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後宮よりこっそり出張、廃妃までカウントダウンですがきっちり恩返しさせていただきます!  作者: キムラましゅろう


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わたくしの愛する貴方とあなた

いつもありがとうございます!

解呪の術に用いた魔力の残滓がキラキラと光の粉の様に舞う中で、向こうを向いて立つグレアムの広い背中をイズミルは見つめていた。

 


ーーグレアム様……。



心の中では呼べる名も、どうしても声に出てはくれなかった。


解呪の儀は終わっているというのに一向にこちらを向かないグレアムに、イズミルは焦燥感を覚える。



「グレ…アム、様……」


ようやく、声が彼の名を形取って出てくれた。


グレアムの肩がぴくりと跳ねた。


そしてゆっくりと振り返る。


その姿は当たり前だが呪いを受ける前となんら変わらない。


だけどなんだか何年も会っていなかったような気がするのは何故だろう。



「グレアム様」


今度はしっかりとその名を呼べた。


グレアムはただイズミルをじっと見つめていた。


その表情はどこかぼんやりとしていて、

イズミルの呼びかけにも反応が悪い。



解呪が上手くいかなかったのだろうか。


精神になんらかの支障を来たしたのか。


イズミルの心に不安な陰りが差す。



「っ師匠(先生)……!」


焦ったイズミルがグレガリオの方を振り返った。

がその時、ふいにグレアムがイズミルの名を呼ぶ。



「イズミル」



「……!」



イズミルは再びグレアムの方へと視線を戻す。



すると今度は優しい笑みを浮かべて両手を広げて名を呼んでくれた。



「おいでイズミル」



瞬間、足を踏み出していた。



皆が見ていても構わない。


イズミルはグレアムの胸に飛び込んだ。



「グレアム様っ……!」



涙が溢れ出す。


本当はとても不安だった。


会いたかった。


こうやって抱きしめて欲しかった。


他の誰でもない、愛する貴方に。



腕の中で小さく震えながら泣くイズミルをグレアムは包み込むように優しく抱きしめてくれた。



「心配かけてすまなかった。一瞬、頭の中が混乱していた。呪いにかけられるなんて、王として情けないな」


イズミルは静かに泣きながら首を横に振り続ける。



「しかしどうやら無事に解呪は済んだようだ」


その言葉を聞き、イズミルはハッとして顔を上げてグレアムの様子を窺った。


「どこか違和感を感じるところはありませんか?痛みは?不快感は?」


矢継ぎ早に問い詰めるイズミルに対して、グレガリオの笑い声が横から入る。


「ふぉっふぉっふぉっズーちゃんよ、そんな一気に言われたら陛下も答え難いぞい」


「あ…そうですわね。イヤだわ、わたくしったら……」


ランスロットも側に来て告げた。


「しかし一昨日まで熱を出されていた事ですし、大事をとって悪い事はないでしょう。とりあえずは医師の診察を受けてお休みください」


「なんだ大袈裟だな。呪いの一つや二つ平気だぞ」


「その呪いに引っ掻き回されていたのはどこのどちら様で?」


「むむむ……」


正論主義のランスロットに勝てるはずもなく、

グレアムはとりあえず寝室へ行き、そこに主治医が呼ばれる事になった。



「なんだせっかくベッドから出られたと思ったのにまた逆戻りかっ」



会議室を出る時にグレアムがそう言った。



ーーグレアム様は子どもに戻っていた時の記憶はお持ちなのかしら……?



今の発言を聞き、イズミルはふとそう思った。





診察の結果、グレアムの身体に異常は見つからなかった。


イズミルはグレアムに言う。


「どこも悪くなくて本当によかったですわ」


「俺は丈夫なだけが取り柄だからな」


「まぁうふふふ…」


「もう何年も風邪を引いていないキミには負けるがな」


「………!」



それは……その話は……



「熱を出したらキミの顔もトマトみたいに赤くなるのか見ものだ」


「グレアム様っ……子どもの時の記憶が……?」


グレアムのもの言いに、イズミルは縋る思いで尋ねた。



「あぁ。全部あるぞ。過去の八歳時の記憶も、先ほどまでの八歳の記憶も……イズミルの言った通りだな、俺は消えなかった」


「はいっ……」


イズミルは再び涙した。



あの小さなグレアムの不安そうな顔が、


忘れないで欲しいと言った声が、


イズミルの脳裏に去来する。



「グレアム様……」


「ありがとうイズミル。お前は、どんな時もどんな俺も好きでいてくれた」


「当然ですわ。わたくしは本当に貴方とあなたの中のお小さいグレアム様が大好きなんですもの」



「互いに初恋の相手同士だしな」


イズミルがそっと指先で涙を拭いながら言う。



「ふふふ。光栄ですわ」




今のグレアムの中に小さなグレアムが居るならば、それはそう言う事になるのだろう。


互いが初恋の相手。



後宮で息を潜めて暮らしていた日々を別の形でとりもどせたような、そんな気がした。





それから直ぐにまた緊急の知らせが入る。 



グレアムは翌日には政務へと戻っていた。


自室にいるイズミルと執務室にいるグレアム。


それぞれの元にその報告が届いた。



取り壊し解体中の後宮から、また怪しげな隠し部屋が見つかったという。



後宮を完全に取り壊してしまう前に、


積もり積もったダンテルマの怨恨を何とかせねばならないと、イズミルは思った。




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