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M-310 正解のない問題


「釣れたぞ! これで俺が1匹リードだな」

「これを釣りあげれば、並び、ま、す、よっ!」


 アレクとベラスコが順調に釣り上げているんだが、俺は2人の半分も釣れてない。たぶんこの仕掛けが悪いに違いない。それとも、餌を新しいのに替えるべきなんだろうか?


 1m四方もある木箱に、魚がだいぶ積み上げられている。

 先ほどサンドラ達が氷を追加していたから氷の嵩もあるんだろうが……、それにしても俺以外なら良く釣れる。

 あまり釣れない時には、星の海でカニでも釣って帰ろうかな。あれは俺でも釣れそうだ。


 昼をだいぶ過ぎたところで釣り竿を畳むと、別荘へと戻ることにした。ベラスコが重そうに一輪車を押しているから、一輪車の前部にロープを結んで俺とアレクで引くことにした。

 荒地用の三輪車を購入した方が良いのかもしれないな。

 釣りを止めたのも、一輪車で運べる量を釣り上げたからなんだろう。砦へのお土産にするには、もう何日かアレク達と付き合わないといけないようだ。


 別荘に到着したところで先ずは軽く汗を流す。

 着替えを終えてリビングに顔を出すと、まだ誰も戻っていないようだ。

 ネコ族の女の子がマグカップに入れたコーヒーを運んできてくれたから、ありがたく礼を言うと笑みを浮かべてリビングを出て行った。

 まだ熱そうだから、その前に一服していよう。窓から見える入り江に大勢いるようだから、明日は俺もあっちに混ぜて貰おうかな。

 さすがに毎日釣りをするのもねぇ……。


「アリス。砦の建設現場は順調なのかな?」

『今のところ問題なく遂行しています。砦内の桟橋も、形が出来てきました』


 仮想スクリーンに建設現場の光景が映しだされる。

 リバイアサンの監視所から得た映像なんだろうな。城壁がまだ低いから砦内の様子が良く分かる。

 桟橋は谷の両側に設ける計画だが、東側の桟橋は確かに形が出来ているようだ。

 俺達が戻るのに合わせて輸送船も同行するのだろう。あの桟橋に荷役用の移動式重機を搭載しなければならない。

 予備機を含めて3機は必要だろうな。


「谷の岸壁に窓が出来てるね。内装はまだなんだろうけど、かなりの規模になりそうだ」

『谷の奥に向かって3区画を計画しているようです。城壁に一番近い区画が、騎士団とブラウ同盟軍に宿舎、真ん中が商会ギルド区画で、ホテルや商店ができるようですね。一番奥は工房ギルドから派遣されてくるドワーフ族の宿舎と工房になるようです』


 両側ともそんな区画になるってことかな?

 かなり奥が深い谷だから、奥には倉庫街も出来るに違いない。谷の横幅が500m以上あるからなぁ。両側の尾根を削って谷の一角を広くし、陸上艦が容易に方向を変える場所を作る可能性もありそうだ。


「今のところは近づく魔獣もいないということかな?」

『2度撃退したようですね。記録ではレグナスが4頭、トリケラが6頭となっています。2対8で軍と騎士団で魔石の分配をしています』


 少し収入が増えたことを喜んでいるに違いない。

 とはいえ、やはり北の回廊の運行はかなり危険だな。コンボイを作って通り抜けるのも1つの手ではあるが、当座は軍の護衛艦隊に期待することになりそうだ。


「例の護衛艦は纏まったかな?」

『2艦の設計を終えました。魔撃槍を改良した2連装砲塔を2基艦首に搭載し、船尾には連装ロケット砲を搭載した駆逐艦仕様のものと、連装砲塔を1基にして船尾を広くした偵察機運用型です』


 飛行機そのものも小型化したらしい。鉄ではなく木製にすることで重さを3割減らしたそうだ。銅板に刻んだ細密画の魔法陣を使うことで滞空時間も2時間を確保している。問題は武装なんだが、獣機用の連装ショットガンを軸線上に1丁、内装式の爆弾は駆逐艦の砲弾ほどの大きさが1発ということだからなぁ。

 騎士団が運用しても問題は無いだろうが、偵察だけにしか使えないんじゃないか?

 それでも、朝と夕刻に周囲を周回させれば状況偵察には十分だろう。偵察機運用型にはこの木製飛行機が2機搭載できる様だ。


「フェダーン様に売り込んでみようか。これなら輸送艦のエスコートも出来そうだからね。駆逐艦型を2隻と偵察機運用型を1隻の艦隊を3つも作れば北の回廊はかなり安心できそうだ」

『その上、砦からの支援も行えます。飛行船の発着場は是非とも必要でしょう』


 尾根を削って飛行船の格納庫を作るぐらいはやるかもしれないな。

 偵察と連絡用を兼ねた10人ほど搭乗できる飛行船なら利用価値がありそうに思えてくる。もっとも、その辺りは導師がすでに考えているように思えてきた。

 色々なタイプの飛行船を作り始めたが、問題はヘリウムの入手がままならないことだ。

 小型飛行船は熱気球の改良型だが、導師が色々と改良を加えながら飛行時間を延ばす研究を継続している。

 武装は飛行機並みだが、上空に対して攻撃手段を持たない魔獣の監視だからね。それで十分なのかもしれない。


「ところで、あまり魚が釣れないんだよなぁ。砦にお土産にしようかと思ってたんだが、数匹ではねぇ。帰る途中でカニでも釣ろうと思ってるんだけど良い方法があるだろうか?」

