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後宮よりこっそり出張、廃妃までカウントダウンですがきっちり恩返しさせていただきます!  作者: キムラましゅろう


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星降る夜に二人で

幼いグレアムが、封印を解いて元に戻ると自ら決めた。


強い意志を込めた表情で。

でも手は小さく震えていた。


イズミルは思わずその手を自身の手で包み込んだ。 


冷たくなった指先を少しでも温めてあげたくて。


帰りの馬車の中でいつまでもそうしていた。




王宮に着くと、いつも通りの元気なグレアムに戻っていた。


長い時間の移動の疲れを感じさせない足取りで馬車を降りる。


その後も元気に夕食を食べ、元気に入浴を済ませ、元気に就寝した。


誰の目から見ても空元気、無理をしているのがよく分かる。


イズミルは側近達と話をした。


ゲイルが憂いを含んだ声で言う。


「せめてもう少しこのままで……と云う訳にはいきませんよね……」


「イタズラに時を稼ぐ方がますます辛くなるでしょう」


「それこそ酷というものだよねぇ……」


皆、口々に思いを吐き出しては嘆息する。


イズミルは皆に告げた。


「お小さくとも陛下はこの国の王として決断を下されました。ご自身の目でこの国の民の暮らしや風土をご覧になられ、ご自分が背負っているものを理解されたのです……わたくし達に出来るのは、そんな陛下をお支えする事ですわ」


「はい」

「誠、その通りにございます」



解呪の儀は明日。

グレガリオの術を用いてとの事となった。


呪いの解呪は本人次第。

本人がそれを受け入れるなら、どのような術であろうと解呪は可能であろうとグレガリオが判断した。



話し合いが終わり、イズミルが侍女の一人を伴って自室に戻る時、ふとテラスにいる小さな子どもの人影に気付く。


この王宮にいる子どもは一人しかいない。


イズミルは侍女を下がらせて、そっとテラスに出た。


するとそこにはやはりチビグレアムがテラスに置かれたベンチに座り、星空を眺めていた。


イズミルは囁くような声でグレアムを呼ぶ。


「グレアム様」


グレアムは目を丸くしてイズミルを見た。


「わぁびっくりしたぞ!イズミル、こんな夜更けにどうしたんだ?」


「グレアム様こそ、このような遅い時間にお一人で何をされているのですか?」


「なんだか眠れなくてな、星を見たくなってベッドを抜け出して来たんだ」


「まぁ、そうだったのですね。今夜は星がとても綺麗に見えますわね」


「本当だな。二十年後の星空も変わらないのだなと考えていたんだ」


「そうですか……お隣に座ってもよろしいでしょうか?」


イズミルが訊くと、グレアムはベンチの座面をべちべち叩いて隣に座るように促した。


「もちろんいいぞ!イズミルなら俺と並んで座ってもよいのだから!」


「ふふ。では失礼します」


イズミルは微笑んでグレアムの隣に座った。


「「…………」」


沈黙が二人を包んだ。


だけどその沈黙が心苦しいなどと微塵も思わなかった。


言葉を交わさずとも側に居るだけで落ち着く。


それは大人のグレアムとでも子どものグレアムとでも同じなのだなとイズミルは思った。


ふいに小さなグレアムがイズミルの名を呼ぶ。


「………イズミル」


「なんでしょう?」


「本当の気持ちを言ってもいいか?」


「もちろんですわ」


「俺は……そうするのが一番良いのだと納得して元の姿に戻る事にした。だけど……本当は、不安でたまらないんだ」


「不安……ですか……」


「皆、口を揃えて元に戻るだけだと、本来の姿に戻るだけだと言うが、今ここにいる俺が消えてしまうのだと思うと、不安でたまらなくなる」


「グレアム様……」


「今の俺ではなくなるんだと思うと、やはり怖くて……」


グレアムの消え入りそうな小さな呟きが、星空の下に溶けていった。


俯くグレアムの小さな体をイズミルは抱きしめた。


そして声は小さくとも力強く告げる。


「同じ人間だと言っても、今の自分と違うのであれば別人のように感じてしまうのは当然の事ですわ。そして不安に思うのも当然です。グレアム様がお嫌であれば、もっと先送りにしても良いのです。せめて不安が、恐怖が無くなるまでこのお可愛らしい姿で居て欲しいですわ」


イズミルのその言葉を聞き、グレアムが腕の中で小さく息を呑んだのが分かった。


今すぐに戻る必要はない。

その姿で居て欲しい、そんな風に言って貰えるとは思っていなかったようだ。


グレアムの体が小刻みに震えているのを感じた。


泣いているのだろうか……


イズミルがそう思った時、微かな笑い声が耳に届く。


「くっくっくっ……イズミルは案外、後先考え無しなのだな……くくっ、先送りでいいなどと……」


「ふふふ。わたくしは嫌いな食べ物は後回しにするタイプなのですわ」


「あはは!呪いの解呪を食べ物を食べるタイミングと一緒にするなんてイズミルは面白いな!」


グレアムの笑顔を見れて、イズミルは安堵する。

やはり彼には笑っていて欲しい。


イズミルがそう思っていると、

チビグレアムは子どもらしからぬ不敵な笑顔で言った。


「でもそうだな、やはり男としては抱きしめられるよりも抱きしめる方がいいなと思う!だって夫婦だというのに、これではあまりにも俺が情けない光景ではないか。だからさっさと大人に戻ってイズミルよりもデカくなって、今度は俺の方がすっぽりと包み込んでやるぞ!」


ドヤっと言い放つグレアムに、イズミルは吹きだした。 

結構恥ずかしい事を口にしているのには気付いていないようだ。


「ふふ。楽しみにしておきますわ」


「そうしてくれ!」



そう言って二人、また夜空を見上げる。



グレアムが小さな声で「ありがとう」と言った。



イズミルは満天の星々を見上げ続ける。




この日幼いグレアムと共に見た星空の美しさを、

イズミルは生涯忘れないだろうと思った。


いや、忘れたくないと思ったのだった。







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