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第1話

登場人物・場所・ものなどは現実とは関連しません。

建設的な内容をほぼ含みません。

解釈は人それぞれです。

この物語は、ある男の平然な恋模様を描いただけのつまらないものである。

願わくば、全世界の恋する人々が一歩でも踏み出す勇気を持ちますように。


---------------------


人の恋の始まりはどこだろうか。

答えは得られないだろう。

たぶん、最初のカップルは生存本能に従って子供をなしたのではないか。

生きるのに必死で、好きとか嫌いとか単純な感情でさえなかったと勝手に想像する。

長い時間をかけることで恋という感情を育んできたと考えれば、人の歴史もそれなりに意味のあることに思えてくる。

誠に非論理的な解釈で恐縮だが、ここはそういうことにさせていただく。


---------------------


僕の名前は、逆月冬馬さかづき とうま。21歳。男。

順当に大学生活を送る平凡な学生である。

地元の高校を卒業後、とある資格を欲するがままに大学を受験し、受かってしまったがために大学生となり、3年生となったばかりだ。


外見上特記すべきことはない。

内面的には至って普通であると自分では考えているが、人からはよく【理論野郎】と呼ばれる。

その呼ばれ様は大変に不服である。

だがしかし、確かに『感情』に従って行動するなんて愚の骨頂であると、最近までは思っていた。


そう、ここ最近、その『感情』が私をひどく痛めつけてくるにあたり、そのなすがままになりつつある僕は先ほどの【理論野郎】なる呼称を返上しようと考えているわけである。

大学合格に伴い愛する地元を離れ、ど田舎に下宿を借りる羽目になったのだが、それも彼女に会えたのだから良しとしなければならない。あの可憐で、可愛くて、綺麗で、すらっとして、でも出るところは出ている彼女。鈴の鳴るような凛とした綺麗な声を聞けば、誰しもが天に昇る心地になるだろう。俺の友達も若干一名が天に召されたが、それほどまでの戦闘力を持つ彼女に会えたことは、この僕の人生で最上級の僥倖と断言できる。


僕を悩ませる感情。

それは皆さんにもお分かりの通り、【恋】である。


ここで、一般論であるが【恋】と【愛】の違いについてである。

好きだとか嫌いだとかそういう一次的な基本的な感情については説明は省くが、そのより高次化された概念としての【恋】もしくは【愛】は内部に2面性を兼ね備えているため、一概には違いを語るのは困難である。だが、僕の勝手な解釈によれば、【恋】とは双方向性の感情を求めるものであるが、【愛】は一方向性の感情であると結論できる。


これらから導かれることとしては、僕の【恋】は双方向性の感情を求めている。

つまりは彼女と結ばれたいのだ。


僕と彼女の初めての出会いは以下のとおりである。


---------------------------


08:30。

僕の学校の始業時間である。

一時限目の授業に間に合うように来る生徒は少ない。

特に4月というこの春先の浮かれた季節に、時間通りに来るような学生など皆無に等しい。

(だいたいは新歓だのお花見だので朝まで飲み明かし、朝どころか昼過ぎでも夢の中である。)

況や、まさか始業の10分前には机に着き、その日の授業の予習をするような気の違えた奴など僕を除いてまずいないのだ。

そのいないはずの教室に、僕の記録レコードを塗り替える人がいたのだ。


桜の香りを運ぶ風が心地よく流れ込む朝一番の教室で、彼女はその白い肌を朝日に照らされながら何かを描いていた。僕は天使がいたと本当に勘違いをした。何せ彼女の頭には光の冠があったし、その顔の造形の美しさと言ったら、神様も裸足で逃げ出すのではないかと思うほどだ。そんな生物は同じ人間ではないはずだし、まさか悪魔方面にもいないだろう。彼女はまさしく天使かまたは女神なのだ。そしてこの下界にいるということは女神でなく天使である。Q.E.D......


上が僕の心の中の一瞬での出来事である。

凄まじい混乱ぶりであることがお分かりいただけると思う。


そしてその混乱は次の彼女の行動でさらに助長されることとなる。


「おはよう?」


薄桜色のぷっくりいた唇から紡がれた言葉。

少し首を傾けてサラサラの髪が揺れ、その隙間からのぞく彼女の完璧と思えるほどの微笑み。


それらは全て僕の脳神経細胞をショートさせアポトーシスに導く威力を持っていた。(【雷が落ちたよう】の意訳)

おはよう、と問いかけられたのにも関わらず僕の脳は完全にやられていて即時復帰は難しかった。

しばしの時間が流れ、ようやく本能的なセーフティー機能が働き、「おはようございます。」などという何の変哲もない返事を繰り出すことができたのは、偏に僕が普段から挨拶を心掛けていることの結果なのである。


「やだ、同級生なのに敬語はダメだよ。タメ口で話そ。それにしても朝早いんだね。」


その言葉の一つ一つに音符がついているんじゃないかと思うほど、リズミカルに聞こえる。

大晦日の第九より断然こちらの方が心に響く。


「なら、お言葉に甘えて。朝が早いのはお互い様だよ。僕は逆月冬馬。君は?」


「あなたのことは知っているわ。むしろ私を知らないの?それもまた珍しいというか、自分でこういうのもなんだけど一応この大学のミスコン優勝者なのよ。」


あなたのことは知っているわ。

その一言で僕の心に大地震が起きている。

心の地盤はもうグラグラだ。


「優勝?それはすごいね。ただ申し訳ないことに、ミスコンのことはあまり知らなくて・・・。」


「ふふ。謝る必要はないわ。なら改めて自己紹介。私は雪。花田雪はなだ ゆき。よろしくね、とうま君。」


そのコロコロと笑う表情。手を口に寄せる仕草。

そして極めつけは僕のことを下の名前で呼んでくれたこと。


もはやこの時点で僕の圧倒的敗北は決していたのだ。

自覚症状があったのだ。

恋に落ちたと。


-------------------------to be continued


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