(;゜;ж;゜;)ブッ!!!!
「───────今日部活やん……」
けたたましいアラーム音で目が覚める。
テスト期間が終わり、土曜日。今日から部活動解禁だ。
憂鬱すぎる……あれから初めて部長と顔を合わせる。
嫌だ。嫌だあああああああああああああああああああああああああああ!!!
でも遅刻するわけにはいかない。揺れる飾りのない2連簪で髪をまとめ、静香さん特製たまご雑炊を食べて部活へ向かった。
────雑炊ってこんなに美味しいんだね。私めっちゃ感動してる…。
「おはよう」
「お、はようございます……?」
あれ、普通…?普通だな?私の意識しすぎ…?
今日は弦全員での合わせ。
コンマスとして忙しなく動いている。うん、意識しすぎかな。
……それとも、手馴れてるとか?
あれだけの財力と顔面力だ。相当モテるだろう。今思えば、街に出た時女の子たちに囲まれてたのはそういうことだったのかと。
つまりあれは彼にとっての挨拶だ。なんてこと。私はそれに翻弄されていたのか。
────なんで挨拶如きに寝不足になるまで悩んでんだ。
なんかイラついてきた。わかった。
大人気ないのは自覚してるが、純情乙女(?)を弄んだ罰、受けてもらうぞ!!!!
「真宮」
「なんですか、───」
「簪、似合う」
ふわり、と笑う見たことも無い笑顔。
は、え?これは夢??
ぎゅ、と抓るもめちゃくちゃ痛い。
「姫愛、大丈夫…?」
「大丈夫に見える??」
「全く」
「────あかん」
感情に流されすぎた。
せっかく曲想も、方向性も固まってあと合わせるだけ、だったのに。
ここに来て合わせられないとか…!
「真宮?」
「ごめんなさい、なんとか───」
前髪が上げられる。
月曜の熱がフラッシュバックする。
まさか、ここで────っ!
「顔が熱い。熱かもしれないな」
悪化する前に休め。と小突かれる。
わた、しはいったい…一体────!!!
「体調悪いので失礼します!!!!」
「明日も無理そうなら連絡してくれ」
なんなんだ、本当になんなんだ!!
温室に最近設置されたふかふかソファと柔らかクッションに身を沈める。
埃がたつのが気になるが、自分の精神安定が優先だ。ぼすぼすとクッションを殴りまくる。
力のない拳がぽすりと落ち、深く息を吐く。
あーあ、やんなっちゃう。10も下の子に翻弄されるなんて。
気を紛らわしたくて弾いたのに、ぐちゃぐちゃな音しか出なくて結局もっとモヤモヤするのだった。
「あれ、真宮ちゃん?」
「と、透真先輩…」
「早いね、お昼食べたの?」
「───え?もうそんな時間!?」
携帯を見ると、もうすぐ12時だった。
あれ、10時には出たのに…あれから弾き続けてたっての…!?
時間を意識すれば、ぐぅ、とお腹が鳴く。先輩は笑ってくれたけど、私はものすごく恥ずかしい。
「あはは、…ごはん、食べよっか」
「うぅ…はい…」
カフェテリアが休みだからと静香さんがわざわざ作ってくれたお弁当。
少し柔らかめのごはんに、じゃがいもがほくほくしてる塩鶏肉じゃが、ネギが入って色鮮やかなだし巻き玉子にほうれん草の胡麻和え、別容器にフルーツヨーグルトと拍手を送りたくなるような内容だ。
ちなみに透真先輩はカップ麺4個である。……伸びない?
と思ってたらほぼ秒で消えた。すげぇ。
それでも足りないからと大容量の冷凍チャーハンも温めて食べてた。なんで太らないの…?
羨ましそうに見てたのでだし巻き玉子あげたら「母さんの味だァ…(*´ω`*)」と喜んでました。餌付けした気分…。
「───なんか、悩んでる?」
「え、どうしたんですかいきなり」
「いや…さっきのヴァイオリン、真宮ちゃんでしょ?」
そうだよね、温室に来てるなら聴こえてるよね、あのブレブレの音!!!!
ああああああんまり知られたくなかったのにぃ!!!!
