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狂気

私は、音のする方へ向かった。

「すいません、僕です下山です。河合さんの事で、怖くて、怖くて、独りで居ると気が変になりそうで…その、あの、少しの時間でもいいので、話し相手になって貰えませんか?」

オドオドした声が、ドア越しに聞こえてきた。

私は少し考え、返事した。

「いいですよ」

すると少し明るくなった声で、下山が続けた。

「ありがとうございます!あの、その、ここじゃあその、河合さんの死体もあるので、よかったら中に入れて貰えませんか?」

この時の私は、河合のこともあり、下山と同じで、気が変になりかけていたこともあり、中に入れることにした。

ただ、状況が状況だっので、腰にサバイバルナイフを隠し持ち、ドアを開き、招き入れた。

そして私たちは床に座り、たわいもない話をし、気を紛らわせていた。

「へぇ、下山さん漫画家なんですね!凄いな」

「いえいえ、漫画家と言っても、まだまだ食べていけてないんで、プロにはまだ程遠いんですがね」

そういうと、下山はうつむく。

「ところで、中本さんは何をしているんですか?」

下山は暗くなりそうになったことに気付いて、話しを変えた。

「ああ、私はしがない営業マンですよ」

「へぇ、通りで話しやすいと思った!」

「いやぁ、でも3日も無断欠勤してたら、でた頃には営業マンじゃなく、プー太郎になってるかもですけどね、ハハ」

私は、一瞬日常が戻ったように感じ、気が緩んだ。

それは下山も同じだったと思う。

「仕事と言えば、河合の仕事知ってます?」

「え?」

この時、下山が、河合のことを呼び捨てにしたことに違和感を感じた。

「借金取りですよ!借金取り!本当、人間のクズみたいな仕事ですよね!」

『なんでそんなことを知っているんだ?』

私はそう疑問に思ったが、下山が豹変していく様に、気取られ、相槌を打つことしか出来なかった。

「本当最低ですよ!あんな人の苦しみを食い物にする仕事をしている人!」

下山の言葉にどんどん悪意が、満ちていく。

「それにここを出たら、どんなことを願うのか聞いたらね、金って言ったんですよ!人を殺してまで、金ですよ!低俗な人間の願いってやっぱり、低俗ですよね!」

私は、身の危険を感じ、腰に隠し持ったサバイバルナイフの柄に手をかけ、立ち上がり、後ずさりする。

「どうしたんですか?」

下山も立ち上がり、私を睨みつける。

「あ、いえ、ちょっとトイレに」

私は目をそらしながらそう言う、それを見て下山は少し黙り、そして笑った。

「あーあ!少し、熱くなりすぎて喋り過ぎましたね。あいつ、みんなが部屋に入って間もなく、僕の所に来たんですよ!それで中本さんの所にもあったでしょ?ルールの書いてあった紙、それを持って来たんですよ!」

「え?どういうこと?」

下山は、私の問いかけに、耳を傾けず、話を続けた。

「他の二人を一緒に、殺さないかって言ってきたんですよ!願いがあるんだったら、そうしてから、2人で殺し合った方が、可能性があるって言うんですよ!」

そう言うと、下山の目つきが変わっていく。

「そうです!僕が一番殺しやすそうだと考えて、河合は僕に声をかけたんですよ!でも僕もそれはよかったんですよね、確かに独りで全員殺すより、楽だなと思ったんでね」

「じゃあなんで河合さんを殺してしまったんですか?」

下山は、あからさまに怒りを浮かべ、続けた。

「河合は、僕にどんな願いがあるか、聞いてきたんですよ、そして笑いやがったんですよ!僕の願いはたった一つだけです。僕の漫画を世界中の人に読んで貰うことです!そう、僕には才能があるんですよ!だから読んでくれさえすれば、感動を与える事もできるし、人の心を豊かにする事さえできるんですよ!そうだ!あの見る目の無い編集者のせいで、世の中の人々は損してるんです!だから世の中の人々ための願いでもあるんですよ!ハハハハハ!」

下山は狂ったように笑う。

「なのに僕をバカにするように笑って、僕にこう言ってきたんですよ!」

「ハハハハハ!こいつはいいや!」

「なんですか?いったい!」

下山は河合を睨みつける。

「いやぁ、俺ってさぁ、いわゆる借金取りをやってんだけどな、お前みたいな奴がよく金を借りにくるんだよなぁ、自分には夢があるだの、才能があるだの言ってな!俺はそのたびに、ねえよ!馬鹿がって言ってやりたいのを我慢し、その才能で、すぐに返せるよ、って心にもないこと言いながら金を貸すんだよ、そういう奴はすぐに借金焦げ付かせて、どこかに連れて行かれるんだよ!笑っちまうだろ!ハハ!」

「じゃあ、河合さんの願いって何なんですか?」

「俺かぁ?俺はやっぱ金だな!一生遊んで暮らせる位の金だな!」

下山はうつろな目で、私に話してくる。

「それを聞いた私は、一秒でも早く、こいつを殺さないといけないと思い、隠し持ってた銃で、頭を打ち抜いてやりましたよ!そう、この銃でね」

そう言うと下山は、懐から銃を出し、構えた。

「人を殺すのに、躊躇いとかは無かったんですか?」

どうしても気になり、私は、なけなしの勇気を振り絞り、問いかけた。

「躊躇?あんなクズを殺すのにですか?そんなことあるわけないじゃないですか!それに、万が一、僕のような崇高な願いが、叶わず、あんな低俗な願いが叶わなくて、よかったと思ったくらいですよ!ハハハハハ!」

「く、狂ってる」

私は、余りの狂気に腰にある、サバイバルナイフを握る手に力が入る。

「聡明な中本さんならわかるでしょ?僕の崇高な願いが、世界の人々の為なんですよ?たった3人が死ぬことで、人々の人生が豊かになるんですよ?だから中本さんも死んでくれますよね?」

そう言うと下山は、銃の引き金に指をかける。

「うわぁぁあぁあ!!」

私は、腰のサバイバルナイフを抜き、必死に振り回し、下山に襲いかかった。

下山は、予想外の抵抗に焦って引き金を引いた。

パン!乾いた破裂音が狭い部屋にこだまする。

焦ったせいか、下山の放った玉は壁に着弾していた。

そして、倒れていたのは下山だった。

私の振り回したサバイバルナイフは、下山の喉元を引き裂いていた。

「ゴポ、ゴボ」

下山は首から血を吹き出しながらも、まだ息があった。

それを見て、私は、下山に馬乗りになり、何度も何度も何度も、下山の体にサバイバルナイフを突き立てた。

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