アルコール依存症113
「枝が折れないように慎重にしがみついて進んで行くんだ。慎重にな!」と悪友が行雄を励ました。
二人共に、鹿が体当たりする振動に邪魔をされ、立ち木の上方に登るのがままならない。
悪友が「生き抜くんだ」と己を叱咤激励しつつ、行雄を声を限りに励ます。
「手を離すなよ、登れ、登るんだ!」
行雄がやはり声を限りに「分かった!」と返事し、逆に悪友を励ます。
「お前も落ちるなよ!」
それを許すまいと、下にいる鹿達が体当たりを繰り返し立ち木を激しく揺らすが、二人は少しずつ登り詰め、それぞれ鉄条網の外に伸びる枝に何とか辿り着き、再び励まし合った。
悪友が喚く。
「枝が折れないように慎重にしがみついて進んで行くんだ。慎重にな!」
行雄が呼応する。
「お前もな!」
震える手で各自しなる枝にしがみつき、折れないように細心の注意を払いつつにじるように前方に進んで行く。
死への恐怖に心臓が高鳴り、額に脂汗が滲む中、悪友は手繰り込むように、わななきしなる枝にしがみつきつつ前方に進み、止まって、鉄条網を越えたと目測で計り、ライフルを捨てて、そのまま両手で枝にぶら下がり、その枝が極限までしなり折れそうな音を立てた瞬間、両手を離し落下した。
両足で着地して、もんどり打って前に突っ伏し倒れ込んだが、何とか成功した。
脱出に成功した悪友が立ち上がり行雄を再度励ます。
「慎重にな!」
その掛け声に固まりつつも行雄が応じる。
「わ、分かっている。分かっているが、もう枝がしなり折れそうなんだ!」
悪友が回り込んで行雄がいる位置をやはり目測で計り、喚いた。
「鉄条網を越えているぞ。そこでぶら下がれば大丈夫だ。ぶら下がれ!」
行雄が震える声で「分かった」と返事して、枝にぶら下った瞬間、しなった枝が音を立てて折れそうになり、そのまま行雄は絶叫を上げながら両手を離し落下して、尻餅をつきつつも何とか着地し。脱出に成功した。
そんな行雄に悪友が走り寄り叫んだ。
「やったな!」
行雄が悪友を見上げつつ応じた。
「ああ、何とかな」




