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M-314 サザーランドまでの調査


『重力変異が確認できました。この真下ですが、変化は見られません。水中に潜って、振動等を確認してみます』


 アリスが星の海にダイブする。

 水中の深さは、20mにも満たないようだ。遺跡は厚い泥に埋まってしまっているのだろう。

 泥の中にプローブを突き刺して、反応を確認するがやはり静かなものらしい。

 金属反応も小さいものばかりで、大型兵器はこの場所にはなさそうだな。


「完全に破壊されたようだね。これでは稼働兵器は無いんじゃないかな」

『次に向かってみましょう。ヘビが未だに稼働していたぐらいですから、さらに稼働している兵器は残っていると推察します』


 可能性はゼロではないようだ。それよりも、あるものと考えた方が良いってことなんだろう。

 かつての帝国の地図を頼りに、全てを確認するのは骨の折れる作業だな。

 だけど1度やっておかないと、後々の問題にもなりそうに思える。


 帝国時代の拠点を4か所確認するだけで2時間ほど掛かってしまった。

 グリーンベルト状を南下する前に、アリスの手の中でコーヒーとタバコを楽しむ。

 高度1500なら、危険は何もないだろう。

 眼下に広大な星の海の湖が広がっている。これも立派な資源だろうな。

 この水を利用したなら、かなり広大な沃野が生まれるんじゃないか……。

 かつては豊かな沃野だったらしいからなぁ。


 一服を終えたところで、西に向かって飛んでいく。グリーンベルトを10kmほど過ぎたところで南に進路を変える。

 いくら軽巡や駆逐艦を揃えた護衛部隊を伴っていたとしても、グリーンベルトは魔境でもある。グリーンベルトから少し離れた場所を北に向かって調査しているはずだ。


 もし陸を進む調査隊を送ったなら、少なくとも小さな艦隊になっているはずだ。

 目立つはずなんだが、見つけられずにそろそろ星の海の南端付近にまで来てしまった。

 やはり、陸上の調査艦隊は出していないようだな。

 それだけサザーランド王国が滅んだのは痛手だったに違いない。


「サザーランドの爆心地に向かってみよう。地表の放射線量はどの程度の高度で測定できるんだい?」

『高度500なら、0.1mSvまで測定可能です。高度500を保って、爆心地の周辺を周回します』


 アリスが亜空間移動を使って、かつてのサザーランド王宮の上空5千mに移動する。

 高度を落として飛行を始めると、仮想スクリーンに放射線量の等高線が現れ始めた。

 いくつもの輝点はホットスポットに違いない。フォールアウトが雨で流され低地に集まってしまったのだろう。


 渦巻きを逆にたどるようにして、アリスが爆心地から少しずつ離れていく。

 爆心地付近は百分の一ほどに放射線量が低下しているが、今でも数Svほどの高線量だ。長時間滞在したら重症では済まないだろうな。

 爆心地から数kmほど離れると、どうにか10mSv台にまで下がってきたが、それでも生活の場にすることは出来ないだろう。時間当たり1mSvでも、1年間では9Svほどの被ばく量になる。何らかの病状が出てもおかしくは無いだろうし、埃を吸って内部被ばくともなればさらに深刻な事態になってしまうだろう。

 やはり、100年程度はここで暮らすことは無理に違いない。


「あれ? 動物がいるみたいだね」

『イヌのようですね。野犬化したのでしょう。となると、それを狩る獣も住みつくでしょう』


 難民が住む掘立小屋の集落が見えた。

 周囲には畑が作られている。爆心地から50kmほどの距離だが、放射線量はまだ1mSvほどまで下がってはいないようだ。

 今病状が現れなくとも、いずれ出てくるだろう。

 子供達の姿も見えるけど、果たして無事に大人になれるのだろうか……。


「どうすることも出来ないな。もっと離れてくれれば良いんだが、そうなると生活が出来なくなってしまうのだろう。食料援助は行っているようだけど、ハーネスト同盟の残った2つの王国は何をしているんだろうな」

『軍備の増強……、ということになるのでしょう。この状態でブラウ同盟軍と正面衝突は難しいと思いますが、残った王国にその判断ができるかどうか』


 案外強気なんだよなぁ……。国力に差が生じたはずなんだが、それを戦略で覆そうなんて考えているのかもしれない。

 それを危惧して、俺達に国境地帯の領地を与えてくれたんだろう。

 少なくとも、2日の遅延が出来れば十分だということだから、逃走方法についても考えておかねばなるまい。

 正規軍を騎士団を退団した屯田兵で迎え撃つには、少し気が重い話だ。もっとも、騎士団で鍛えられた精神なら、たとえ獣機用のショットガンのような武器しかなくとも迎撃地点から動かないんじゃないかと心配になってくる。


『マクシミリアン様の部隊が近くにいるはずですし、マクシミリアン様の領地に作り始めた軍事拠点は新兵器の操作訓練の場です。要塞は作らないようですが駆逐艦は常に数隻を停泊させるのではないでしょうか』

