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後宮よりこっそり出張、廃妃までカウントダウンですがきっちり恩返しさせていただきます!  作者: キムラましゅろう


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王命です!

「リズル、トランクは全部で10個よ、荷物は7つ、

忘れ物が無いように気を付けてね」


イズミルの長年の侍女、ターナが新人侍女の

リズルに声かけをした。


「はい、お任せ下さい、もう荷馬車に全部

積んで貰ってます」


「さすがね、ありがとう。あなたが居てくれて

本当に助かるわ。それに一緒に付いてきてくれて

ありがとう」


「何を仰いますか!

わたしは生涯イズミル殿下にお仕えすると

心に誓ったのです!どこまでも付いて行きます!!」


「ふふ、頼もしいわね。

これからもよろしくね、リズル」


「はい!ターナさん!!」



自身の専属侍女二人が

そんなやりとりをしている頃、

イズミルは後宮内を歩き、様々なものに別れを

告げていた。


今日はいよいよ後宮を去る日である。



後宮入りした当初の面影は見る影もなく

変わり果てた後宮。


華やかだった宮は今や廃れ、

所々傷みが目立ち、廃墟のようである。


イズミル達が居住空間として使っていた数部屋は

昔のまま綺麗に維持されているが、

イズミルが去った後は他の部屋と同じように

荒んでゆくのだろう。


後宮解散前から数えると計11年、

ここで暮らした事になる。


愛着が湧かないはずはないし、

ここを離れる寂しさは一入(ひとしお)だ。


ありがとう。


さようなら。


イズミルは一つ一つに別れを告げてゆく。


いつかここでの日々を遠い記憶として

懐かしむ時がくるのだろう。


その時、グレアムの事も淡い初恋の思い出

として懐かしく感じる事が出来るのだろうか。


今はこんなにも痛む胸も、いつか笑って

振り返れる日が来るのだろうか。


恩返しのために過ごしたこの一年を

決して悔いたりはしない。


でもこの一年で更にグレアムへの想いを

募らせてしまい、自分自身を追い詰める事に

なってしまった。


それでもどうしようもないのだから仕方ない。


イズミルはグレアムの前で歌った、あの精霊の歌を

口遊(くちずさ)みながらゆったりとした足取りで

後宮内を歩き回った。



「姫さま、そろそろ出立のお時間でございます」


ターナが刻限が来た事を告げる。


イズミルは小さく頷いた。


リザベルが見送りに来てくれるはずだったのだが、

急用が出来て来られなくなったらしい。


でもこれからイズミル達が滞在するホテルの方に

しょっ中顔を出すと言ってくれているので

これでお別れという事ではない。


むしろ自分の為に無理をして予定を変更

される方が申し訳ないから嫌だ。


イズミルはターナとリズルを伴って

後宮の出入り口の扉の前へと向かった。


この扉の外へ出れば、完全に全てが終わる。


リズルが先に出て、ゆっくりと扉を開けた。


イズミルが歩き出す。


そして後宮から出る最初の一歩を

踏み出そうとしたその時、


「妃殿下!!お待ち下さいませ!」


と突然大きな声で叫ぶように告げられた。



見ると太王太后宮の古参侍女が慌てて

走り寄って来る。


「どうしたのかしら?」


「何か問題でも起きたのでしょうか?」


ターナとリズルが不安気な顔で

こちらに向かってくる太王太后宮の侍女を

見ていた。


侍女は再び大きな声でイズミルに告げる。


「王命ですっ妃殿下!!

出立は見合わせるようにと!後宮から出ては

ならないとの仰せにございます!!」


「…………え?」




◇◇◇◇◇



イズミルにそんな突然の王命が下る数時間前、


グレアムは漸くリザベルと対面する事が出来た。


リザベルが帰城したのは昨日だが、

疲れて話し合いなど無理だとか年寄りに無体を

強いるのかとかウダウダと文句が出て、

結局その日は諦めざるを得なかった。


そして今日、

朝イチで太王太后宮まで出向き、リザベルを

捕捉した。



開口一番、リザベルはこう告げた。


「わざわざ魔力を使ってまで探さずとも

元々昨日、帰るつもりだったのに…ご苦労な事だわねぇ」


「さようですか……」


グレアムは少し半目になりながら応えた。


「それで?大陸中を探し回らせるほど(わたくし)に聞きたい事とは何かしら?今日は忙しいのよ、これから貴方の最後の妃の見送りに出向かないといけないのだから。もちろん最後くらい、貴方も足を運ぶわよねぇ?あ、そうそう、離縁状にサインを忘れないでね?」


リザベルは穏やかな声色だが

かなりの早口で捲し立てた。


そしてじっとグレアムを見つめている。


まるで何かを探るような。

何かに縋るような。


グレアムはリザベルに告げた。


「最後の妃……それはイズーの事ですね?」


その言葉を聞き、リザベルは目を見開いた。


「………漸く気付いたのね」


「……はい」


「それで?()()()何?まさかあの子が身分を隠して貴方に近付いた事を咎めるのではないでしょうね?」


「咎めなど致しません。

でもどうしてもわからない。なぜ彼女はそんな事

までして俺の側で補佐官として働いたのです?」


「本当にわからないの?」


「わかりません。恨まれはしても、王家のために

尽力してくれるなど、理由がわからない」


「……無頓着というか、まぁ恩着せがましく

思ってる男よりはマシなのかしら」


「?」


「あの子はね、ジルトニア事変から後宮での

あの惨事を経て今に至るまで、貴方に恩義を返す為に全てを懸けて生きてきたのよ。祖国を救い、守り続けてくれている貴方の役に立ちたいと、学び、魔力を高め、術を研鑽し、退城のための準備期間として後宮から出る事を許された最後の一年を貴方に恩返しするためだけに全て費やし、側で仕えたの。これからの自分の人生の事を後回しにしてまでも」


