2.
武器屋を出て、薬屋、お菓子屋と足を運ぶ。
そしてメモの一覧の、短剣以外の項目を満たしてから馬車乗り場へと向かった。
短剣はいいのが見つからなかったけれど、それ以外は満足だとホクホクと満たされた気持ちで足を運んだ。
――けれど馬車乗り場に馬車はもう一台も残されてはいなかった。
見事に一台も、である。馬車乗り場なのに馬車がないってそんなことってあるの!?
おかしいと時刻表と時計を見比べてみても、確かにまだ出発時間よりも前の時刻だ。けれどそう遠い時間でもない。
出発したってことはないし、まだ準備できていないということもないだろう。なにせたったの半刻だ。そろそろ準備を始めなければ出発の時間が遅れてしまう。
どちらにせよ、ここに今馬車がないのは不思議な状況である。
なにがあったの?
辺りをグルリと見回して眉間にしわを寄せる。すると、腕に山盛りのお土産を携えた私を不憫に思ったらしい、たまたまここを通りがかった親切なおじさんがその答えを教えてくれた。
なんでもここ最近、馬車の貸し切りが多いのだと。
貸し切られた馬車が一般向けに商売をしないことぐらい、田舎から出てきた私でも分かる。
そして貸し切りの馬車の方が儲かり安いということも。
けれどそれならそうと、せめてどこかに掲示していて欲しかった……。
お城の馬車は断っちゃったし、今から宿屋を探すには少し遅すぎる。
それでもお高い宿ならまだ部屋も残っているのだろうが、あいにくと私は買い物をすませた後である。
明日も帰りの馬車が出てくれるか分からない以上、散財する訳にはいかない。だけど腕には大量の荷物がある。
酒場で適当に朝まで時間をつぶすにしては不自然な格好なのよね。場所も取るし。
どうするべきか……。
悩んだところで馬車は出ない。
ならばこの王都で一夜だけでも過ごす方法を見つけるほかない。
ちょうどいいお店ってないかしらね。
おじさんへお礼を告げてから、先ほどまでのお買い物と同じ要領で、あっちへフラフラこっちへフラフラとしてみる。けれど進むのは時間だけである。
気づけば辺りを照らすのは日の光から人工の明かりへと変わっていた。
もうそろそろどこかに腰を据えなければと意気込んで高めの宿屋に入ってみるも、結果は撃沈。
何でも大きなキャラバンが来ているらしく、この店どころかほかの店も今日明日明後日その後……と予約は詰めっきりのようだ。
すまなさそうな顔をする女将さんは、ああ知っているかい? と有益な情報もとい大きな爆弾を私に投下してくれた。
近くの都市で物資が不足しているらしく、商人がこぞって商売に向かっているらしい。彼らは所有している馬車では足りず、色んなところの馬車を貸し切っているのだとか。だから乗り合い馬車屋を含めたどこの馬車屋も今は開店休業中なのだと。
つまり今日を含めた最低三日間は、宿が取れない上にいつ帰れるかわからないってこと!?
こんなことなら初めから馬車に乗せてもらえば良かったわ……。
そう悔やんでももう遅い。
私が取れる方法といえば、この腕のお土産と帰るのが遅れるという内容の手紙を運送ギルドで頼んでコンラット村宛に送ってもらうこと。そして自分は馬車に乗れる場所まで歩いて進むことくらいだろう。
ただ問題は一体どこまで歩けば馬車に乗れるのか、である。
昔からクラウス兄ちゃんと一緒に朝から晩まで、山の中を駆け回っていたから足腰には自信がある。だから問題は歩行距離ではなく、魔物が現れる場所を歩かなくてはいけないかどうかである。
まだ一度も見たことはないが、魔物は非常に恐ろしい生き物だと聞く。
いくら王都の店で短剣を購入したところで、遭遇してしまえば生きて村に戻れるのかわかったものではない。
――となれば確実な方法は、傭兵や冒険者を護衛として雇うという方法である。
だがこれはあまり取りたくはない選択肢だ。
なぜってそれはもちろん高いから。
コンラットみたいな田舎ですら高いのに、王都なんて何倍するかわかったもんじゃない。
ならば依頼料を低めに設定すればいいのかもしれない。だが依頼の受注してくれるまでの時間が長引けば長引くほど、私の王都滞在時間も増えてしまう。そうすると自然と出費も大きくなってしまう。下手をすれば最初の予算を大きく越えてしまった、なんてこともあり得るのだ。
どうしたものかしらと悩んだところで今取れる行動と言えば、運送ギルドにお土産と手紙を村まで届けてもらうように依頼して、自分は朝までどこかで一夜を過ごすのみである。
まぁ夜目は効くからすぐに王都を出発するという選択肢もないことはないけれど……。
それは一晩過ごせるような席を確保出来なかった時の最終手段ということで!!
こうして私は少しでも手持ちの荷物を減らすべく、宿探しから運送ギルド探しへと移行するのだった。