27.服を買いに行く
叶くんがまさかあんな......蜜柑さんの顔で叶くんが微笑み、俺に迫ってくる。
うあああ!
ダメだ。そのまま押し倒される俺に、蜜柑さんの顔が。
ゆ、夢か。
目が覚めた俺だったが、体が重たい......何か上から乗っかってるようだが。
予想通り、誰か乗っかってる!
頭を少し起こし、目をやると猫耳が見える。クロのようだな。いつの間にか猫耳クロになってやがる。
猫のままでいろって言っただろう。クソ猫があ! お陰で変な夢見てしまっただろ!
猫耳クロを猫クロの時と同じように掛け布団をめくって転がすと、床に転がる。うつ伏せになり、お尻を少しあげた体勢のまま彼女は身動きしない。黒い尻尾も垂れ下がったままだ。
魔族ってみんな寝るんだなあ。まあクロは動物だけに、他の従業員よりは人間に近いはず。一応生命活動してるわけだし。
しかし、跳ね飛ばされてよく寝ていられるよな。布団の上から乗っかってたし、裸だし、寒くないのかな? 人型の猫耳の時は毛皮もないわけで。
見てたら尻尾が気になってきた。猫耳に尻尾とかワザとじゃないかとずっと思ってたけど必要なのかこれ?
俺はついついダランと垂れ下がった猫耳クロの黒い尻尾を掴む。
ふむ、普通の猫と同じ感触だ。手を離すと力無く床に垂れる。上げて離す、上げて離す。俺はそもそも猫が好きだから、尻尾だけでも少し楽しくなってきた。
尻尾を掴んで上げて離すを数度繰り返すと、猫耳クロが変な声を出し始めたから慌てて彼女から離れる。
「んん」
クロは寝たふりをしているが、猫耳がピクピク動いてるから丸わかりだ。
暫く彼女を放置して観察していると、尻尾をブンブン振りはじめた。
「お預けは酷いでござる」
「猫耳形態になるからだ。服持ってないんだよな?」
「吾輩、服は必要ないゆえ」
胸を張って当たり前のように言われても困るんだが。何度も言うが素っ裸で胸を張っている。胸は無いけど。
「お出かけするんだろ? 人型で」
「ええ! 吾輩、ダメだと思っていたでござる!」
「約束は約束だからな。一応頭ナデナデされてたし」
「行くでござる!」
待て! それで行くのかよ。俺は急ぎ猫耳クロの尻尾を掴んで引き戻す。
「人間の街は服着ないとダメなの!マリーに借りてくるか、買ってくるから」
「買ってくれるんです?」
「ああ。服持ってないなら仕方ない。咲さんと、いやサイズが......マリーと行くか」
マリーとクロの背格好はだいたい同じくらいだ。俺の胸くらいまでの背丈に、ぺったんボディだ。咲さんは俺の肩くらいまで身長があるし、あれもこいつらと違うからな。あれとはあれだよ。
◇◇◇◇◇
マリーとホームセンターにある「しもむら」までやって来たが、もうすぐシーズンが終わるからか、ハロウィン衣装が大安売りしていた。
ハロウィンかあ、仮装しなくても既にハロウィンな当宿。多少のことならハロウィンとして誤魔化せるかもしれないかも。
「マリー、宿をハロウィン仕様にしてみないか?」
コウモリのワッペンを手に取っていたマリーは不思議そうな顔をしている。
「んん?」
「ここにあるような、吸血鬼やミイラの仮装をしたり、宿にコウモリとかカボチャの飾り付けをしたりするんだよ」
「わたし、きゅ」
俺は吸血鬼と言おうとしたマリーの口を慌てて塞ぐ。
彼女は一見すると普通の人間に見えるから、見られるだけならまず疑われることがない。触れると異様に冷たいからすぐ分かるけどね。
いや、冷たいと疑われる前に目の色が黒から赤に変わってアウトか。
「いつもハラハラしながら接客してるけど、ハロウィンなら伸び伸び出来るかもしれない」
「ふんふん」
「よし、ハロウィングッズを買って帰ろうか!」
「よく分からないけど、やったー」
分からないのに喜ぶマリーが分からんよ俺は。
あ、何か忘れてる気がするが。
「あ、何しに来たんだっけ?」
