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M-315 大陸の西岸まで行ってみよう


 砦建設が始まって3か月が過ぎようとしている。

 朝夕の周辺偵察は俺の日課になってしまったけど、これはこれで結構楽しみでもある。

 帝国時代の拠点を順次調査しているから、ハーネスト同盟軍の調査隊より先んじているし、いまだにヤバそうな兵器は確認していない。


「やはり、戦機と一緒に砂の中に埋没してるんだろうね。さらに西に調査を伸ばしたい気もするけど、それは星の海の西岸に砦を築いてからでも良さそうだ」

『自己補修を行える兵器が、必ずしも拠点にあったとは限らないということでしょうね。地道な調査を行うことになりそうです』


 気の遠くなるような話ではあるが、その前にハーネスト同盟の2王国を何とかしないといけないだろうな。

 ブラウ同盟軍としては攻め込むことは考えていないようだが、ハーネスト同盟軍は未だに軍備を増強しているらしい。

 直ぐに戦が始まるようなことは無いだろうけど、10年以内には再び動きだしそうに思えてくる。


「ところで、星の海の西岸はずっと荒地が続いているんだろうか?」

『時間もありますし、一度大陸の西岸を見てみましょうか?』


 高度1万mを音速の3倍で飛行する。これでも2万kmほどらしいから、5時間程度で西岸に到達できそうだ。

 もっと速度を上げたいところだが、地上を撮影して地図化するためにこれぐらいで飛ぶとアリスが教えてくれた。

 往復で300kmほどの区間を地図化できるということなんだろうが、南北千kmほどを地図化したいところだな。


『帝国の遺産が地表に露出しているかもしれません。画像解析を行うために速度を制限します』

「そういう事なら、仕方がないな。一応、エミーに知らせておいたから、帰えりが遅くなっても大丈夫だろう」


 万が一の事態には、亜空間移動を行えば問題は無い。

 複数の仮想スクリーンを作って、地表の拡大画像や、熱画像などで調査を行う。

 やはりどこまでも荒地が続いているようだ……。


 そんな事を考えていた時だった。前方に光る筋が見えてきた。近付くとそれが大河だと分かる。かなりの川幅だ。推定でも500mはありそうだ。

 川の両側には幅が狭いグリーベルトが出来ている。

 

「川があるんだ。星の海からどれぐらい離れているんだろう?」

『およそ5千kmです。帝国時代には無かったようですね』


 大陸の地形を変えるほどの戦だったからなぁ。

 あの川にはどんな魚がいるのか、ちょっと興味がわいてきた。


『前方に湖です。グリーンベルトは星の海よりも広いようです』

「少し離れた場所にもオアシスのようなものがあるね。水系が一緒なんだろうな。この辺りなら大きく農業が出来そうだ」

 

 グリーンベルトを取り囲むように草原がある。幅が数kmほどあるから、いろんな獣が生息しているに違いない。

 湖は青々とした水を湛えている。何となく深そうだ。

 それに東西にかなり長い。対岸まで100kmを越えているだろう。南北にも長いようだ。


 湖を超えると再び荒地が広がっている。

 そんな荒地の上空で高度を落とし、アリスの手の中でしばしの休憩を取る。

 水筒に入れてあるコーヒーを飲み一服を楽しむ僅かな休憩だが、ふと北に目を向けた時だった。何かが光っている……。よく見ると、荒地に立った柱のようなものが太陽を反射してるようだ。

 双眼鏡を取り出して眺めてみると、どう見てもマストが砂の中から飛び出しているように見える。

 急いでコクピットに戻り、マストの上空に移動した。


『かなりの大きさです。直径1.5kmほどありますよ。反跳中性子線分析の結果では、あのマストはチタン製です』

「リバイアサンの対抗兵器ということかな?」

『調査してみるべきでしょう。幸いにも星の海から1万km以上離れていますから、ハーネスト同盟の艦隊もここまで来ることはないと推察します』


 座標を確認したところで、再び西に向かう。

 やはり星の海の西は鬼門だな。何があるか分からないぞ。

 

 5時間も飛行を続けると、ようやく大陸の西岸が見えてきた。

 砂漠がそのまま海に落ち込んでいるようにも見える。遠浅の海が南北にずっと連なっていた。

 目を西に凝らすと、ぼんやりと大陸の東端は見える。幅500kmほどの海峡が北に聳える連峰の奥に隠れた海と南の海を繋いでいるのだ。

 あの東側からスコーピオが海に帰って行ったのだ。となると、この辺りにも上陸したと思えるんだが、痕跡すら残っていない。

 食べ残しのスコーピオは砂漠の魔獣達に食べられてしまったんだろうか。


「さて帰ろうか。北に移動してリバイアサンに戻れば良いのかな?」

『そうですね。次に来るときには、その南北を飛べば少しずつ地図が広がると思います』


 今度は東に向かって飛ぶことになった。帰る頃には夕食も終わっていそうだ。

 マイネさんはちゃんと夕食を残しておいてくれるだろうか?

