帰り道
大夢は野球の練習が終わると、週2日ある場所に行く。
珠算教室だ。榛名で唯一の教室である。
実は大夢は野球を始める前から通っていたのだ。
おかげで暗算が得意になった。
慎平も小学生の頃通っていた。
やはり周りが進級に伴って辞めていく中で、
部活も学校も大変な中で両立してきたのはすごい。
そもそもそういう粘り強さが今の大夢を築いてきてるのかもしれない。
大夢は思った。自分には限りない可能性を秘めているのではないのか、と。
練習試合で打たれまくった話、守備でやらかした話など、
野球の話が通じる教室の先生に何でも相談した。
先生もかつては中学でエースだった。
大夢の祖父大吉に憧れていた。
「大夢も、エースを目指すのか?」
「今はわかんないですね(笑)」
「まぁそれはともかく、なれる、なれないじゃない。とにかく努力し続けること、挑戦し続けることが大事。」
珠算の技能を習得するだけでなく、人生のアドバイスまでもらっていた。
小学校の頃、大夢は榛名湖の催しの際に、同級生と口喧嘩して激怒して泣いたことがあった。
「お前らの都合で人の意見無視していいのか!?自分らで固まってたって何もできっこねーのによ!ふざけんな!」
あの穏やかでおとなしい大夢が怒るのだから相当のことである。
しばらく大夢は1人でどこかへ行ってしまった。
大夢は、ハチロクの姿を目にした。
その近くのテントには豆腐や厚揚げを作っていたおじさんがいた。
聞けば彼の名は渋川の文ちゃんだ。彼は峠の走り屋でもある。
いつの間にやらB級グルメ候補に参入していたのだ。
そんなおじさんはかすり声と涙の伝った跡の残る大夢を見て、
「まぁ、これでも食って元気出しな」
と肉豆腐にネギ味噌の焼きまんじゅうをごちそうしてくれた。
大夢はその味に感動した。
「おじさん、これおいしい!また、食べに来てもいい?」
「あぁ、いつでもいいぜ、ただ元々お店なんでね。そりゃファンになってくれたわけだし、もちろんサービスはするさ。」
大夢は今でもあのとうふ店の名前を知っている。
珠算教室を終えて大夢は帰宅した。
今日の晩御飯は麻婆豆腐だ。
もちろんあの豆腐を使っている。
某Fさん、ありがとう。