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17.

「そろそろ鍛冶屋に行くぞ」

「わかったわ!」


 食べ過ぎるなよ、と何度も繰り返してはいたグレンだが、そう言うだけで止めることはなかった。

 結局、出発することになったのは、私が降りてきてから一刻ほど経ってからのことだ。



 あの後、カウンター組の他の二人も加わって4人で食べることとなった――のだが。


「あ、本当になかったのか……」

「堅実かヘタレか、悩みどころよね~」

 開口一番、散々な言いようである。

 しかも初っぱながこれなだけで、クロワッサン片手に言いたい放題いい続ける。もちろん初めの男も一緒に、である。やれ意気地がないだのなんだのと好き放題だ。それにはグレンも黙ってられないと、顔を真っ赤にして反撃する。


 相手が私だしねぇ……。

 レニィちゃんほど可愛くとまではいかなくとも、女性らしさみたいなのがあれば良かったんだけど、そんなものは残念ながら持ち合わせていない。まぁ今さら手に入れられるとは思っていない。女子力なんてものは習得するのが非常に難しいらしい。そんなの習得するくらいだったら、この機会に魔物との対峙の仕方を学んだ方が早いと思うのよね……。


 それに兄ちゃんと婚約解消したのも何かの縁だ。だからその補正をここで、とは考えていない。


 あんなところで寝たのは悪かったとは思う。だからそれをネタにされているグレンを不憫だとも思う。

 だがここで私が加わっても仕方ない。むしろ話が大きくなるだけだ。どうせこの3人は何かをサカナにして、グレンをからかいたいだけなんだろうし。


 こういう時は関わらないのが一番!


「ミッシュさん、スープ飲みます?」

「いただくわ」

 新たに2人加わったことによって、バスケットの中のクロワッサンはものすごい勢いで数を減らしている。

 ちょうどこれくらいで止めにしようと思っていたのだ。

 ルカさんが出してくれたカボチャのポタージュスープを受け取って、カウンターの端っこの席であったまるわ~と啜ることに専念した。

 それから3人が満足して、席を離れるまで待っていたらこんな時間になってしまったという訳だ。

 起きた時間も時間なだけあって、もう昼近い。

 だが食事を終えて、紅茶まで楽しんだ私のお腹のコンディションはベストタイミングだと言える。

 それに今から向かうのはあの鍛冶屋である。


 以前決めた投げナイフにするか、それとも探し直すべきか……。


 今日決めずともまた明日、明後日と時間がある。なんなら父ちゃんの短剣まで探す余裕もなくはない。

 帰りの馬車代と冒険者を雇う金額は残しておきたいが、宿賃と食費がかからないのは結構大きい。

 もちろん、自分の武器が最優先だけど。


 とにもかくにも、あのお店の武器がお迎え出来るのは嬉しくてたまらない。


 だってもう無理だって諦めてたし!

 ちょっと予算増やしておこうかな~と考えながら、ポシェットを撫でる。


「機嫌いいな」

「ええ。だってあの店の武器は私が見たなかで一番だもの」


 言うほど数は見ていないが、あの品が一流であることくらいはわかる。

 なにせ身体によく馴染むのだ。武器とは使用者の身体の一部だ。合わなければそれが命を落とす原因にもなりかねない、ってよく父ちゃんが言っている。

 農民でさえそうなのだ。日頃魔物と対峙している冒険者達にとって、その重要性は私達と段違いであろう。


 そう伝えるとグレンは嬉しそうににんまりと笑った。


「そうだろう。カディスは凄いんだ。この国でも一番の鍛冶師で、勇者やその一行の武器や防具を納めたのもカディスなんだぞ!」

「え、そうなの!? 兄ちゃん達の武器を作ったっていうなら耐久性とか細かいことは気にせずに安心して選べるわね」


 あの2人が使えるなら耐久性は十分と言えるだろう。

 なにせあの二人は……簡単に言えば鍬や銛ですら物を選ぶ人なのである。

 力を入れた時に、壊れてしまうものやヒビが入ってしまうものは論外だが、それ以上に彼らが使うものは耐久性が重要視される。……私も二人のこといえないけど。

 とにかくいかに丈夫かどうかは最重要事項なのだ。

 どんなに使いやすかろうが、壊れてしまえば何の意味もないのだから。


 使いやすく、手に馴染む形で、お値段もお手頃、耐久性も問題なし!

 元々あの鍛冶屋で購入する予定だったが、一層安心感が増したと言える。


 いやぁ、良かった良かった、と胸をなでおろす。するとグレンはギギギと機械のように固い動きでこちらを見る。



「兄ちゃん、達?」

「ええ。クラウス兄ちゃんは幼馴染で、レオンは私の弟」

「ということはミッシュ。出身地は……あのコンラット村、なのか?」

「あの、がどのだかは分からないけど、コンラット村だけど……。あ、もしかして勇者とその仲間が出る村って珍しいの?」

「珍しいも何も、コンラット村って言ったら魔境の村で……通りで強い訳だ……」


 だって魔境ってあれでしょ?

 魔界と人間界の狭間にある村で、噂ではしょっちゅう魔物が出てくるのだとか。

 なんでも過去、魔王が復活した際にその土地の人たちの活躍が認められて独立領になったとか。


 そんな特別な場所がコンラット村なわけないじゃない。


「ははは、何言ってるのよ。コンラットが魔境な訳ないじゃない。ただの田舎よ」


 なぜか額を抑えるグレンの冗談を笑い飛ばす。


 けれどそれから鍛冶屋に着くまで、グレンは「よりによって勇者かよ。前途多難すぎるだろ……」と同じことを呟くのだった。


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