扉を開けて
いつもお読みいただきありがとうございます!
グレアムの政務の調整がつく日に、グレアム立ち会いの下、グレアムが目を光らせながら、イズミルは後宮で見つかった隠し部屋の調査を開始した。
前回の部屋では部屋自体の存在はなく、“扉に施されていた封印を解いて開ける”というこの一連の作業が呪詛発動の鍵となった。
そして現国王であるグレアムの身に呪いが降り掛かったのだ。
今回もその可能性は否定出来ないとしてイズミルは、部屋に施された封印の解除と同時に自身の身に風の精霊魔術による結界を張った。
また王族であるグレアムが狙われないという保証はないので、もちろんグレアムにも。
イズミルの専属護衛騎士であるソフィア=ローラインも部屋の調査に立ち会いたいと強く願い出たのだが、イズミルはそれを固辞した。
剣の腕が立つとはいえど、魔術方面には疎いソフィアの身に何か起きてはいけないと思ったからだ。
専属侍女であるリズルも何故か自分も行くと…そしてイズミルを守るのだと息巻いていたが、これも丁重にお断りをしておいた。
二人が心配してくれるのは嬉しいが、
イズミルだって二人の事が心配なのだ。
ダンテルマの術は何が起こるかわからない。
だから極力、人数は少ない方がよいとイズミルは思った。
結局当日は、イズミルとグレアム。
グレガリオにランスロットとマルセルのみで調査に当たる事となった。
グレガリオにはランスロットとマルセルの結界をお願いしておいた。
「では始めますわね」
イズミルが術式を詠唱を始める。
精霊界の言語の術式だ。
ジルトニア大公家の祖が精霊王の加護を受け授けられた風の力。
その力を用いて呪いに用いられている魔力を浄化して無効化するのだ。
これで入り口に施された呪いや魔術を用いた封印術やトラップなどの術式は効力を失い、ただの文字と化しているはず。
「扉を開きます」
「待てイズミル、俺が開ける」
そう言ってグレアムがイズミルの前に出た。
それをランスロットが呆れた口調で制する。
「いや何言ってるんですか貴方達は。王と王妃に何かあったらどうするんです、ここは私が開けますよ」
そのランスロットの言葉にマルセルが返す。
「いや未来の宰相サマに何かあったら国の損失でしょ、この場合は俺が開けるのが妥当じゃない?」
「ふぉっふぉっ儂は嫌じゃぞい」
「マルセルはこんなんでも侯爵家のご令息ですからね、何かあってはカストール侯爵に合わせる顔がありません」
「だからこそこの場で一番魔力の高い俺が開けるのが得策だ。王もへったくれもない」
「ふぉっふぉっ儂はもう高齢ですから嫌ですぞい」
「へったくれがないわけないでしょう。君主を危険な目に遭わせるなんてとんでもない。伯爵家の三男の私が妥当です」
「次男とか三男とか関係なくない?」
「国王の言が聞けないというのか」
「ふぉっふぉっ儂は持病の寝癖が酷くて無理ですぞぃ」
「寝癖の持病って何?それにグレガリオ先生ってばツルピカじゃないですか」
「やはりここは俺が…」
「もう!わたくしが開けますから!」
「「「あーー!」」」「ふぉっふぉっ」
男三人と老人一人で言い合っているのに痺れを切らしたイズミルが先ん出て扉を開けた。
ガチャリとドアノブを引いてゆっくりと扉を開ける。
妙な魔力の揺らぎが無いかを確認しながら慎重に。
開いた扉の向こう側には……
「え?」
数百年によく着用されていた古いデザインのドレスを着た女性が一人、部屋に置かれたベッドに座ってこちらを見て微笑んでいた。
扉には封印が掛かっていた。
イズミル達の前に開けられた痕跡は一切見当たらない。
ーーまさか……
イズミルは部屋に居る女性を凝視する。
艶かしい容姿の妖艶な美女。
ダークブラウンの髪にペリドットの瞳。
少し厚みのある唇は熟れた果実のような艶めきがあった。
グレガリオから散々聞かされてきたあの狂妃の容貌と合致する。
イズミルは信じられない気持ちでいっぱいになりながら、
恐る恐るその名を口にした。
「………ダンテルマ……様?」




