ダンテルマの思念
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新たに見つかった隠し部屋の封印を解き、慎重に扉を開けたイズミルの目に飛び込んで来たのは、
一連の呪詛やトラップを仕掛けた超本人、数百年前に実在していた国王の側妃であったダンテルマその人の姿であった。
「え……そ、そんな……まさか……」
当然、イズミルは俄には信じられなかった。
幻覚ではないかと何度も見直す。
そんなイズミルの様子を怪訝に思ったグレアムが声を掛けて来た。
「どうかしたのか?イズミル」
「え?だって……」
イズミルはまた視線を室内に移す。
するとグレアムもイズミルの視線を辿るように室内に目をやり、そして訊いてきた。
「室内に何かあるのか?見たところ古い朽ち果てそうな寝台の骨組みが置かれているだけのようだが……」
「えっ?」
どういう事だろう。
グレアムにはダンテルマの姿が見えないという事か。
それにイズミルにはダンテルマが座しているのは、豪奢な飾り彫の美しい真新しい寝台にしか見えないのだけれど。
それを朽ち果てかけた骨組みだけの寝台とは……
グレガリオやランスロット、マルセルも誰の目にもダンテルマの姿は見えていないようなのだ。
イズミルがもう一度ダンテルマに視線を戻す。
すると彼女は大輪の薔薇が咲き綻ぶような笑みを浮かべ、ひとさし指をそっと自身の唇に当てた。
黙っていろという事なのだろう。
どうやらダンテルマの姿はイズミルにしか見えず、部屋の設えもグレアム達とは見ているものが違うのだと理解した。
イズミルはそれ以上は何も告げず、形だけ室内を調べてからこの部屋に異常は無いとした。
ーーこれはきっと、わたくしだけが向き合うべき事なのだわ。
イズミルは直感的にそう思い、とりあえずグレアム達とその場を後にした。
そして改めて一人、
誰にも知られないようにして先ほどの隠し部屋へと戻った。
何故そうしたのか、自分でも分からない。
でも何故か、そうしなければきっとダンテルマは何も語らない。
そう思ったのだった。
再び扉に何か細工をされていないか確かめて入室する。
するとそこにはやはり、ダンテルマと思われる女性がベッドに座していた。
イズミルは彼女に話しかけた。
「貴女は……ダンテルマ様ご本人だという認識でよろしいでしょうか?」
ダンテルマは微笑みを浮かべたまま頷いた。
そして、
「如何にも。私がアズラム王第七妃、オ=ダンテルマよ」
と言った。
しかしその声は目の前のダンテルマから発せられたものではない。
耳を介してではなく、直接脳に語り掛けられている感覚だった。
イズミルは背筋を伸ばし、ダンテルマと向き合う。
「わたくしの名はイズミル。第三十五代、グレアム王の正妃にこざいます」
「三十五代……随分時が進んだのね。私の姿が見れるのだから、貴女が王妃だという事はすぐにわかったわ。だってこの部屋は元々、王妃や一の寵妃でないと開けられない仕掛けにしておいたのだもの。そしてこの部屋を訪れた妃にのみ、私と対話出来るようにしておいたのよ」
「何故わざわざそのような手の込んだ事を……」
イズミルがそう言うと、ダンテルマは悪戯な表情を浮かべて答えた。
「さぁ?ただ、ここまで一人でやって来れる胆力のある妃としか話す気はなかったもの。それだけの事よ」
「話す……何故数百年前に亡くなった貴女とこうやって話す事が出来るのかしら?」
「だってそうなるように術を掛けたもの。魂の一部をこの部屋に定着させて、後世に遺したの。私という人間の存在を知って貰うために」
「貴女という存在……」
ダンテルマはイズミルに微笑み続けながら語る。
「そうよ。私という存在を、正しく理解できる妃にのみ、私の最高傑作の呪詛の解呪方法を教えてあげようと思ってね」
「最高傑作の……呪詛っ?」
ダンテルマの口から発せられた聞き捨てならない言葉にイズミルを目を丸くした。
まさかまだこれ以上に大きな呪詛を仕掛けているというのか?
イズミルはダンテルマを凝視する。
ダンテルマはイズミルのその様子を満足そうに見つめていた。




