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後宮よりこっそり出張、廃妃までカウントダウンですがきっちり恩返しさせていただきます!  作者: キムラましゅろう


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30/86

拗らせ王、怒る

奇跡が起きたのだとわかった。


だって一国の、

しかも大陸で一二を争うほどの大国の王様が

末端の新人侍女であるわたしの言った事を

信じてくれるなんて……!


これを奇跡と言わないでなんと言うの……?


騒然とする周囲がなんだか遠く感じる。


怒気を放ちながらグザビエ様の元へ向かう

ハイラントの王さまに、


真っ青な顔色で辺りに指示を出される王太子殿下、


そして慌てふためく沢山の人たち……。


それらが全部、なんだか遠く感じる。


そうか、これが放心状態というのか……。

きっとあの王さまがイズーさんを助けてくれる。


良かった……ホントに良かった……。

でもゴメン、孤児院のみんな……。

わたし、お仕事無くしちゃった……。

きっとこれでクビになる。

主人を裏切ったんだもん、罰せられる事はなくても城から追い出されるのは間違いないと思う。


でも後悔は微塵もない。

これでイズーさんを見捨てる方が何倍も後悔したと思うもの。

だから……これで良かったんだ。


そんな事を考えるわたしの頭を、

さっきまでわたしの体を押さえてた人が撫でてくれた。


「よく勇気を出して教えてくれたね、ありがとう」


それだけ言い残してその人は王さまの後を追って行った。



わたしは撫でられた頭を思わず自分の手で押さえていた。




◇◇◇◇◇




グザビエの寝室の扉をぶち壊して

中に飛び込んだグレアムの目に最初に

飛び込んで来たのは、

寝台の上で力無く横たわるイズミルの姿であった。


途端に目の前にいる男に対して

押さえきれないほどの殺意が湧き上がる。


グレアムの怒気に気圧されてか、

それとも寝室の扉を結界ごと吹き飛ばされた事への衝撃か、グザビエは恐れ慄き、小刻みに震えている。


それともこの事が露見して、どれだけ問題となるか

そのお粗末な脳味噌でも理解出来るのか、

グザビエはイズミルを放置して慌てて

逃げようとした。


それをもちろんグレアムは許さない。


魔力による波動でグザビエの体を床に打ち付けた。


「ぐぁぁっ……!」


そして胸倉を掴み、高く掲げ捻り上げる。


「ヒッ……」


グザビエは息苦しさと恐怖で涙を流しながら

ガクガクと震えている。


そしてグレアムの気迫に命の危険を感じたのか

必死で命乞いをした。


「ゆ、許してくれっ……ほんの、ほんの出来心なんだっ……!あの女が言う事を聞かないからっ……

ヒッ」


グレアムの射殺すような眼光に

グザビエは最後まで言葉を続ける事が出来なかった。


「……何をした……?」


「えっ……?」


「彼女に何をした」


グレアムから発せられる殺気が増した。


「ま、まだ何もっ……!本当だっ、ただ薬で眠らせただけだっ……!」


それだけ聞くとグレアムはもう用はないと言わんばかりにグザビエを壁に強く打ちつけた。


全身に受けた衝撃により、

グザビエはそのまま意識を失った。

骨の2、3本は折れていそうだ。


グレアムの近衛達がグザビエを拘束する。


イコチャイア側の近衛や国王や王太子の側近達も

続々と駆けつける。


グレアムは寝室で横たわるイズミルの

元へと向かった。


外傷は無さそうだ。

どうやら本当に薬で眠らされているだけらしい。

着衣の乱れは……ない。


グレアムは心から安堵した。


あの侍女の話からも眠らされてそんなに時間は

経っていない。

どうやら(すんで)のところで間に合ったようだ。


何故こんなにもホッとしている自分がいるのか。


臣下が陵辱される前に救えた正義感からの

感情なのか、それとも……。


薬の所為だろうか、

イズミルは汗をかいているのに寒そうに

震えている。


グレアムは眠っているイズミルの半身を起こし、

包み込んだ。


自分の体温を分け与えるように。

もう誰にも害されないように。


するとイズミルの方から

グレアムの首に手を回し、縋り付いてきたのだ。


グレアムは思わず目を見張った。


心の底から温かな感情が込み上がり、


そんな事を感じる自分に驚く。



その時、後ろからランスロットが声を掛けてきた。


「陛下……とりあえずイズーを医務室に運びましょう」


「そうだな……」


グレアムはイズミルを抱き抱えた。


「陛下、担架を用意させましたが……」


「いい。このまま医務室まで運ぶ」


「……承知いたしました」


ずんずんと歩いて行くグレアムの後を

ランスロットが続く。


ランスロットはグレアムの背を

ただ黙って見つめていた。


「グレアム様……」


その時、イズミルの小さく呟く声が聞こえた。


「なんだ起きたのか」


グレアムが顔を覗きこむと、

見る間にイズミルの意識が覚醒していくのがわかった。


信じられないような目でグレアムを

見つめている。


「え?陛下!?な、なぜっ!?」


驚き、目を丸くしている様子に何故か安堵した。


いつものイズミルの様子と変わらないように

感じたからだ。


〈怖い思いをしていないと良いのだが……〉


その時、イコチャイアの王太子が駆けつけて来た。


「ハイラント王っ!補佐官どのはご無事だったとか……!良かった、本当に良かった!」


騒ぎにはなったが大事に至らなかった事に

王太子は心から安堵しているようだった。


しかしグレアムは王太子を一瞥して告げた。


「友好国の者に対してあまりにも無体な仕打ち、

しかもそれを行ったのが国を代表する王家の者とは……

呆れてものが言えませんな。援助の件は白紙に戻す事も考えさせて頂く」


静かだがまだ怒気を含んだグレアムの声に

王太子は焦りを見せた。


「お待ち下さい、ハイラント王!

今、援助を打ち切られたら、貯水事業は立ち行かなくなり、多くのイコチャイアの民が困る事になります!どうか、どうかお考え直しをっ!!」


「……第二王子(あの者)に然るべき制裁を。王族だからと手緩い処遇をされた場合には、こちらにも考えがある」


「わ、わかりました。それはもちろん、厳しく処罰致します……」


「ではよろしく」


それだけ言って、グレアムはまた医務室へ

向けて歩き出した。



その後イズミルは医務室にて体調に問題はないと

医師に告げられるまで、ベッドから出る事を許しては貰えなかった。




今回の婦女暴行未遂の発覚を皮切りに、

これまで第二王子グザビエが犯した罪が次々に

露見した。


数多の女性を無理やり手籠めにし、金と身分に

物を言わせ、有耶無耶にしてきた。


これによりグザビエは身分剥奪の上、

国外追放となった。


ハイラントを敵に回したくないという思いも

さる事ながら、さすがに国王夫妻も息子の

仕出かした罪の重さに言葉を無くし、この処罰を

認めたという。


そして改めて、グレアムとイズミルに謝罪があった。


このイコチャイア側の対応になんら不満を

感じる事はないので、グレアムは謝罪を受け入れ、これからも友好国として共に手を携えてゆこうと告げ、視察の締めくくりとした。


もちろん、イズミルもそれに異論はない。



それよりもイズミルには大切な用事がある。



イズミルは侍女たちの控え室に赴き

目当ての人物を見つけ、声をかけた。



「リズル」

























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