3.
「それじゃあこれ、よろしくお願いします」
「到着予定は5日後になりますが、荷物に生物などの特別配達物はありませんか?」
「大丈夫です」
「それでは確かに承りました」
依頼書を発行してもらい、料金はお城でもらった馬車代から出した。
ほんと、これもらっといて良かったわ!
謙虚こそが美徳である、ってレオンに渡された本か何かで読んだけど、そんなことよりもお土産を一日でも早く届ける方が重要よね。
ここまで頑張って集めたのに途中で腐ったとか、魔物に襲われて荷物全部落としたりなんかしたら目も当てられない……。
獣除けとか結局私が選んだから効くかどうかわからないけど、ハンドクリームの方は選ぶまでもなく売れ行きNO.1の1種類しか置かれていなかったから間違いはないだろう。苦情は一切受け付けないつもりだ。
後はお菓子だけど……こんなの私の嗅覚にかかればどれが美味しい店かなんてすぐに見分けられたわ!
さすが私!
――ということで残るは剣だけなわけだけど……これは冒険者を雇うにしろ雇わないにしろ、明日の朝一で買いに行くことにしようと思う。
父ちゃんには悪いけど、自衛手段として持ち歩かせてもらう。
血なんてつかないのが一番だけど、付いたらゴメン!
万が一そんなことがあったら、短剣一本で娘の命が守られたんだから安いものだと思ってもらうことにしよう。丸め込める自信はある。相手が母ちゃんじゃなくて、父ちゃんなら楽勝である。
さて腕も軽くなったことだし、女一人でも安心して夜を過ごせる酒場探しをしましょうか! 出来ればお酒とご飯が美味しいところがいいわ!――なんて田舎の村と同じテンションでいたのが悪かったのだろう。
「嬢ちゃん、王都に来てまで一人とは寂しいな~。俺たちと一緒遊ばねえか?」
でもよりによってこんな典型的な酔っぱらいに出会うなんて、今日の私ってとことんツイてないわ……。
こういうのって無視するに限る、と目線も合わせずにその場を足早に移動する。すると男達も「無視するなよ」と付いてくる。
そんなんだから夜を一緒に過ごしてくれる女性がいないのだろう。顔は……まぁ手入れすれば若い女の子を引っかけられなくもないだろうに。
地の利がない以上、横道に入って撒くなんてこと出来ないからひたすら明るい道を半ば駆け足になりながらも進むのみ。
だからだろうか。
いつまで経っても、数は減らせど完全に男が私の後ろからいなくなることはない。
「じゃじゃ馬も悪くねえな」
それどころか残りの一人は汗を流しながら、笑ってるんだけど……。
これ、楽しんでない?
とりあえず適当な酒場になんて入らなかったという選択は正しかった。もしこの男の知り合いの店になんて入ったら、それこそ終わりである。だがいくら直線をひたすら歩いているとはいえ、男を突き放せなかったのはイタい。
今更チョップで撃退は出来そうにない。
正直、体術にはあんまり自信ないのよね。レオンに負けるほどである。
弟に勝てずに王都の男に勝てるとは思えない。けれどそんなことを言っている暇はない。
「ほら行くぞ。ベッドの中で可愛がってやるよ」
人目も少なくなったせいか、男はもう表現をオブラートに包む気さえもない。
私も腹を括らなければ!
女は一に愛嬌、二に度胸!
私へと伸びる腕を両手でガシっと掴んで、そして自身の身体を素早く彼の前に入れる。そして後は思い切り地面へと叩きつける!
足元を取られないように素早く男から距離を取るのも忘れない。
臨戦態勢をとって、すっかり伸びた男を睨むもどうやら起きあがる様子はなさそうだ。
もちろん父ちゃんの教え通り、しっかりと二分間待つのも忘れない。けれどピクリとも動かない。その代わり、背後では誰かが動くような気配がする。
もしかして途中で減っていった男達のうちの誰かが追いついたとか?
嫌だなぁと思いながら振り返ると、少し離れた路地裏から一人の男が現れる。
先ほどの群れでは見かけなかった顔だけれど、ここまで誘導された可能性もある。再び臨戦態勢に移る私に男はふっと笑った。
「安心しろ。俺はあんたを襲ったりしないから。それよりさっきの詫びに、ソレをどうにかしてやろうと思って先回りしていたんだが……必要なかったみたいだな」
詫びって何のこと?
私、この顔に見覚えなんて――そう考えて、ふとしたところにそのピースは落ちていた。
「あなた、昼間の鍛冶屋に来た人ね!」
「そうそう。後から休憩から戻ってきたクラネットに叱られてな。だけど謝ろうにもあんた、どこにもいないし。クラネットはあんたのこと、おそらく旅の冒険者だろうって言ってたが、俺はあんたの顔見たこと無いし、どうしようか困っていたところだ!」
「別にあなたが謝るようなことはないでしょ。時間がなかったのは私の都合だもの」
「そうか! そういってもらえると助かるんだが……あんた、何者だ?」
「は?」
快活な笑みから一転、その目は私を突き刺すようなものへと変わる。
「そこに伸びているやつはB級冒険者だ。それをあんたは相手が反撃をする隙も与えずに撃退した……」
「女だから油断したんでしょ」
「だとしても王都で仕事しようってやつがとっさの防御や受け身が取れない訳がない」
なおも男の視線は緩むことはない。でもいくら警戒した目で見られても困るわ……。
だってこんなの、完全に相手の油断が招いた結果以外何者でもないでしょ。
酔っぱらっている上に、私をベッドに連れ込むことしか頭になかったようだし……。
「あなたが見抜けなかっただけで、それだけこの男がバカだったのよ」
B級冒険者だなんて言われてもそれがどれだけすごいことなのかは分からない。だけど所詮、田舎の村でレニィちゃんに手を出そうとする酔っぱらい冒険者と同レベルってことでしょう?
ならやっぱり油断したのよ。
いくら強くても頭が弱いんじゃいくらでも対処のしようがあるのだから。
こんな話をしている最中も男が起きあがる気配はない。
ならば隣を通ってしまっても大丈夫だろう。なんなら足で払って踏みつけてしまえばいいだけだし。
「じゃあ私は行くわ。すっかり遅くなっちゃったけど、いい酒場探さなきゃいけないし」
「酒場?」
「ええ。女が一人で夜中過ごせて、酒とご飯が美味しいお店ならいいわね」
「あんたなら安全性はどこでも問題ないだろうが……。そうか、メシの美味い店か……」
別に相談したつもりはないのだが、男は記憶の中からいい店を探してくれているらしい。
その目からは敵意だの警戒心だの、そんなものはすっかり抜け落ちている。なんだったというのか分からないが、まぁいい。
美味しい店を教えてくれる気があるなら少し待ってみるとしよう。
多分、変な店に連れてく気もないだろうし。
それに多分、この男は怪しい者ではない。
鍛冶屋で耳に挟んだ情報が正しければ、この男はギルドのサブマスター代理である。
だがそんな情報はあまりアテにはしていない。
私が信じるのは、私自身の勘である。
今まで直観で外したことがないのが、私の数少ない自慢なのだから!




