、宇宙服なんじゃないか?

 かつての帝国は大宇宙にまで版図を広げていたということなんだろうか?

 

「これは驚きだね。これって宇宙船だよ。こんな大きな物体を宇宙に飛ばせることが出来たということなんだろうね」

『右手の机を見てください。端末だと思いますが、時代に合っていませんね。個人所有の物だったかもしれません』


「記録を見ることができれば良いんだが……」

『電源がありませんから、マスターから誘導電流を流し込んで記録回路を探ってみます。一時的ですが、マスターの体の制御を行います』


 俺の意思とは関係なく体が動き始めた。

 机に向かって歩いていくと、ディスプレイの残骸とキーボードの残骸がある。これでは使い物にならないだろうが、本体内のメモリー素子が破損していなければ、アリスは読みだすことができるらしい。


 一辺が15cm程の立方体にケーブルの残骸がまだ残っていた。

 その立方体を、俺の手が引き裂いていく。

 中は結構隙間がある。その中の基盤を1つ引き出すと、空間にひずみが現れ、底に俺の手が勝手に基盤を放り込んだ。


『損傷がひどいようですので、亜空間内で解析を始めます。マスターは調査を続けてください』

「了解だ。分かったら教えてくれよ。この先に進んでみるが、やはり無人のようだね」


 さて自分の意思で動けるようになったところで、もう1つあった扉を開く。

 今度は力任せだ。元々は自動ドアだったのかもしれないな。

 部屋を出た先は回廊だった。左右に扉を見付けたけど、かつては会議室に使われていたらしいな。大きなテーブルが朽ちかけていたし、椅子が10客程どうにか形を保っていた。


 エレベーター室のような部屋もあったし、休憩所らしきものも見つけた。

 最後に回廊の突き当りに合ったのは両開きの扉だった。

 これを力任せに開けると……。


「驚いたな。ここは制御室のようだ」

『半分が土砂に埋まっていますが、確かに制御室で間違いないようです。しかも、3次元レーダーらしき残骸もありますね。船体の構造が判明しました。かなり大きいですが、元々は惑星間を飛ぶために作られたようです。約1500名の乗員を3年間航行させる能力があります』


「戦闘艦では無いんだね?」

『武装がありません。惑星間の貨客船として使われていたようです』


 基盤解析により、この宇宙船の最後の航海は、月から兵員を輸送してきたらしい。

 この大地だけでなく、月や直ぐ外側を回る惑星までも巻き込んだ戦になっていたのか……。


「となると、月や惑星には未だに人が住んでいるんだろうか?」

『全て、退去したとの記録がありました。この宇宙船も定員オーバーの3000人を運んだようです。その後の月や惑星がどうなったかについての記録は残されておりません』


 アリスと俺だけなら出掛けられると教えてくれた。

 1度行ってみることになりそうだな。フレイヤ達には内緒にして出掛けてみよう。ちょっと遠くに行ってくると言えば、2泊3日程度の調査なら可能だろう。


「気になるのは、この宇宙船の動力炉になるんだけど?」

『核融合炉を使って初期の半重力制御をおこなったようですね。とはいえ姿勢制御にはスラスターを使っていたようです』


 要するにハイブリッドということになる。

 帝国内に内乱が起きなければ、やがては他の恒星系にまで足を延ばしていたかもしれない。


「動くのかな?」

『かなり損傷しているようですね。少し傾いているようですから不時着したのかもしれません。その後、使える物は全て持ち出されたと考えるべきでしょう』


 大破したわけでは無いんだろう。何とか利用できないかな?

 この大きさなら、十分に拠点としても使えると思うんだけどね。


 エレベーターが使えないから、下の階には、階段を使って移動する。

 リバイアサンより広い時からなぁ。1日ではとても見切れない。

 それでも、アリスの解読した宇宙船の見取り図を使って、主要な部屋を見て回る。


 居住区域がやたらとあるし、簡単な水耕栽培を行っていた部屋もある。

 20階ほど、下りた時だった。

 そこは分厚い扉で閉鎖されている。とてもでないが俺に開けられるようなものではない。


『動力室と駆動装置のある部屋ですね。4方向に設置されているようです。私がその場にいれば開けられるのですが……』

「無理はしない方が良いだろう。とりあえず核融合炉は停止しているんだね?」

『燃料枯渇で停止しています。燃料を補給したなら再駆動が可能かもしれません』


 できれば地上に移動したいところだな。

 躯体構造がチタン製なら、安全なシェルターとして使えそうだ。

 1日掛けて船内を探索したが、使えそうな品はどこにもないし、動力部は開けるのが少し面倒らしい。

 完全に反応炉の火が消えているからなぁ。少しでも動くなら移動も簡単なんだけどね。

 

「だいたい見て回ったかな。アリスの方でそれ以降確認できたことは無いかな?」

『特にありません。この船の記録は全て解読してファイル化しましたから、プロジェクターを使って再生可能です』


 なら帰るとするか。

 船内の座標位置も確定したところで、アリスのコクピット内に亜空間移動を行う。

 掘った穴を適当に埋め戻したところで、リバイアサンへと戻ることにした。


 時刻は0時を過ぎている。

 カウンターのコーヒーを温めて、ハンカチを被せてあったサンドイッチを頂くと、直ぐに大浴場に向かった。

 大きな風呂で、彫像に囲まれながら手足を伸ばす。

 それにしても、大陸の西にはあの宇宙船だけなのだろうか? それほど広い範囲を飛行したわけでは無い。まだまだ地図化を行うために飛行する場所は多いし、北の大山脈と南の海は手つかずも良いところだ。

 まだまだあると考えるべきなんだろうな。


「あら! リオ様ではありませんか?」


 声の主に目を向けると、ユーリル様が彫像の隣で同じようなポーズを取っている。

 裸なんだから少しは恥じらいを持ってもらいたいところだけど、お風呂だからねぇ……。

 ゆっくりとお湯に入り、俺の傍にやってきた。


「先ほど探索から戻ってきたんです。ユーリル様こそ、この時間は少し遅いように思えるんですが?」

「少し考え事をしていました。カテリナ様がこの大地と太陽の関係を教えてくれましたが、確かに四季の移り変わりと太陽や月の位置が季節ごとに替わることを上手く説明できていると思っています。ところで、回っているのはそれだけなんですか?」


 なるほど、確かにその先はどうなのかと考えてしまうだろうな。

 カテリナさんは、そこまでで満足してくれたんだけど、ユーリル様は少し違うようだ。


「太陽を中心として、いくつかの星がその周りを回っています。まだ3個ほどしか知られていませんが、数はもっと多いと思いますよ。

 でもユーリル様の疑問はそんな話ではないですよね。太陽自体が動いている可能性があるのではないか……。洞察力に感心してしまいます。確かに動いています。でもそれをどれだけ理解できるか……。

 アリス。銀河系と銀河団について説明できそうな映像を出せるかい?」


『この惑星が、同じ銀河系とは限りませんが、渦巻き状星雲であることは間違いなさそうです。銀河、渦巻き状星雲、銀河団、銀河群などの画像を順次表示します』


 美人をお風呂で抱きながら、大宇宙の構造を説明することは想像もしなかったな。

 俺の説明を聞きながら、食い入るように仮想スクリーンの画像を眺めているユーリル様はこの世界で再び天文台を作るんだろうか?

 昼時に探索した宇宙船の記憶基盤の中には、かつての天文学の成果もあったんじゃないかな。

 


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