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M-301 貸与期間は俺の生存する限り


 ヒルダ様の館に戻って夕食頂いている時だった。最後のワインの時間に国王陛下がトリスタンさんを連れてやってきた。

 いつものことだから、とりあえず席を立って軽く頭を下げる。


「相変わらず堅苦しいな。まぁ、親しき中にも礼儀ありということだろうが、お忍びだからあまり気にせずとも良いぞ」

「お気遣い頂きありがとうございます。ファネル様達を建設現場に残して俺達だけの休暇ということですから、あまり褒められた話でもありませんので……」


 ペコペコと頭を下げる俺に席に着くように言うと、自らも席に着いてヒルダ様の差し出したワインを受け取っている。


「少しは苦労を味合う必要もあるだろう。リバイアサンの中ならば大型魔獣が群れで襲ってきても安全だからなぁ。それは我等だけが知っていることだ」

「配下の者達に休暇を与えて自分達は残って建設の指揮を執る……。貴族に少しは見習わせてもよろしいかと」


 トリスタンさんの言葉に、国王陛下が笑い声を上げる。

 状況を知らないなら、上手く利用できるということなんだろう。


「王宮に到着して、直ぐに館へ行ってみました。上空から見た館とあまりにも替わっていたので驚いています。本当に頂けるのでしょうか?」

「これが下賜の書状だ。とはいえ、貴族達が勝手に館を立てるようでも困るので、リオが亡くなるまでとした。カテリナがそれで十分といっていたのだが、問題は無いのか?」


 俺の寿命はどれぐらいあるんだろう?

 その疑問に『尽きることが無い』とアリスから返事があった。

 それも問題がありそうだな。エミーやフレイヤが亡くなったら細々とアリスと一緒に魔獣狩りをして暮らしても良さそうだな。


「長生きすると思いますので、これで十分です」


 俺の答えに一番喜んでいるのが、カテリナさんというのが少し問題かもしれないな。


「返礼といっては不敬にあたりそうですけど、星の海で発掘した古代帝国の遺物を見付けました。色々と出てきたんですが、初期の魔法陣がたくさん描かれているのでカテリナさんと導師が研究するということで……。これは魔法陣が描かれていませんが、細密画は帝国時代の文字を崩した図案のようです」


 バッグの魔法の袋から、2つの壺を取り出してテーブルに乗せると、ヒルダ様達からため息が漏れる。


「とんでもない代物だぞ。これをどこに飾ろうかと迷ってしまうな」

「玉座の左右で良いのでは? とはいえ、花を飾るのは考えてしまいますな。王宮御達しの工房で水晶のケースを作らせましょうか?」


「いや、あえて花を生けるというのも良さそうだ。黄金の壺はそれなりに出回ってはいるだろうが、古代帝国の遺産ともなれば好事家の良いネタだろう。分かる者に分かれば良い。玉座ではなく、壁の一角にさりげなく置いておこうぞ。果たした最初に気が付くのは誰になるか楽しみだ」


 ちょっとした悪戯心ということかな?

 案外誰も気付かなかったりするんじゃないかな。


「それよりも、リオはあの館がどうしてあのままだったのか、知っているのか?」

「ホラーハウスだと聞かされましたが、場所は最適です。出るぐらいで害がなければ問題は無いかと」


「中々剛毅だな。おかげで貴族達も、羨むことがない。学生達への王宮への立ち入りも形だけになるが、それでも王宮内ということで学生達のプライドも少しは上がるだろう。

 鼻に掛けるような行いをするなら即時没収するが、これが許可証になる。教授達も来るだろうから25枚を発行するぞ」

「ありがとうございます。明日にでも学府に届けましょう。すでに人選は済んでいるようですから、この数で十分です」


 カテリナさんがトリスタンさんから包みを受け取っている。許可証は銀製のプレートらしい。王家の印章が型押しされた番号のみが記載されているとカテリナさんが耳打ちしてくれた。


「ハーネスト同盟が大人しすぎる。あの爆発でサザーランドが滅んだことを差し引いても、国境に監視兵すら置かぬと報告が届いている。リオの方で動きがあるかもしれんぞ」

「相変わらず調査艦隊を送っているようです。先ほどの壺も、彼らの向かう先を調べて見付けたものです」


「大国時代の地図でも見つけたのだろうか? そのような品があるとは信じられないのだが?」

「コリント同盟の神殿内の書物庫をパラケルスが調査していた時期があります。その時に見つけた可能性もあるかと……。となると、リオ君も持ってるんじゃない? パラケルスの蔵書は、全てアリスが読んでいたはずよね?」


