067(不登校という共通点)
ケーイチは5時間ほどトレーニングをするが、ゼニアには1回も勝てなかった。
「そろそろ帰るよ。また明日な、ゼニア」
「明日来るか分からないよ?」
「学校か」
「…………僕、不登校なんだ」
「そうか。奇遇だな。俺も不登校だった」
ちょっと重苦しい空気が漂う。そこへ金城が来た。
「ゼニアさん、こんにちは」
「よっ。金城」
金城は、ケーイチに気付く。
「あっ! 瀬奈ケーイチ君だったよね? 高橋ドローンレース大会では、やられたな〜」
「どうも」
「俺と一戦交えるかい? ケーイチ君」
ケーイチは戸惑った。金城はクールな男かと思いきや、フランクに話しかけてくる。
「今日はちょっと疲れたので、明日に」
「分かった。外に珍しい車、R35GTRが停まってたけど、もしかして、ケーイチ君の?」
「ええ、まあ」
「その若さでよく買えたね。セレブ〜。俺なんて、マツダFD3Sのやっすいヤツを買ってすぐにエンジンをオーバーホールさ」
「金城さんはドリフトやってます?」
「ああ。50:50のウエイトバランスに苦戦してるけど」
「俺はシルビアも持ってるんで、今夜辺り走りに行こうか考えてました」
「金持ちだね〜。じゃあさ、じゃあさ、今夜一緒に走りに行こうよ。アドレス交換、な?」
「はい」
ケーイチと金城がアドレス交換をしようとした時、ゼニアが間に割って入る。車の話には介入出来ず、ウズウズしていた。
「まずは僕だろ、瀬奈ケーイチ」
「ああ、そうだな」
ケーイチは、ゼニア、金城の順でアドレス交換をする。
ケーイチはドキドキしていた。新たに走り屋仲間ができたかと思ったが、金城に対する警戒心も芽生えた。コイツもカネが目当てかと。ケーイチは手が震える。それを必死に隠そうとするが、余計に手が震える。
「大丈夫か、瀬奈ケーイチ」
「なっ、何でもない。帰る」
ケーイチは早く外の空気を吸いたかった。
「ケーイチ君、待って」
「何ですか?」
「どこの峠に行くか決めとこうよ」
「あっ、はい。街から南西の5連コーナーはどうですか」
ケーイチはおどおどしてしまう。
「分かった。あんまり良い噂がないけど、初心者から中級者までが楽しめる所だね」
「はい、そうです」
「忘れ物ないか〜?」
「はい、大丈夫です」
ケーイチは逃げるように立ち去る。