一気に言い募ったリザベルの言葉をグレアムは

驚きの表情を浮かべながらも黙って聞いていた。


「貴方にとっては責務の一つに過ぎない事だったのでしょうけど、イズミルにとっては家族の無念を晴らし、ジルトニア国民と国土を救ってくれた貴方に言葉では尽くせないほどの感謝をしているのよ。そしてそれは一方的に受け取るだけではなく、どんな形であれ返さねばならない、そう考える子なの、あの子は」


グレアムの脳裏に、あの時の記憶の一部が蘇る。


まだ幼かったイズミルが、

生涯を懸けてグレアムとハイラントに恩返しがしたいと懸命に言っていた記憶が。


グレアムは俯いた。


彼女はその為に後宮に留まったのか。


「8年間、誰にも構われず、

忘れられた妃などと揶揄されても、それでも懸命に

恩返しという目的のためだけに生きて来たの、

あの子は」


一年前に再会した時、

側で働かせて欲しいと必死だった

イズミルの姿を思い出す。


自身の髪を切り落としてまでも

側に置いて役立てて欲しいと懇願したイズミル。


グレアムはたまらず目を閉じ、拳を握りしめた。


その様子を見てリザベルは尚も言い募った。


「そんなあの子に貴方は何をしてきた?

何もしない、不干渉、無関心、ある意味何よりも

残酷な仕打ちをイズミルにして来たという事実は

ちゃんとわかっているのかしら?」


「……はい」


「それでこの上、貴方はあの子に何を望むの?

あの子をどうしたいというの?」


グレアムはリザベルが自分に自覚を迫っている

のだとわかった。

そして最終的な確認をしているのだと。


イズーが自ら遠ざけた妃だったと知った上で

やはり過去に縛られ無理だと手放すのか、

それとも……


ここで答えを見誤れば、

例え王家の存亡の危機だとしても

きっとリザベルはイズミルには会わせてくれないだろう。


どの言葉を紡げば正解なのか、

どのような態度が正解なのかグレアムには

わからない。


しかし、自分の気持ちは、想いはもうとっくに

決まっている。


イズミルと共に生きてゆけるなら、

あれだけ辛かった過去など瑣末な事だと

思えてしまうほどに。


グレアムは目を開けリザベルの顔を一心に

見つめた。


「……最初は変な娘だと思ったんです。それから

面白い娘だと。そして彼女の為人を知るうちに

どんどん惹かれていって……自分でも、もうどうしようもないくらいに彼女の事が好きなんです。

妃に迎えるならもう彼女しか考えられない。いや、元々俺の妃か…とにかく許されるのであれば彼女を諦めたくない。手放したくはないのです。どうか彼女に、イズミルに会う許可を下さい」


「なぜ私に許しを請うのです?」


「誰よりも彼女を守り慈しんできたのは

おばあさま、貴女です。これからは貴女の代わりに

生涯を懸けて、全身全霊を込めて彼女を守り、

慈しむ立場を俺に譲って頂きたいのです。

どうか、どうかお許しください、お認め下さい」


グレアムは膝に手を突いてリザベルに

頭を下げた。


リザベルは厳しい眼差しでグレアムを

見つめている。

そしてグレアムの手が小刻みに震えているのを見て

肩の力が抜けたように大きくため息を吐いた。


「もうっ、本当に遅いわよっ!

何年待たせたと思っているのっ?今まで放置した分、イズミルを大切にしないと許しませんからね!だけど貴方の正念場はこれからよ?私が許しても

イズミルが許してくれるかはわからなくてよ?

誠心誠意、土下座でもなんでもして許しを乞い、

愛を叫んでらっしゃい!もし貴方が日和ったり格好つけたりしてイズミルに去られたら、貴方の嫌いなタイプの女性を問答無用で王室に迎えますからね!わかった!?」


「……わかりました、

ありがとうございます……!」


グレアムが再び頭を下げるのを見て、

リザベルは今度は悪戯っぽい笑みを浮かべながら

ある事実を告げた。



「でも間に合うかしらね~?

本当はイズミルには定刻になったら予定通り

退城するように告げてあるの。そしてそろそろその

刻限よ?今から走って、間に合うかどうかよね~」


「ちょっ……!?」


その言葉を聞いた途端、

グレアムが勢いよく立ち上がった。


そして部屋を飛び出す。

部屋の外で待機していたランスロットとマルセルが

驚きながら慌ててグレアムを追いかけた。


「え!?陛下っ!?」


「い、如何なされました!?陛下!?」


二人が大声を出しながら後に続くも

グレアムは構わず走り続け、太王太后宮を後にした。


その様子を笑いながら見ていたリザベルが

自身の侍女に告げた。


「隠し通路を使って先回りして、後宮のイズミルに

伝えて。退城するのを待つようにと王命が下ったと……まったく、世話が焼けるわねぇ」



それを知らないグレアムは礼儀も何も、

国王としての体面もかなぐり捨てて城内を

猛スピードで駆け抜けた。



〈待ってくれイズミル……!俺は……キミに

キミに伝えたい事がいっぱいあるんだっ……!〉



ホントはそんなに必死にならなくてもイズミルは

待ってくれてる事を知らないグレアム。


まぁ……頑張れ。

































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