コミカライズ一巻発売記念ショートストーリー『夫婦の休日』
今日は朝からリュザールが、アユにある提案をした。
「よし、今日は休みだ! 仕事はみんなに任せて、出かけるぞ!」
「えっ、休み? 大丈夫なの?」
家畜と共に生きていると、休みなんて存在しない。
そうでなくても、やることは山のようにある。
「みんな代わり代わり休むために、仕事をやってくれるんだよ。これから俺達も他の人の仕事をやる日が訪れるから心配するな」
「そうなんだ」
アユは心の中で、思いやりの休日だ、と思った。
実家にいたころは、誰もアユが休んでいるかなんて気にしない。
休んだ記憶すらなかった。
一方、リュザールの家族はそうではなかった。皆、アユに食事は取ったか、たくさん寝たか、体の調子はどうか、なとどしきりに聞いてくる。
なんて温かな人達なんだ、と改めて思ったのだった。
「リュザール、少し待って、すぐに朝食を」
「いや、いい。外で調達するから」
リュザールはそう言ってアユの手を握り、馬を呼び寄せる。
二人で騎乗し、広大な草原を駆けていった。
まず向かったのは湖。ここで魚を釣るという。
「ここで魚が獲れないと、朝食がなくなってしまう。絶対に釣るぞ」
「う、うん」
山暮らしのアユは釣りなんて初めて。
上手くいくのか、なんて思っていたが――。
「十匹目」
「なんでお前ばっか釣れるんだよ!」
アユはほどほどに大きな魚を十匹も釣った。一方、リュザールは一匹も釣っていないのである。
「リュザール、食べよう。お腹が空いたでしょう?」
そんなアユの問いかけにリュザールは沈黙したものの、代わりにお腹がぐーーっと鳴った。体は正直というわけだ。
魚が釣れなかった代わりに、リュザールは魚を焼く作業をしてくれた。
その辺の枝を拾って先端をナイフで鋭くし、串打ちしていく。
岩塩をぱっぱと振って焚き火で炙ると、おいしそうな焼き魚が完成した。
アユは釣りたての新鮮な魚を頬張る。
皮はパリッと香ばしく、身はふっくら。
とてもおいしい魚だった。
「どうだ?」
「こんなにおいしいお魚、初めて!」
「そうかよ」
十匹は多いかも、と思ったものの、二人でしっかり平らげた。
その後、アユとリュザールは街へ移動する。
隊商が拠点とする街はとても賑やかで、忙しない。
アユは圧倒される。
昼食は串焼き肉と焼きたてのパンを購入し、リュザールと食べた。
お土産に果物や干し肉などの食料を買い込み、街を出る。
途中、リュザールが馬を停めた。何かと思いきや、無花果が実っているという。
「毎年、ここの無花果を食べてから帰っているんだ。ちょっと待ってろ、採ってやるから」
リュザールが採ってくれた無花果は、甘酸っぱくておいしい。
極上のデザートだった。
そして最後は、夜の草原に寝転がり、星空を眺める。
「きれい……」
「だろう? これまで誰にも見せたことがなかったんだ。特別だからな」
「リュザール、ありがとう」
今日一日、とても楽しかった、とアユは振り返る。
リュザールに感謝したのは言うまでもない。