 困ったな……。ここで話をしていいものかどうか……。

 ちらりとカテリナさんに顔を向けると、早く教えなさいと目が言っている。

 その内に分かる話だから、簡単に説明しておいた方が良いのかもしれない。


「残念ながら、パラケルスの蔵書には無かったようです。多分ハーネスト同盟との交渉において相手方に手渡さざるを得なかったという事かもしれません。

 ですが、帝国時代の地図を別の方法で手に入れることが出来ました。

 オルネアに搭載されていた電脳の記憶槽からアリスが読み取った地図です。ちょっと部屋を暗くしてくれませんか? プロジェクターでご覧に入れましょう」 


 バッグからプロジェクターを取り出していると、リビングの明かりが少し暗くなった。

 テーブルの端に大きな仮想スクリーンを作り出し、かつての大陸の地図を表示する。


「星の海はかつては緑の大地だったのか……」

「砂の海にも、たくさんの都市があったようですね。北の山脈や南の島々もかなり違っています」


「これが古代帝国時代の地図になります。ここに軍事拠点を表示すると、このように北東から南東に繋がる大きな帯になります。

 現代とはかなり違っていますが、サザーランドをあのような姿にした爆弾を撃ちあったんですから地形までもが大きく変わったということになります。

 ここに、現在の地図を重ねます。一般に出回っている地図では正確性に欠けるところがありますので、上空1万スタフ(15万m)より撮影した画像になりますが……」


「驚いたな……王都内に2つもあったのか!」

「その中の1つは、王宮内部ですよ。しかも……、あのホラーハウスってことか!」


「それを知って驚いたことも確かです。空間魔法の残滓のような形で未だに影響を持っているようですね。森から強い視線を感じました」

「ほほう……、いるということだな? だがそれだけ大きな戦だったに違いない。この地図があれば、もう1つのリバイアサンを見付けることも可能ではないのか?」


 国王陛下の疑問に首を振って否定する。

 稼働している移動要塞であったなら、地図に示すことなどできそうもない。それに下手に発掘したらどんな災いが起こるとも限らない。


「砦建設位置の周囲を朝夕に偵察していますので、その合間にかつての軍事拠点を調査していくつもりです。ですが破壊されているでしょうし、かなり深くに埋もれている可能性が高そうです」

「ハーネストの連中が発掘出来ねばそれで良い。リオには申し訳ないが、それを見極めてくれ」


 ここは素直に頷いておこう。

 あれだけの館を、俺の生きている限り自由に使わせて貰えるんだからね。

              ・

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              ・

 王宮にやってきた翌日はエミーとフレイヤを連れて買い物に出掛けた。

 エミー達のドレス選びに付き合って、その後は自走車の販売店に向かう。4人乗りの3輪自走車を2台買い込んで、王宮の第2離宮に届けて貰うことにしたんだが、購入した自走車には屋根が付いていた。前面にはガラス窓が付いているけど側面や後部には付いていないし、なんといってもドアがない。

 王宮内の移動だけだから、これで十分ということらしい。


「宮殿や王宮外のサロンに向かう際には、お母様が馬車を用意してくれるそうです。王都内の買い物や、王宮内のちょっとした移動ならこれで十分ですわ」

「学生の移動にも自走車が必要だったんじゃないか?」

「カテリナ様が準備してくれると言ってました」


 エミーの答えに、心配が増えてしまった。

 とりあえず途中で学生を落としてこなければ良いんだけどなぁ……。


 飲み物やお菓子を買い込んで王宮に戻ることにした。

 大きな買い物袋を持って乗り込んだから、お店に頼んで読んでもらった馬車の御者が驚いていたぐらいだ。

 食料はメープルさん達が買い込んでくるとのことだから、純粋に俺達が楽しむだけなんだけど、余ったら学生に持たせよう。リバイアサンへのお土産は別に用意しないといけないな。


「今回は別荘で暮らせる日数が5日もありませんね」

「これからはもっと減るかもしれないよ。ある程度サロンに顔が知られたら、それほど参加することはないと思うけど、砦ができるまではヒルダ様が上手く出掛けるサロンを選んでくれるはずだ」


 将来は、自分達でサロンを開くことになるんだろうな。誰を迎えるかについてもヒルダ様が協力してくれるに違いない。


 アレクの別荘で釣りをした頃が懐かしく思える。もっとも、あの釣りは釣りという趣味を逸脱している気がする。

 今回はヴィオラⅡの詳細点検をするらしいから、アレク達は自分の別荘と俺達の別荘のある西の島の両方で釣りを楽しむだろう。ベラスコ達も西の島では一緒になるだろうから、15日の休暇の5日ぐらいは西の別荘で過ごしたいところだ。


 館に戻ると、メープルさん達が作った夕食を頂く。

 結構美味しいのは、それだけ長くメイドを続けていたからなのだろうか?

 ちょっと遅れて、カテリナさんとユーリル様が訪れた。

 直ぐに夕食が出てきたのを見ると、あらかじめ余分に作っておいたのかな?


「明日の10時にやってくるわよ。メープル、簡単なサンドイッチで良いから、20人分ほど昼食を作ってくれないかしら? 夕食は仕出しを頼んでくれれば良いわ」

「了解にゃ。大きなポットも用意してあるにゃ。カップは持参してくれるのかにゃ?」

「持ってこいというのは簡単だけど、王宮の矜持もあるでしょう。50人分ぐらい見繕ってきたわ。これに入ってるわよ」


 カテリナさんが白衣のポケットから魔法の袋を取り出して、メープルさんに手渡している。

 カテリナさんの感性だからなぁ。どんなカップなのか気になるところだ。


「エミー様とフレイヤ様は昼前に第2離宮に来て欲しいとの事です。すぐにサロンは開けないんでしょうけど、作法のおさらいをするそうですよ」


 ユーリル様の言葉に、2人の食事が一瞬止まってしまった。まさかすっかり忘れているわけではないだろうな。

 作法の付け焼刃は直ぐに剥がれてしまうからね。自然に体が動くまでヒルダ様がしっかりと躾てくれるに違いない。


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