 そんなことを心配しながら、一路東を目指す。

              ・

              ・

              ・

 深夜にリバイアサンへ到着したから、プライベート区画のリビングには誰もいなかった。

 カウンターにリオ様と書かれたメモの付いた布を開くと簡単なサンドイッチが山になっている。

 いつ帰るか分からないから、サンドイッチを作ってくれていたようだ。コーヒーを温めて、ソファーセットに夜食を運ぶと、1人で頂くことにした。

 仮想スクリーンが開かれ、改造した駆逐艦の3Dが表示される。


「これかい? 魔改造っていうやつなんだろうな……」


 駆逐艦に本来搭載されていたはずの砲塔群が全て撤去され、航空母艦のように横に張り出すような形で、小さなブリッジが設けられている。

 その甲板部分を利用して、長砲身の大砲が砲塔を持たずに設けられているのだ。

 自艦の防衛は両舷の機関砲モドキだけのようだ。単独航行などしたら直ぐに大破させられそうな代物だぞ。


「大砲の口径は?」

『270mmです。300mmにすると、躯体が持ちません』 


「この戦闘艦、いや砲艦専用の砲弾というのも問題だろうな。重巡洋艦の主砲は240mmだったと思う。それを使った方は良いだろうな。やはり、軸線上にしか打てないんだろう?」

『仰角は-5度から+40度まで、左右の旋回は±5度に調整が可能です』


 やはり軸線上での使用になりそうだな。それより、嫌に舷側が膨らんでいるのが気になるんだが……。


「この膨らんだ舷側部分は、副砲を搭載してるのかい?」

『地面にアンカーを打って船体を固定するための装置を収納しています。砲弾発射時の反動で駆逐艦が動いてしまいます』


 なるほどね、使用時には固定砲台となるってことか。

 単独運用は無理でも、駆逐艦と艦隊を組めば西の国境線上の任意の位置に大型砲台を持てるということになる。

 長砲身なら射程も長いからなぁ。案外敵の重巡洋艦よりも射程が長いかもしれないぞ。


『最大射程はおよそ20km。観測射撃が必要でしょう』

「飛行機や自走車が使えるだろう。それで改造費用は?」

『リバイアサンで作るなら、金貨100枚程度で済みそうです』


 予算が無いな。頑張って魔獣を百体程狩らなければ工面できそうにもないぞ。


 大きな溜息を吐いて、タバコの箱に手を伸ばそうとした時だ。

 俺の隣にカテリナさんが滑り込んできた。

 手にワインのボトルとグラスを持っているから、俺と飲もうと思っていたんだろう。


「また何か考えてたのね……。これって、駆逐艦なの?」


 画像を面白そうに眺めながら、ボトルの封を切ってグラスのワインを注ぎ、俺に手渡してくれた。


「領土防衛用の砲艦です。マクシミリアンさんの領地に作る拠点は軍事拠点ではありますが、常時艦隊を停泊させることは出来ないでしょう。

 連装ロケット発射装置を搭載した駆逐艦を数隻用意するのがせいぜいだろうと思っています。

 それに対して、向かって来るとなれば戦艦を要した艦隊ですからね。簡単に蹴散らされます。そのための飛行機部隊を用意していても、艦隊の進行を止めることは出来ないでしょう」


「そのための砲艦ね。でも艦隊相手に砲艦は威力不足よ」

「口径16イルムでもですか? 駆逐艦に18イルムまでは搭載できそうなんですが、砲弾の流用を考えると重巡の主砲と同じ砲弾ということで、この形にしたんですが」


「呆れた……。重巡と同口径なのね。でも駆逐艦で反動に耐えられるの?」

「このバルジにアンカーを内蔵しています。発射時には、船体を固定しなければなりません」

「砲艦というより、移動砲台という感じかしら? 建造費はどの程度になるの」


「アリスの試算では既存の駆逐艦を金貨100枚程度で改造できるとのことです」

「アリス。この移動砲台の設計図は出来てるんでしょう? プリントしてくれないかしら。フェダーンに相談してみるわ。上手く行けば軍が試作してくれるはずよ。移動砲台に関してはフェダーンが昔欲しがっていたの。重巡で諦めたらしいけど、数を作れないでしょう」


 それなりに需要があるってことかな?

 特許を要求できるかもしれないな。


「それで、だいぶ遅かったわね。何か見つけたのかしら?」

「見つけたというか……、大陸の西の端まで行ってみたんです。北の回廊が完成しても、その西に広がる広大な大地が全くの未知の土地では困るんじゃないかと、簡単な地図を作ろうかと。とりあえず、星の海の西岸に沿って西に飛べば簡単な地図が出来そうです」


「出来たら見せて頂戴ね」

「もちろんです。大河や大きな湖もありましたよ。魔獣の脅威が無ければ直ぐにも入植者を送れると思えるほどでした」


 うんうんと笑みを浮かべて頷いている。

 入植は難しくとも、そんな場所に砦を作ることができると考えているんだろうな。

 今日見付けた、帝国時代の遺物については黙っていよう。

 ある程度、見極めがついたところでフェダーン様達を交えて報告すれば十分だろう。


「さて、食事も終わったことだし……。ゆっくりとお風呂でこの間の疑問について教えて貰おうかしら」

「これからですか? だいぶ夜も遅いように思えるんですけど」

「邪魔する人も来ないはずだわ」


 カテリナさんに手を引かれて、今日は階段を下りていく。

 今夜のカメレオンはどんな入りになってるんだろう? 見るたびに色が変わるんだよね……。


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