イズミルの答え
「わたくし、わかりましたわ」
その日、イズミルはダンテルマの魂が遺る隠し部屋に来るなりこう告げた。
「……何がわかったの?」
ダンテルマが何かを察した様にイズミルを見遣る。
イズミルはダンテルマの魂の元へと近付き、彼女のペリドットの瞳をじっと見つめた。
「グレアム様が一つ目の隠し部屋でダンテルマ様が施した呪いに掛かってしまった事によってこの部屋も彼女の仕業だと思い込み、大切な事を見誤っておりました」
「あら、何を見誤ったというの?」
「あなたが……ダンテルマ様ご本人の魂ではないという事ですわ」
イズミルがそう告げるとダンテルマは薄く笑い、腰掛けていた寝台で足を組み直した。
そして落ち着いた声色でイズミルに問いかける。
「どうしてそう思ったの?」
「わたくしの質問全てに真摯にお答え下さったその姿勢に、ある狙いを感じ取りましたの。擬弁や偽りを必要せず、ありのままのダンテルマ様を示そうとしているのではないかと。そしてわたくしがダンテルマ様に対してどのような態度を取るか、見極めようとしているのだと」
「……ふぅん……私がダンテルマではないと言うのなら、じゃあ私は一体誰だと言うわけ?」
再び挑戦的な視線を向けてくるダンテルマに、イズミルは目を背ける事なく答えた。
「おそらく、ダンテルマ様に様々な呪詛や呪術を教え、助力したお方……愛人のお一人でいらした魔術師。貴方はダンテルマ様の魂ではなく、魔術師の魂ですのね」
「ふ、ふふふふっ……あはははっ!」
ダンテルマはふいに大きな声で笑い出す。
そして一頻り笑った後でこう告げた。
「全く見事です。まさか見破られるとは……国王の寵妃にしておくのは惜しい洞察力ですね」
姿はダンテルマのままなのだが、声は完全に男のそれと化している。
イズミルは構わず話を続けた。
「そして……最後の呪詛があるというのは嘘ですわね」
「それも見破られましたか。では何故このように入り組んだ事をしなければならなかったか、それもお気づきで?」
イズミルは隠し部屋を見渡し、やがて寝台に視線を向けた。
グレアム達には朽ち果てた骨組みだけに見え、イズミルには豪奢な真新しいかつての姿のままに見えるこの寝台……。
イズミルが今から口にするのはあくまでも仮説に過ぎない。
立証する暇はないし、数百年という時の隔たりが大きすぎてもはや証明する手立てがなかった。
それでも、イズミルは確信している。
そしてそれを魔術師に告げた。
「師匠から教えられていた事があります。ダンテルマ様の遺骨が何者かに持ち去られた記述がある事を」
「…………」
魔術師は何も答えない。
イズミルは構わず話を続けた。
「狂妃と扱われて幽閉されるのを拒否し、尖塔から身を投げたダンテルマ様のご遺骨は、王家の霊廟ではなく無縁仏として王都の外れの教会に納められそうになったと聞いております。そしてその納骨を前に、忽然とご遺骨が姿を消したとも。以来数百年、未だにその遺骨は見つかっていない……」
「……それで?」
「後宮が解体されるという事がなければ見つからなかったこの部屋。わたくしも十年間この後宮で暮らしておりましたがこの様な隠し部屋があるとは知りませんでしたわ。隠し部屋という名に相応しく、余程この部屋を隠したかったのだと思い至りましたの。では何故隠したかったのか?それはこの部屋自体がダンテルマ様の墓所であるからではないかと、わたくしは考えました」
「………」
「ここは持ち去った遺骨をきちんと安置する為に作られた部屋。かつてダンテルマ様が愛人たちとの逢瀬を繰り広げられた部屋に似せたこの部屋が、ダンテルマ様のお墓なのですね。そして貴方はこの墓所を守る為にこの部屋に自らの魂の一部を定着させた……違いますか?」
イズミルが最後にそう尋ねると、
ダンテルマの姿をした魔術師の魂は端的に答えた。
「当たっているが、違うな」
「え?」
「魂の一部ではない。僕の魂、全てをここに定着させたんだ」
魔術師はそう言葉を継ぎ、イズミルを見た。
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次回、全ての真相が明らかに。
魔術師は何故このような事を……?