「あー、クロの服?」
「忘れるとこだった! マリー適当に選んでくれ。下着忘れずに」
「ほいほい」
◇◇◇◇◇
ハロウィングッズは後で開けることにして、まずクロのところに先ほど購入した服を持ってくる。マリーに任せて中身はまだ見ていない。
すっぽんぽんで俺の部屋に待機していた猫耳クロに、しもむらのビニール袋を手渡す。
クロは両腕でしもむらのビニール袋を抱き抱え、大事そうにギュっと抱きしめた。猫耳もピコピコ動いている。
うわあ。こんなに喜んでくれるなら、「しもむら」じゃない方が良かったかも。
「吾輩、嬉しいでござる。ゆうちゃん殿からのプレゼント」
頰を紅潮させ、尻尾をパタパタ振りながらクロは俺に礼を言ってくる。
「マリーに選んでもらったんだ。開けてくれ」
クロはビニール袋を開けると中身を取り出す。
まず出てきたのはレースのついた黒のワンピース。中央に猫の絵が白の線で描かれている。クロのワンピースらしくて良いじゃないか。いいぞマリー。
「クロ。とりあえず先にそれ着なよ。目のやり場に困る」
「吾輩の体に興奮してるのです?」
斜め上の反応来た! まあクロらしいが。
「もうちょっと育ってから言うんだな。ははは」
俺が大人の貫禄で返すと、クロが物凄く拗ねた。猫耳がペタンとしている。
目には少し涙が。
「い、いや。そんなことないって、興奮するよ! 興奮したら困るから着てくれよ」
「ほんとです?」
「うんうん。本当だよ」
猫耳クロはパァっと笑顔になり、猫耳もピンと立ち上がる。
「ゆうちゃん殿ー!」
猫耳クロが物凄い勢いで俺の胸に飛び込んで来たから、俺は倒れ込んでしまう。それにも構わず彼女は俺に抱きついてくる。
暖かくて柔らかい感触が俺の服越しに伝わって来るう。ダメだって!
「分かった!分かったから」
俺の言葉にも構わず、猫耳クロは顔を俺に寄せて来る。
「興奮するでござるか?」
潤んだ瞳で見つめて来るクロ。前髪ぱっつんヘアが俺の鼻をくすぐる。
い、いい匂いがしてヤバイ。
「じゃあ、吾輩と」
クロに唇を奪われるが、いかん。このままでは。
「クロ、先ずは服着よう、な?」
「吾輩を脱がしたいのです? あの本みたいに」
クソ猫があ! 俺のお宝を見やがったな!
俺は立ち上がり、猫耳クロにワンピースを手渡す。
「着せて欲しいでござる」
あー、もう。引っ張ったらまた発情しそうだから、言う通りにワンピースを着せてやる。頭から被るだけだし簡単だ。
ワンピースを着たクロは猫耳以外は、何処にでもいる黒髪ロングの前髪ぱっつんヘア、猫のような大きな目をした少女になった。
うん、これなら外に出ても平気だ。尻尾もワンピースで隠れているし。
「どうでござるか?」
伏し目がちに俺に問う猫耳クロ。
「うん、これなら大丈夫だ。可愛い可愛い」
「脱がしたいです?」
「脱いだら外へ行けないぞ。下着も着るんだ」
ビニール袋から下着を出すと、黒色のパンツが出て着た。えっと、真ん中があいてるんだけど。
見なかった事にして、他にあるかさがすと白地に赤の横しまが入ったパンツが出てきた。猫耳クロに手渡すと、これも着せろとせがむ。
俺の肩を猫耳クロに掴ませ、彼女に片足を上げさせるとパンツを通して履かせた。
つ、疲れた。
「クロ、何処か行きたいところあるの?」
「吾輩、コンビニに一度行ってみたいでござる! この前入れなかったゆえ」
目をキラキラさせて、俺を見上げる猫耳クロのいじらしさに少しキュンとした。コンビニって、可愛いやつめ。
こいつも、発情さえ無ければ良い奴なんだけどなあ。
「コンビニって何処でもいいの?」
「前に行ったところに行きたいでござる!」
うわあ。あそこかよー。余り行きたくないんだけど仕方ない。
「分かった。今から行こう」
ハロウィンは後からだなあ。まず猫耳クロをコンビニに連れて行こう。