『ロープと餌があれば何とかできそうです。星の海のグリーンベルト地帯にいる獣を狩ってロープで水中に垂らせば、掛かってくのでは無いでしょうか? 空中に上げたところで亜空間に収容します。生体を亜空間収容した場合には時が停止していますから鮮度は保たれますが、亜空間より出した場合はカニを倒さねば食べられません』


 なるほど、生きたまま砦に運べるということらしい。ならその方法を使ってお土産を確保しよう。

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 アレク達と釣りに興じたり、フレイヤ達と入り江の素潜りを楽しんだりと何かと忙しい休日が過ぎていく。

 休日最後の日には、ちょっとした宴会になってしまったのは仕方がないことだろう。ヴィオラ騎士団が再び砦の建設現場と魔獣狩りに分かれてしまうのだから。

 かなり酔いが回ったところで、2か月後に再びこの地で休暇を楽しもうとドミニクが宣言する。

 俺達は万雷の拍手でその提案に賛同した。

 忙しかったけど、リバイアサンでは味わえない休暇が過ごせたからなぁ。休暇の疲れは仕事で癒そう。


「最後に、宿題を忘れないで欲しいわ。各部の責任者は問題を10門ずつ作っておくこと。これが出来ない部門には新たな配属は当分ないと考えても良いわよ。『自分達の部署に必要な新人なら、この問題に真摯に答えられるはずだ』という観点で問題を作って欲しいわ。必ずしも正解が無い問題でも構わない。それによってその人物の人間性を見ることも出来るでしょう。最後にもう1度乾杯しましょう!」


「「乾杯!」」


 ちょっと元気が無かった乾杯の声は、先程のドミニクの言った言葉を考えていたに違いない。

 全て筆記試験、その上正解が無い問題でも構わないというんだからなぁ。

 俺もいくつか考えてみるか。もっともマリアン達のところは数学の問題を出すだろうから、正解はあるはずなんだけどね。


 ワイングラスからマグカップに替えてコーヒーを飲む。

 ベランダに立つと、海からの涼しい風が酔いで火照った体を冷ましてくれる。


「正解のない問題なんて考えてもみなかったわ……」


 いつの間にか隣にフレイヤがいた。同じようにベランダの柵に体を預けて冷たいジュースを飲んでいる。


「それほど難しく考える必要はないよ。例えば……」


 15ケムほど先に2つの魔獣の群れを見付けた。群れの先には他の騎士団が十数機の獣機を使って魔獣を解体している。もう片方の群れの先には俺達の騎士団の偵察用自走車が停まっている。

 この状況下で残弾1発しかない砲撃先はどちらを選ぶか……。


「それって、片方を犠牲にするってことになるのよね?」

「だから、正解は無い。たぶんフレイヤとエミーの答えは異なるはずだよ。同じ答えになったとしても、その理由は異なるはずだ。それにこの状況下ではどちらを選んでもドミニクは何も言わないだろう。それが部門の責任者の判断ならばね」


 正解は無い。だがそれを選ぶ理由が大事だ。その理由をフレイヤ達が評価すれば良いだろう。


「なぜそちらを選んだかが大事ってことね。なるほどねぇ……。正解が無いから筆記試験になるのか……」

「でも全部の問題をそんな問題にするのは良くないぞ。少なくともコンパスの見方や射撃の基本ぐらいは正解があるはずだからね」


 うんうんと頷いているけど、大丈夫なんだろうか? 何となく心配になってきたな。

 エミーが俺達に合流したところで、リビングに向かった。

 皆の話題は、やはり試験問題作りだ。

 あまり考え込んで魔獣狩りがおろそかになりかねないような雰囲気ではあるけど、その時にはそんな事を忘れて専念して欲しいところだ。

 魔獣狩りはちょっとの油断が騎士団を危険に晒しかねないからなぁ。もっとも、アレクがいるんだからそんな事態は起こらないと信じたいところだけど……。


 翌朝、世界は金色だった。

 フレイヤの髪が俺の顔を覆っていたからなんだろうな。

 起こさないように、フレイヤとエミーを脇に退かして、冷たいシャワーを浴びる。

 着替えを済ませてリビングに向かうと、ドミニクとレイドラがコーヒーを飲んでいた。


「おはよう。だいぶ早いのね」

「もう少し寝ていたかったんですけど、2度寝したら朝食と昼食が一緒になりそうで……」


 メイドさんが運んできてくれたマグカップを受け取り、タバコに火を点ける。

 朝のすがすがしい空気がリビングを通り抜けていくから、タバコの煙がこもることはなさそうだ。


「エミーの話ではかなり砦の建設が捗っているということだけど?」

「今のところは順調です。輸送艦隊も魔獣の脅威を跳ね返してやってきますからね。とはいえ、回廊が出来上がっても騎士団単独となると……」


 俺の言葉にドミニクが溜息を漏らす。


「やはり騎士団間の協力が必要となってくるという事ね。まぁ、それは予想できることだし、私達なら問題は無いでしょうけど……。回廊が出来ても、西を目指せるのは中規模騎士団ということになりそうね」


 ブラウ同盟の3王国の中規模騎士団以上となれば数百を超えるんじゃないかな。

 全てが西を目指しことは無いだろうし、当座は数十ほどの騎士団を想定しておけば十分に思える。

 中規模騎士団が西に移動することで、小規模騎士団の砂の海での活躍が盛んになるだろうけど、そうなると問題になるのは海賊達ってことになるんだろうな。

 ブラウ同盟艦隊の役割も、ハーネスト同盟との戦に主眼を置くだけでなく、風の海と砂の海の境界付近の哨戒にも力を入れる必要が出てきそうだ。

 


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