非力だろうが関係ない
大夢にはコンプレックスがあった。
それは、クラス1背が低いこと。
それと関係あるのかわからないが、
バッティング練習で打球がなかなか前に飛ばない。
大夢史上1、2を争うくらいに悩む。
大夢は至って真剣だった。
もちろん打ちたい以外の気持ちなどなかった。
練習試合ではあるが10打席連続ノーヒットから挽回しようとしていたのだ。
大夢はスタメン剥奪という危機感を覚えていた。
実力のある下級生を外野に回されたくないと必死だった。
負けたくなかった。負けられなかった。
茂コーチにも担任の井上先生にも相談した。
茂コーチは「とにかく振り込むしかないかなぁ・・・これといってスイングが変とか悪いってわけでもないし・・・振れば自ずと力はつくはずだよ」
井上先生は「まず背が低いから力がないって理屈がおかしいよね。ウェイトリフティングの選手は身長が欲しくてバスケやバレーを始めると思う?まずパワーが欲しいよね。パワーが欲しけりゃパワー系の練習を積むべきよ。」
つまり、そういうことだ。
大夢はただ単に自信をなくしていただけだった。
結果が現れていくことによって、段々自分のやっていることに疑いを持つようになったからだ。
もう、いっそ諦めてしまえば、楽になるだろう。
いや、そんなことはない。
自身野球部から陸上部に逃げて安心した分、
部活としてのブランクがある。
それを僅か一ヶ月のボーイズ時代で勘を取り戻し、
更に一ヶ月後の公式戦で初スタメンと初登板を経験した。
高崎高校に進学した慎平自身も大夢に野球を諦めて欲しくなかった。
大夢は慎平のようにうまくやり過ごせなかったし、自分の心に嘘をつけなかった。
でも、約束した。もう、誰々の為に大好きな野球を辞めない、と。
公式戦前最後の試合。
小雨がポツリポツリと降ってきた。
最終回の5点ビハインド、ワンナウトランナーなしの場面、
大夢は代打で出場した。
バッティングカウントからがむしゃらに振ってくる。
ぼてぼてのファールを何球も続ける。
声をあげ、気合いを入れる大夢。
とにかく必死だった。
粘って8球目、ようやく前に飛んだ。
セカンドが追う、ライトが追う。
ライト前ポテンヒットになった。
大夢は今まで打てなかった自分から解放されたとばかりに1塁ベース上で思わず「よっしゃ」と言った。
ファーストコーチャーの木下が大夢を祝福した。
「ナイバッチ!やっと打てたな!」
「あぁ良かった、サンキュー」
大夢は照れくさそうに振る舞った。
この試合、裕之も見に来ていた。
たまたま榛名に用事があって来たのだが、そのついでだった。
裕之も中学時代の初ヒットがライト前ポテンヒットだった。
中学時代、最初で最後のヒット。
途端に懐かしくなった裕之は帰りにバットを買い、
素振りしてバッセン通いを始めるようになった。
高校時代から遠ざかっていた野球、
裕之はまた熱が入るようになった。
余談になるが、裕之は好きで高崎に戻ってきたわけではない。
千葉での生活に飽きたからだ。
もうこれほど上にないくらい、大学時代を満喫していた。
問題は仕事の方だ。いずれまた千葉に戻るかもしれない。
次回、中学最後の夏。




