068(基礎と基礎)
ケーイチは自分のドローンキットと社員証を持ってGTRに逃げ込む。そして、向精神薬を1錠、コーラで胃に流し込む。マイカーの中は強固なパーソナルスペース、すぐに正気を取り戻す。日産車独特の香りも相まって。
ケーイチはシートベルトをして、ブレーキを踏み、車のプッシュスタータースイッチを押す。ブォーンとエンジンがかかる。ケーイチはVR38DETTの音色に癒された。
コンコン…………。ガチャ。ゼニアがGTRの助手席側のウインドウをノックして乗り込んできた。
「ちょいと家まで頼むよ」
「どっち方向だ?」
「街の方だよ」
「仕方ない。シートベルトしろ」
「はーい」
ゼニアはおとなしく、シートベルトをした。ケーイチはGTRを発進させる。
「家をカーナビにインプットしてくれ」
「やり方が解らない」
「仕方ない、口頭で教えてくれ」
「りょーかーい」
「いつも誰かに送り迎えしてもらってるのか?」
「ママがね」
「ふ〜ん」
「瀬奈ケーイチさ。レースでは優勝したんだよね?」
「そうだよ」
「僕も会場に居たんだ。ケバいオバハンに胸ぐらを掴まれてたね」
「吉川イオリ。イジメグループのボスだった奴だ」
「イジメ…………」
「ゼニアもイジメられてたのか?」
「不登校あるある」
「まあ、確かにな」
「瀬奈ケーイチもイジメられてたの?」
「まあな。でも社会人になると、調子こいてイジメていた連中が雑魚キャラになるよ」
「そういうもの?」
「経験上な」
「この薬は何?」
ゼニアはセンターコンソールに置いてあった、向精神薬のラップを手に取る。
「向精神薬だ。飲むなよ」
「バカ。勝手に飲まないよ。フフフ」
「今日初対面なのに仲良くなったな、俺達」
「境遇が似てるからかな」
「分からん」
「ねえ、金城と峠で走るとか言ってたけど、駅伝でもやるの?」
「子供には解らんか。ドリフトだよ、ドリフト」
「暴走族?」
「ドリフトはモータースポーツの基礎だ。F1でも素人には見えないドリフトで、コーナーを曲がっているんだよ」
「さっぱり解らない」
「ガンドローンであんなに強いのにな。女の子の天井かな」
「瀬奈ケーイチ、僕にケンカ売ってる?」
「癪に障ったか? 悪い悪い」
「あっ。次の交差点を右に曲がって」
「あいよ」
ケーイチは、ゼニアを家に送り届け、自宅マンションに帰る。




