託される想い
「クロスさん。いらっしゃいます?」
サラはノックする。
「あら、サラちゃんに、デイッシュちゃん。どうしたの?まぁ中に入って」
「ありがとうございます」
私達は頭を下げた。
「実は農地の件で」
サラは切り出す。
「農地って、あなたの所、飛び地ですもんね。それで譲って欲しいって?」
「まぁ。お借りするのでも……」
サラは口ごもる。
「あの土地はね。主人との思い出の土地なのよ。あそこで私たちは生きてきた。わかるわよね」
「はい」
「私には身寄りがないわ。だから、私を家族にしてくれない?」
「家族?」
「そう。サラちゃん、デイッシュちゃんのお婆ちゃんでも良い。あなた達の農場のお婆ちゃんでも良い。そうしてくれないかな?それなら、孫に土地を譲るのは普通でしょ」
「それで良いのですか?」
私は尋ねた。
「法律とかの事はよくわからないから、任せるわ。私は死ぬまでノンビリ生きられて、あの農地が活用されて、私が亡くなった後、あの農地を大事に使ってくれるなら、それだけで良い」
「わかりました。では私達と暮らしませんか?」
私は言った。
「良いの?良いのだったら、すぐに荷物まとめるわ」
「そんなにすぐに良いのですか?」
サラは驚く。
「ここ暇なのよ。ほら農場だったら、沢山人がいるでしょ」
そんなわけでクロスさんが仲間に加わった。
クロスさんはノンビリと暮らすのかと思っていたら、
よく働いてくれた。
動きこそスローモーションだけど、効率は良かった。
「ここはね。こうすればキレイだし早いよ」
クロスさんは、あちこちで、お婆ちゃんの知恵を教えて回った。
「ああいうご老人は、非戦闘員なので、非効率だと思っていましたが、兵站の効率化にずいぶん役立ってくれるのですね」
グラスは言った。
「僕も驚きました。論理的認知ではなく、経験論というのも、役に立つのですね」
シュガーも言った。
シュガーはクロスさんに、よくついて回ってはメモを取っていた。
「何をしているの?」
と尋ねると、
「こういう経験論は文章化されないですから、後世に引き継がれにくいです。ですので、後任の者の為に、マニュアル化しておきます」
そう答えた。
実際、いろんな部分でマニュアル化ができ、作業の効率はどんどん上がっていった。
人手を募集しようと思う頃には、マニュアル化が進み、募集は必要なくなった。
そして、農場の整形ができたことで、生産性がずいぶん上がった。
他にも飛び地は何個かあったが、そちらはすんなりと売ってくれた。
農場はずいぶんキレイな形になった。
そして皆の動きも無駄のない動きとなった。
「デイッシュちゃん。猪の革できたぞ」
ハシさんがやってきた。
「おぉ、ありがとうございます。しかし、これをどう使おう?」
「色々使えるな。革の鎧とか、剣の鞘とか、盾とかにも使える」
「なんでそんな武器っぽいのばっかり」
「いずれ戦をするんじゃろ」
「何を言ってるの?そんな事しないわよ」
「またまた。ワシには隠すな」
「本当に隠してないって」
「あんた第三王女だろ」
「知ってたの?」
「知らなかったのか?」
「知らないわよ」
「ワシは村長から聞いたぞ」
「いつ?」
「出会った時から」
「マジ?」
「うんマジ」
「なんで今まで言わなかったの?」
「別に興味ないしな」
「じゃあ、なんで今言ってきたの?」
「ほら鎧とか作るんだったら、ワシも手伝えるかなと」
「本当に戦争とかしないから、武器もいらない」
「そうか。残念だな」
「もしかして、村の人皆知ってたりする?」
「う~んどうだろ。知ってるんじゃねぇか。こんな所に侍女連れてやってきて、ここまでの事するんだから、只者ではないのはすぐにわかるぞ」
「ねぇサラ。ハシさんが私達の正体知ってたわよ」
「そりゃそうでしょ。普通の商人の娘のやる事じゃないですから。御自覚なかったのですか?」
「わかってたの?」
「ハシさんがご存じとまでは知りませんでしたが、バレないほうが不自然なくらいには」
「サラちゃんもレベルが高いからな。ここまで優秀な侍女。商人の娘の侍女じゃないわ」
「てへへ」
サラは照れている。
「てへへじゃないわよ。優秀すぎるとバレるのね」
「デイッシュ様。それは仕方がありません。優秀なのですから」
「だから、多少は誤魔化す努力は必要でしょ」
「それでこれだからな」
ハシは腹を抱えている。
「デイッシュ様。では始末します?」
「しないわよ。まぁ皆隠し事の一つや二つあるだろうし、お互い様ね」
「そうそう。あの村長もお尋ね者の盗賊の頭だったしな」
「ウソ?あの村長が?」
「あぁ、夫婦してな。ずいぶん落ち着いたが」
「もしかして、この村全体的に?」
「皆詮索はせんが、ここはそんな感じの村じゃよ」
「なんか私だけが秘密抱えていると思ってた」
「そうですね。サラもさすがに驚きました」
「何に驚いたの?」
「ハシさんが昔傭兵だったこと」
「えっそうなの?」
「いや?傭兵なんかしとらんよ。ワシは王国の地方役人だった」
「えっ、そうなんだ」
「そうだよ。貴族の不正を告発したら、命を狙われて、逃げてきたわ」
「誰それ?」
「ウェポン。王国を裏切っただろ」
「ウェポン?あの中級貴族の」
「あぁ、今は帝国の上級貴族の地位にいる」
「……」
「あの時、ワシの不正告発が上手くいっておれば、嬢ちゃん達が、ここに来る事もなかったのに、すまんな」
「ゴメンなさい。話が急展開すぎて、ついていけてないわ。サラ整理して」
「ハシさんは、王国の地方役人で、ウェポンという中級貴族の不正を告発しようとしたら、命を狙われて逃げてきた。そのウェポンは王国を裏切り、いまは帝国の上級貴族の地位にいると」
「それ……、ビックリよね」
「ウェポンが手引きしなければ、王国が滅びる事はなかっただろう」
(うわー)
外が騒がしい。
「サラ!」
「はい!」
「何事ですか?」
「猪が畑を荒らしており、クロスさんが……」
小作人は息を切らして言った。
「クロスさんは大丈夫なの?」
サラは詰め寄る。
「はい。投石で、猪を仕留めました。ですが暴れてて」
「助けが必要なのね」
「いえ。フォークさんが槍で突いて倒しました」
「じゃあ、なんで騒いでるの?」
「肉パーティだと」
「デイッシュ様!」
「どうしたの?大丈夫なの?」
「肉パーティです!私、猪を捌きに行ってきます!」
サラは目の色を変え、走り出した。
「デイッシュちゃん。平和だな」
ハシは笑った。
「えぇ。こういうの悪くないと思う」
私は少し笑みを浮かべた。
END
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
この作品は完結していますが、
反響があれば続編を書く可能性があります。
ブックマークしておくと、もし更新された場合に追いやすくなります。
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