アルコール依存症114
「いや、向こうの入口のところを確かに婆さんが横切ったのだ…」と行雄が眼を見開いたまま言った。
二人のぬか喜びを打ち消すように大勢の老人警官が大挙して現れ、二人は再び拘束された。
二人は再度目隠しをされ、車で護送移動、投獄された。
そんな行雄に再び震えが伴う禁断症状が襲いかかった。
「畜生、又始まった。何故この留置場は薬をくれないのだ?」
悪友が答える。
「お前のアル中禁断症状と人体実験は何かしらの繋がりがあるのかもしれないな…」
手を震わせながら行雄が尋ねる。
「それじゃ、やはり湖に沈んだ連中も、餌になっていた連中も皆アル中絡みなのか?」
悪友が答える。
「これは本当に俺の推測に過ぎないのだが、その可能性は高いと思う」
歯を食いしばり、震えを抑える仕種をしてから行雄が言った。
「いずれにしろ、実験内容の全容、何たるかが全く分からないのだから、そんな話しても無駄だろう、違うか?」
苦笑いしてから悪友が言った。
「それはそうだが、こんな話しでもすれば気休めにはなるからな」
悪友の話しをやり過ごすように行雄が大きく眼を見開き、鉄格子の向こう側の空間を凝視して呟いた。
「おい婆さん、何故こんな所にいるんだ?」
悪友が背後を振り返り、何者もいないのを見定めてから、行雄に向き直り言った。
「おい、また幻覚症状か?」
行雄が眼を見開いたまま言った。
「いや、向こうの入口のところを確かに婆さんが横切ったのだ…」




