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26.取材が来たんだ

 蜜柑さんと女性カメラマンさんは昼過ぎにやって来た。

 宿の入り口で俺と咲さんがお出迎えを行い、蜜柑さん達と挨拶を交わす。


 そのままロビーに案内すると、クロがソファーの下で寝そべっていた。もちろん、蜜柑さんに会うようにこの場所で待たせていたんだ。


「手入れの行き届いた旅館ですね! ロビーも広いですし、ソファーまで」


 蜜柑さんが感嘆の声をあげる。そうだろう。当旅館は施設には自信がある。


「お客さんに寛いでいただけるよう、全て広めにスペースを取ってるんですよ」


 本当に寛いで貰うためなのか甚だ疑問なんだけどね。巨大な魔族とか居たりして大きめなんじゃないかなーとか、本当に的を得ているようで怖いな......


「あ、猫ちゃんが!」


 蜜柑さんはトコトコとクロの元へ駆けていく。クロは眠そうに欠伸をすると、立ち上がる。


 大人しく蜜柑さんに撫でられてるが、むっさ不機嫌そうなんだけど!

 に、逃げるよりましか。


 ロビーを案内すると、客室、厨房と順に案内して行く。咲さんはスカーフで首をしっかりと縛っているから、首が取れる心配は無いけど、腕が取れないか一応注意しておく。

 引っ張るような子供も居ないし、心配は無いんだけど念のためだ。


 骸骨くんも軽トラックの荷台で待機してもらっているから、取材は滞りなく済むはず。


 対策が幸いして、最後にシェフ兼オーナーの親父さんを軽く紹介し、取材は完了したのだ!

 何も起こらないなんて、大丈夫か心配になってくるほど問題がなかったんだ。


 そう、取材は問題無かった。


 クロの態度はあんまりだったが、蜜柑さんはいたく旅館を気に入ってくれたらしく、今晩泊まってくれることになったんだ!

 「突然でお部屋大丈夫ですか?」と可愛らしく聞いてくれたけど、元より本日の宿泊客はゼロだ。全く問題無い!



◇◇◇◇◇



 無事終わったし、せっかくサウナがあるから行くか。幸い宿泊客に男性は居ない。だから遅い風呂に入っていたとしてもバッタリ会うこともないわけだ。

 鼻歌を歌いながら、服を脱ぎ素っ裸で内湯へ入る。内湯は岩風呂と緑色のお湯が入った香草風呂の二種類があるんだ。岩風呂につかってからサウナに行くか。


――蜜柑さんが、香草風呂に入っている......


 ここ男湯なんだけど、間違えたか。あ、男性客が居ないから入っちゃったか。微妙にデザインが女湯と男湯で違うから。

 ま、不味い! 不味いぞ。ど、どうする俺?


「こんばんわ」


 素っ裸で固まっている俺に、蜜柑さんは朗らかに挨拶して来た。普通過ぎて逆に怖いよおお。


「こ、こんばんわ」


 思わず持っていたタオルで前を隠す俺......もうバッチリ見られたと思うけど。幸い蜜柑さんが入っている風呂は香草風呂。緑のお湯が濁っているお陰で肩から上しか見えてない。

 い、今のうちに退散しようと後ろを振り向いた時、


「一緒に入りますかー?」


 軽いノリで蜜柑さんが誘ってきた! え、ええええ!


「い、いや、俺は構いませんけど」


「私もあなたなら構いません」


 少し頬を染めて彼女は俺を誘う。こ、これは行かねば。憧れの蜜柑さんと一緒にお風呂だ!


「し、失礼します」


 蜜柑さんと反対側の隅っこにいそいそと香草風呂へ入る俺。うああ。蜜柑さんと一緒のお風呂に入ってるー。すげえ俺。感動した! 今まで咲さんはともかく変な奴らに散々追い回されたが、俺もようやく楽しい思い出が。

 

 そんな夢見心地の俺の隣にいつの間にか蜜柑さんが!


