表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
後宮よりこっそり出張、廃妃までカウントダウンですがきっちり恩返しさせていただきます!  作者: キムラましゅろう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/86

連理の枝

初冬ではあるが、ハイラント国王グレアムと

元ジルトニア公女イズミルの結婚式は

大陸随一と謳われるハイラントバシュレ大聖堂にて厳かに執り行われた。


パールホワイトのウェディングドレスに身を包んだイズミルのその美しさは瞬く間に大陸中に知れ渡る事となる。


もともと婚姻して10年の夫婦であったにも関わらず、正妃となったのを機に改めて結婚式を執り行ったのは、ハイラントの属州となった元ジルトニア国民たちに大公家唯一の生き残りであるイズミルの成人となった姿を見せる事と、永きに渡り正妃不在であったハイラントの後継を危ぶむ声を払拭するためであった。


大聖堂に到着し、馬車を降りたイズミルが

白の詰め襟の王族の正装姿のグレアムと並び立つと、群衆から賞賛の声が沸き起こった。


こんなに美しい国王夫妻は大陸中どこを探しても

いないのではないかと言わしめるほどに似合いの

夫婦だと一瞬で認知されたのだ。



イズミルと共にバージンロードを歩いたのが

かの高名な賢人グレガリオだというのもさる事ながら、イズミルがグレガリオの最後の弟子だという事が更に皆を驚かせた。


イズミルの手がグレガリオによりグレアムの手へ。


温かく大きな手が包み込んでくれる。


優しく微笑んでくれる。


それだけでイズミルは胸がいっぱいになった。


二人、神と大司教の前で誓いの言葉を立て

大司教が高らかに二人が紛ごう方なき夫婦であると宣言した。


共に向い合い、グレアムが誓いの口付けを落とす。


そっと触れるだけの唇が離れると

イズミルの瞳から大粒の涙が一粒零れた。


グレアムが堪えきれず今度は額に口付けをすると

参列席から割れんばかりの拍手が起きた。


イズミルは恥ずかしくてたまらなかったが、

皆が祝福してくれる事が本当に嬉しかった。


その後は王都内をパレードし、

祝賀の夜会を経て、ようやく長い一日が終わろうとしていた。



そろそろ自室へ戻ろうかとしていた時、


グレアムがイズミルに

見せたいものがあると言った。


そのままターナやリズルや主だった側近達も

連れ立って、

グレアムはイズミルを王家の霊廟へと連れて来た。


〈霊廟に何かあるのかしら?〉



不思議に思っていると、

グレアムはあのエンシェントツリーの描かれた

広間の扉を開けた。


中には既にリザベルが居て、

ちゃっかりとグレガリオも来ていた。


「ふぉっふぉっ、来たなズーちゃん、

本当に良かったのぉ。碌でもない旦那というのは

取り消してやってもよいかな♪」


「?」


グレガリオの言葉の真意がわからずきょとんとする

イズミルをグレアムが引き寄せる。


「イズミル、見てごらん」


グレアムがエンシェントツリーの方へと

視線を移す。


イズミルもそれに従い目をやる。


ハイラント王家の壮大なエンシェントツリー。


家系図を樹木に見立て、無限に伸びていく枝の先、

当世グレアムの名の横にイズミルの名が

記名されていた。


まだ子を成していないのに記名されている事にも

驚いたが、イズミルが驚いたのはそれだけでは

なかった。


イズミルの名の所から別方向へと枝葉が

描かれている。


そこにはイズミルの父と母と兄の名、そして

曽祖父であるジルトニア大公バニシアムまでの

家系図が記名されていた。


「………!」


ジルトニア事変により城と共に焼失した

ジルトニア大公家のエンシェントツリーの一部が

そこに描かれていたのだ。


「これからはハイラントの大樹と一つになって、

ジルトニア大公家の血筋も延々と続いていくんだ、

キミと俺とで繋げてゆこう。その為にここに新たに