「解決!…は無理でも、話聞くことくらいは出来るよ?あ、もちろん俺に話しにくかったら母さんでもいいし!」
「いや、でもご迷惑をおかけするわけには…!」
「迷惑じゃないよ!後輩が困ってるんだから、助けるのが先輩だよ!」
「透真先輩……」
「母さんも食欲ないし、表情も思い詰めてるようだからって気にしてたけど、声掛けても大丈夫としか言わないからって……」
「静香さん……」
既に迷惑かけてるじゃん。いい大人がなにしてんだか。
でも、話題が話題だから話しにくい。どう話せば…。
「あの、見当違いだったら、申し訳ないんだけど…」
「?なんでしょう」
「恋の、悩み…だったりする?」
「(;゜;ж;゜;)ブッ!!!!」
いかんいかん、周りに影響されてか私も顔文字使うようになってしまった…!
飲み物口にふくんでなくてよかった…!
「あれ、当たり?」
「〜〜〜〜〜っ」
「告白、されたとか?」
「あ、当たらずとも遠からず…です」
告白はされてない。私の自意識過剰かもしれない。
でもあの目は、行為は、声は、経験がない私でもそう思ってしまうほど説得力があった。
「相手は部長かなー」
「ほんと、よくわかりますね…!!」
「さっきの真宮ちゃんの音、迷いもだけどなんか甘さも感じてね。恋をした女の子のような音」
そ、そんな音出てた!?!?!?!?
あまりの恥ずかしさに顔を覆うと、自覚なかった?と透真先輩が笑った。
ええないですなかったですよ。まさか自分がそんな音を出すなんて!
「ただ、真宮ちゃんが恋してるって感じじゃなくて、戸惑いの方が大きかったから、告白されたのかなって思って」
「……すごい、観察眼ですね…?」
「……当たって、欲しくなかったけどね」
ふと、先輩の表情に影が差す。
ぼそりと呟かれた声はよく聞き取れなくて、聞き返してもなんでもない、と答えてくれなかった。
「でも、それでなんで部長?」
「俺経由で聞かれるんだよ、真宮は困ってないかーって」
「え、なんでですか。……あ、もしかして、静香さん?」
「そうそう。母さんからは部活一緒だからってちょいちょい話聞いててさ、部長も唯一の女子だからって結構気を使ってんの」
「確かに、寮のあらゆる備品からなにからお世話になってます……特にヴァイオリン……」
「速達で届いたやつねwww多分それ部長のコレクションだよ」
「へ」
「いくら速達といえど、たった数時間で届くと思う?」
「2次元だからありえるかと……」
「え?にじげん??」
「いや、なんでもないです!!その前にコレクションって!」
「部長、ヴァイオリン大好きなんだよ。休みの日にはふらっと街に出て、帰ってくるとヴァイオリンが増えてるの」
「金持ちめ…!」
「でも、どれも大事にしてるから貸したりあげたりなんてしたことないんだよ。真宮ちゃんだからじゃないかな」
とくべつ。
そう言われてるみたいだった。
それを自覚すると、胸がきゅうっと締め付けられ、顔に熱が集まる。
こんなこと、初めてだ。
「─────っ、」
「え」
気が付けば、透真先輩の腕の中にいた。
苦しいほど抱きしめられ、首筋が微かにあたる吐息で熱を持つ。
「あの、とーませんぱ」
「俺じゃ、だめ?」
熱を孕んだ目が、私のそれと合う。見たこともないくらい赤くしている透真先輩につられ、私も同じくらい赤くなってるだろう。
大きくてあたたかい手が私の顔を壊れ物を扱うかのように包み込む。
どうしてだろう、あの時はすごく安心できた手なのに、今はどきどきを加速させる。
「好きだよ」
ちう、と合わせるだけのキスが落ちた。
「ごめんね、いきなりこんなことして」
熱が離れる。寂しくなって手を伸ばしそうになったが、今それをしてはダメだと理性が警報を鳴らす。
それは、答えを持ってない今の私が、1番してはいけないことだ。
「こうでもしないと、意識してくれないかなって思って。本当にごめん」
「あの、私…その」
「今は返事しないで。意識して、いっぱい考えて。待てるから」
「んっ…」
右手のひらに軽く口付けられる。
擽ったさと変な感覚を感じて声を出してしまった。今更口を覆っても遅い。
「やばい、そんな可愛い声出さないでよ。今必死に抑えつけてるんだから」
口付けられた手のひらはそのまま先輩の頬を撫でるように滑る。
おかしい、へんだ。たったこれだけのことなのに、感じるなんて。
「時間来ちゃうし、行くね。真宮ちゃんはゆっくり休んで」
その後の記憶はない。
気付いたら月曜日だった。