「せっかくなんですから、近くがいいですよね?」


「は、はい!」


 積極的な蜜柑さんに顔が赤くなるのが止められない。本当に現実なんだろうか? くそ猫が化けてないだろうな? いや、なんかそんな気がしてきた。きっともうすぐ「吾輩」とか言い始めるんだ。

 きっとそうだ。


筒木つつきさん。このことは秘密にしてくださいね」


「は、はい」


 グッと近くなる蜜柑さん。最近名前でしか呼ばれなかったから忘れがちだけど、筒木は俺の苗字だ。苗字で呼ばれることが普通なんだけど、最近の生活があるから逆に新鮮な感じがするなあ。

 し、しかし蜜柑さん、近い。近いですって。勘違いしてしまいます。


 ドギマギする俺の手を両手で握り、自分の胸の前に持って来る蜜柑さんは、上目遣いで俺を見つめる......な、何でしょうか? 漫画のような展開だけど、これドッキリ? それともやはり猫か?

 逆に不信感が増してくる俺は、きっとこの旅館に毒されていんだろう。悲しいことに。


「筒木さん、いえ、筒木くん」


 ガバっと突然抱きついてくる蜜柑さん。な、いろんなところが当たってるんです! 咲さんと違って暖かい、そして柔らかい。猫と違ってボリュームのある柔らかさだ。どことは言わないけど。


「え。蜜柑さん?」


「猫好きなんて嘘なの。あなたのこと諦めようと思っていたんだけど、あなたを見てしまったら我慢できなくなったんだ。それで、それで」


「えええ。蜜柑さん」


 それで男湯で俺が来るのを待っていたのか? 来ない可能性のほうが高いというのに。なんていじらしいんだ。しかし、俺こんな美人に知り合いいたかな?

 高校の時の後輩とか? 「先輩!」とか憧れのシチュエーションだけど、俺の高校時代は砂漠だった。


「顔も少し変わっているから、覚えてないよね。筒木くん」


「え、ええ」


 本当に記憶にないんだけど、俺はいつ蜜柑さんと会った? し、しかしこの体勢は理性がヤバい。蜜柑さんはギュっと俺を抱きしめたままなんだよお。


「私、大学の頃から筒木くんのこと好きだったんだ。でも言えなかった」


「大学?」


「地球は滅亡する! で分かるかな?」


「え、キバヤ理論同好会ですか?」


「うん。私ね。叶なんだよ」


「なんだってー!」


 待て、待てよ。本気で意味が分からない。叶くんは間違いなく男だよ! なんでこんな可愛い姿になってしまったんだ。整形とかそんなレベルじゃねえぞ。


「何があったんだキバヤ!」


 つい学生時代のノリで叶くんに問いかけてしまった。


「実は、大学を卒業してからある人に魔法をかけてもらったんだ。それで、この姿に。だって筒木くん、可愛い娘ばかり見てたし」


「魔法って、何それ......」


「誰にも言わないって約束してくれる? だったら名前だけでも教えちゃうよ。だって筒木くんの頼みなんだもの」


 ポッと頬を赤らめる蜜柑さん......いや、叶くん。


「ひょっとして、魔族?」


「知ってるの? うん、魔族の人。トミーさんという人よ」


 あの濃い着流しかあああ! 変なところで繋がりあるなほんと。


「ね、筒木くん。今晩だけでもいいんだ。私と......」


 色っぽく見つめてくる叶くんの顔が至近距離に。み、蜜柑さんは確かに憧れだった。でも、しかし、しかしだな。見た目はいくら蜜柑さんでも、中身はあのキバヤ同好会で苦楽を共にした叶くんだぞ。


 叶くんはそのまま俺に乗りかかって来ると、俺のあれが叶くんの太ももに当たる。


「あ、もう準備できてる......?」


 叶くんがそんなこと言わないでくれー! た、確かにあれがあれになってるけど。それは仕方ないだろ。こんな美人に迫られたら。

 ん、何か硬いものが俺にも当たってるんだけど。何だこれ?


「か、叶くん。何か当たってる......」


「ごめんね。筒木くん。トミーさんが下半身忘れちゃって......会いたいんだけどどうやってトミーさんに会えばいいのか」


 トミーさん、最近ここに来ましたよ! 俺のところに来る前にトミー元さんに会ってきてくれー!


 俺は叶くんから離れると、素っ裸で風呂場から逃げ出した。叶くんが、叶くんがあああ。

 


 そのまま素っ裸で部屋に戻ると、布団に入りガクガク俺は今の出来事を思い出し震えていた。

 布団には猫が先にスタンバっていて、俺に一言、


「だから吾輩、変態は嫌でござると言ったんです」


 そんなの分かるかああああ。このクソ猫がああ。

あらら、言わんこっちゃない。

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