二人の妃(イズミル目線)
わたしの上の妃のお二人、
マチルド様とアマリア様の印象は真逆だった。
マチルド様は物静かで思慮深いお方。
アマリア様はお喋り好きでどちらかと言うと
苛烈なご気性。
わたしはどうやらお二人には
快く思われていないようだった。
わたしが何かをする度にアマリア様は
「まぁ~さすがは公女様ですわね~
わたくし達とは格が違いますわ」とか
「そのお顔立ちは大公様と大公妃様のどちらに似ていらっしゃるの?公子様ももちろんお美しいお顔をされてらっしゃるのかしら?羨ましい限りですわ~!」
とか
「既に大陸公用語のハイラント語と東方の国の言葉を話されるとか、凄いですわね~!わたくし達とは頭の出来が違うのですわね~!」
とか言ってきた。
でもまだ幼かったわたしは
“含みのあるもの言い”とやらが理解出来ず、
何か言われる度にその都度、
「今はもう公女ではありませんよ?」とか
「おばあさま似だと言われておりますわ、お兄さまはわたくしよりも、もっと美しいお顔をされていますけども」とか
「大陸中の言葉を話せるように勉強中です」
とか返していたら、小さな声で
「生意気で可愛げのない子ね」
と呟かれたのが聞こえた。
こ、これが噂に聞く後宮の洗礼というやつなのね!
と感動してターナに話すと、
ターナは眉を寄せてエスカレートしないように
見張らねば!と奮起していた。
歴史や世界情勢などは常に勉強させられていたから
理解出来るけど、人の機微を悟るにはまだまだ
幼かったと思う。
でもまだアマリア様はそうやってわたしの存在を
認識してくれているからマシだった。
第一妃のマチルド様は
わたしの存在を無視されたもの。
ご挨拶をしても聞こえないように振る舞われ、
決して目を合わされないどころかわたしを
視界に入れないようにしておられるようだった。
幼かったわたしは何故そんな扱いを受けるのか
理解出来なかったけど、
生来、くよくよ悩むのが嫌いな性分なので
気にしない事にした。
だって、妃教育にその他の勉強でとっても
忙しかったから。
グレアム様もリザベル様も
わたしに最高の教師を付けて下さった。
それに報いるためにも頑張らねばと、
日々邁進していた。
そんな中、
マチルド様のご様子が段々と様変わりされていくのが気にかかった。
控えめで大人しげな印象だったマチルド様の
お化粧が変わり、ご衣装の露出度が増え、
昼夜を問わずどこかに行かれる。
当時9歳のわたしが気が付くくらいだもの
アマリア様は当然気付いておられるようで、
ポツリと一言、
「バカな女」とだけ言われたのが印象的だった。
それからすぐに祖国ジルトニアで内乱が起き、
それどころではなくなったのでマチルド様の事は
頭から抜け落ちていた。
でも、
グレアム様がハイラントに戻られてすぐに
嫌でもその変化を思いださせる事実を知らされた。
マチルド様がグレアム様のお父君であらせられる
国王陛下の御子を身籠られ、
グレアム様の妃ではなく、
陛下の側妃になられるという事を。
何故?どうしてそんな事に?
わたしはグレアム様に申し訳なかった。
グレアム様がジルトニアへ赴き、
長く城を留守にされていた為にこんな事が
起きてしまった。
グレアム様は今、どうされているのだろう。
女官長の話だと
ただ黙々と政務をこなされていると。
きっと深く傷ついておられるに違いない。
わたしはグレアム様のために
何か出来る事はないかと、
アマリア様に相談してみた。
そうしたらアマリア様は、
「公女様のようなお子様にはまだ無理ですわ、
わたくしに全てお任せくださいませ。
グレアム様のお心をきっと癒して差し上げますから」と言われた。
何をお任せするのかしら?
その時のわたしには何もわからなかったけど、
後から意味がわかった時は複雑な気持ちになった。
だってその後、グレアム様は全く後宮に
来られなくなったんだもの。
丁度その頃
国王陛下がお倒れになって、グレアム様は
国政の全てを担われかなり大変な時期だったと思う。
お慰めしたくてもグレアム様が後宮に来られないのではどうしようもない。
アマリア様のご機嫌が悪かったのも、
後になって理解出来た。
そして月日は過ぎ、
マチルド様が死産された事が
女官長より伝えられた。
王女さまであったという。
そして不幸は重なるもので、
その王女さまを追うように
国王陛下が崩御された。