「駆逐艦の主砲では、ハーネスト同盟軍の巡洋艦を鎮めるのに苦労するんじゃないかな? それに主砲の射程が数kmは違いそうだ。一方的に叩かれそうだよ」


 戦艦相手は無理だろうが、巡洋艦を沈められるぐらいの大砲を用意したいところだ。

 だが、巡洋艦の数はウエリントン王国軍でさえ10隻程度だろう。その内の何隻かを国境地帯に常備するというのも、もったいないように思えてしまう。


『リバイアサンの戦闘艦が参考になりませんか?』

「あれかい? 確かに巡洋艦並みの大砲を持ってはいるけど、軸線上にしか放てないし、そもそも射程が短すぎると思うけど」


 口径20cmを超える大砲が船首に砲口を開いている。軸線上に固定された大砲だから射撃方向を変えることは出来ないし、直接照準で射程は数kmほどだ。とはいえ、あれを撃つのは快感だとメイデンさんが話してくれたんだよなぁ。駆逐艦を長く乗っていた人だから、大口径の大砲に憧れていたに違いない。


「仰角を取れなくては問題だよ。射程は相手より少し長いぐらいがちょうど良いんだけどね」

『なら、駆逐艦を改造して、大口径砲を搭載しても良さそうです。基本は地上軍の長距離砲という事であれば、砲塔を搭載しないで済むでしょうし、砲弾も数十発を用意できそうに思えるのですが』


 とりあえずアリスに設計を頼んでみよう。要求事項は既存駆逐艦の改造で可能であること、それに乗員を半減させることの2つだ。あまり要求すると、摩訶不思議な戦闘艦が出来そうだからね。

 それに、そんな戦闘艦を必要としないように航空戦力の増強にもマクシミリアンさんなら気付くに違いない。

 大口径の砲弾を放てないなら、飛行機で運んで行って上空から落とせば良い。

 とはいえ、やはり大口径の大砲があると安心できるだろうなぁ……。


「さて、戻ろうか。一応ハーネスト同盟軍の動きを探ってくると連絡はしてあるんだが、あまり遅いと心配させてしまうだろうからね」

『現在、1330時を過ぎたところです。了解しました。リバイアサンに亜空間移動を行います』


 一瞬でリバイアサンに戻れるのは、座標が明確だからだろう。

 駐機場から指揮所に向かうと、直ぐに近くにあるソファーに案内された。

 フェダーン様だけでなく、ファネルさんと2人の奥さんも同席してくれるようだ。


「だいぶ時間が掛かったようだな。それで、どうであった?」

「やはりハーネスト同盟は、帝国時代の地図を持っているようです。これは、かつて星の海で動く島を探していた時に調べた重力変異の画像です。大きな物体が湖の底に沈んでいるなら、その部分について僅かではありますが重力変異が確認できます。

 この図にオルネアの記憶槽から、アリスが読み取った地図を重ねます。帝国内が大きく2つに分かれて争ったようですね。赤と緑でかつての拠点の位置が描かれています」


 北東から南東に向かって拠点があるのを、興味深い目で3人が見ている。

 

「この地図に隠匿空間と、現在建設中の砦を表示してみます。今日、確認できたハーネスト同盟軍の調査船の位置はここになります。西北西に向かって毎時6ケムの速度で進んでいますから、帝国時代のこの拠点を目指しているように思えます」


「なる程……。リオ殿の事だ。先行偵察を行ってきたのだろう?」

「湖底の泥に埋没しています。水中に潜って調査してみましたが、大型兵器の存在は確認できませんでした。あったとしても瓦礫や腐食した武器だと推察します」


「当座の問題はないと言うことか……。そういえば、ハーネスト同盟軍は星の海の西にも調査艦隊を送っていたようだが?」

「調査を終えたところで、星の海の西岸のグリーンベルトを抜け、そのまま南に向かって捜索しましたが確認できませんでした。やはり星の海の西岸はかなり危険だと推察します」


 うんうんと頷きながらプロジェクターで映し出した画像を眺めている。

 最後にサザーランドのその後について調査した結果を報告したのだが、いまだに爆心地に近づけないことに驚いている。

 かなりの長期間は傍に行くことは出来ないと言っていたはずなんだが、やはり信じられなかったのだろう。


 報告を終えたところで用意されたコーヒーを頂く。

 飲み終えたなら、プライベート区画に戻り、マイネさんにサンドイッチでも作って貰おう。


「フェダーン様。リオ殿の報告ではやはり星の海の西岸への進出はもう少し後にした方が良いのではないでしょうか?」

「10年で変わるものでも無いだろう。リオ殿の協力が得られるからこそ、今がチャンスと考えている。リバイアサンがあればこそ、砦も作れるのだからな」


 ブラウ同盟としても、星の海の西岸に出るのは長年の夢だったに違いない。

 そのための回廊が完成したなら、確かにファネル様の業績は皆に讃えられるに違いない。でも当人はちょっと弱腰のところがあるが、これは気性だろう。嫁さん達の手腕次第ってことかな。


「毎晩悩んでいますのよ。2度ほど魔獣と交戦した時には、この部屋でおろおろする始末でした。しっかり腰を押えて、椅子から動かぬようにするのが大変でした」


 思わず笑みが浮かんでしまった。

 

「俺も似たようなところがありますからね。いつもフレイヤやエミー達に指図されていますよ」

「リオ殿もですか! いやぁ……。やはり世の中は女性が動かしているのかもしれませんね」


 ファネルさんが笑みを浮かべて、俺に手を伸ばしてきた。

 しっかりと握手をするのを、フェダーン様が小さく頷いている。案外、ファネルさんの嫁さん達をしっかりと教育していたのかもしれないな。


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