描かせた」


「グレアム様っ……」


イズミルの瞳から涙が溢れ出た。


もう二度と描かれる事はないと思っていた

ジルトニア大公家のエンシェントツリーが

まるで枝から新芽が芽吹くように復活したのだ。


きっと亡き家族も心から喜んでくれているに違いない。


「グレアム様…本当に嬉しいです、

ありがとうございます……!」


溢れる涙が止まらない。

グレアムが優しく拭ってくれた。


「うっ…ううっ……よ、良うございましたねっ……姫さまっ……!」


後ろでイズミルよりも大きな声でターナが

泣き出したので、皆は思わず笑った。


リザベルがイズミルを抱きしめる。


「イズミル。グレアムを見捨てず、想い続けてくれてありがとう。祖母として心からお礼を言うわ。

そして貴女の弛まぬ信念に敬意を。幸せになるのよ、今までの分も、家族の分も」


「リザベル様……はい……はいっ……!」


イズミルはリザベルに抱きしめられながら

何度も頷き、涙を流し続けた。



その光景をハンカチを濡らしながら見ていたリズルにマルセルが話しかけた。


「良かったよね、元ジルトニア国民としても

やっぱり嬉しい?」


リズルは目に涙を溜めながら元気よく頷いた。


「はいっ、ソレはもちろん!

国王陛下は最高ですね!さすがはイズミル様の

旦那様ですっ!」


「アレ?じゃあその側近の僕たちも最高という事になる?」


「……そうなり、ますか?」


「なるよ」


「はぁ……」


要領を得ない顔をするリズルに

マルセルが極上の笑顔を返した。



そんなマルセルとリズルのやり取りを他所に

グレアムが祖母に言う。


「おばあさま、そろそろイズミルを返して下さい」


「まぁなに?独占欲を剥き出しにしちゃって、

心の狭い男は嫌われるわよ」


リザベルがわざとイズミルを更に抱え込むようにしてグレアムから遠ざけた。


「なんとでも仰って下さって結構です」


そう言ってグレアムはリザベルから

イズミルを奪い返し、自らの懐に抱え込んだ。


そんな二人にグレガリオが告げる。


「遠く東方の国には

“地にあっては連理の枝とならん”という言葉が

あるそうじゃ。お前さん方はまさに連理の枝。

夫婦仲睦まじく、更に枝葉を伸ばし、良き国を

治めてゆく事を願っておりますぞ」


師匠(先生)……」


イズミルとグレアムはこの珍妙だが懐深き賢人に

深く頭を下げた。


「共に末永く、連理の枝とならん事を」


グレアムがイズミルに言う。


「はい、あなたと共に」


イズミルが誓う。





今は無き後宮に

「忘れられた妃」と呼ばれた娘がいた。


娘の名はイズミル。


祖国を失い、家族を失い。

それでも彼女は弛まぬ努力を重ね、自らの力で

運命を切り拓き、幸せな人生を掴み取った。


そして後々の世まで賢王と讃えられた夫を良く支え、国民の一人一人から愛される国母となった。



イズミル妃はいつも言っていたという、


「どんな時でも諦めず、自分に出来る最善を

尽くしてゆけば、いずれ道は切り拓かれ望む未来へと

と辿り着ける」と。



それを話すイズミル妃の隣では

いつも目を細めて彼女を見つめる、国王の姿が

あったという。








           終わり




本編はこれにて完結です。

引き続き番外編もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] イズミルの一途さに涙しました。ハッピーエンドのごん狐! 初期の殿下の無体にも滅気ず、只管に恩返しをする。こんな良い娘、はやく幸せになってくれと思いながら読んでおりました。 お疲れさまです。…
[良い点] 紆余曲折はあれどイズミルさんの一途な想いだけは変わらず。 彼女を見守る太王太后様や賢人様のあたたかさ、侍女たちのお姫様至上主義。 [一言] 本編完結おめでとうございます。 番外編も楽しみに…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