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高校生達のかなりどうでもいい日常  作者: はんぺん
二年次、孟夏は四月
240/240

240.欲望と会談と



視点 槙



 放課後。俺は直帰せず、比較的“街中”と呼べる地域に寄り道していた。今日は七時間授業で時間的余裕が少ないが、高校に入ってから門限が伸びたため誤差程度だったりする。どうせここから家まで三十分もかからない。


 目的地に辿り着く。普段俺が本を調達している『ひいらぎ書房』。いつきの家。

 店内に入るとエプロンを装備して店番をしていたいつきがこちらに気付き、迎えてくれる。


「槙くんいらっしゃい。新刊出てるよっ」


「おお、ありがとう。だが今日は別件で来たんだ」


 そう伝えるとほぼ同時に、誰かが入店する音がする。少しだけ聞き覚えのある足音なのでそちらを見る。


「あれ、神和君?」


 柊みつきが帰ってきたようだ。今日の目的の人物。


「ああ、早めに来すぎたか」


「お姉ちゃんおかえり」


「ん、ただいま。なんで神和君が私の家を知ってるの」


 俺といつきが中学から知り合いであることと、ここでよく本を購入している旨を話す。


「そういえばそんなような事、言ってたわね。じゃあ今日は買い物?」


「いや、あの話についてだ」


「あの話? ……あー」


 これで通じたようだ。付き合いの短さから、他の話題がないので当然ではある。


 店主――いつき達の祖父か、店の奥から出てきた。顔見知りである俺と軽く挨拶を交わし、いつきに店番の終わりを伝える。そして、せっかくだからお茶でも飲んでいきなさいと言い、会計の椅子に座った。特に断る理由もないし、その好意をありがたく受けることにした。どうせ今からする話は開けた場所ではしづらいのだ。俺はいつきに案内されつつ、店の奥の部屋へ移動した。




「ふぅ……茶ぁうめぇ」


「ずいぶんくつろいでるわね」


「俺は本気でくつろいだら座ってすらいないぞ」


 座敷で座って真顔で冗談を言いながら、出してもらった緑茶を飲む。落ち着く香りだ。


「ねえ、僕はいてもいい話なの?」


「いてくれないとむしろ困る」


 前回、俺はテンションの上がった彼女を止められなかった。身内ならある程度、少なくとも俺よりはその辺りの心得はあるだろう。とりあえず、いつきに今日の目的をかいつまんで話した。相変わらずだなぁ、と小声で言ったので、彼女はいつもこんな感じなのだろう。


「それで、あー……柊はどうしたいんだ?」


「みつきで良いよ。どうしたいも何も、何か話せればいいとしか思ってないわ」


 曖昧すぎる。そんな心構えだとまともに話せずに終わりそうだ。というか、作戦の組みようがない。そう考えていると、


「それよりさ、大鷺君のこと、もっと教えてよ」


 みつきが言った。樂と話す作戦会議はどうしたんだ。


「どれくらいの付き合いか知らないけど、色々知ってるでしょ? なんでもいいから教えてほしいの!」


「お姉ちゃん」


 とにかく樂について知りたいらしい。対面のみつきが机に身を乗り出して訴えてくる。その瞳は純粋そのものだった。なんだろう、このまっすぐなのか歪んでいるのか判断しかねる純粋さは。


 そしてみつきをたしなめる、俺の右側に座ったいつき。たしなめられたみつきはすぐに引っ込んで座りなおす。なんだか癒される光景だ。二人とも外見もいいし。


「教えるったって、どんな話を望んでるんだ」


「えーっと……そうだなぁ」


 みつきはしばし考え込んで答える。


「大鷺君が一番小さかった時の話!」


 あぁ、これははっきりわかる。どこか不純な色の混ざった感情。もう少し抑えることはできないのだろうか。


 これは“俺が知っている、一番古い樂との記憶”という解釈で問題ないだろう。と、なれば……ざっと十数年前? どの記憶が一番古いのだ? これは保育園に入った後か、それ以前か。


「……わからん!」


「え?」


「どれが一番昔の話なのかがわからない。その上記憶が曖昧すぎる。断片的にしか出てこない」


「え、え、そんなに前の話なの?」


 みつきが少しうろたえている。さすがにここまで昔なのは予想外だったようだ。うろたえながら、ひとつ。


「待って待って、いったいいつからの付き合いなのよ?」


「物心ついた時からだ。“気付いたらそこにいた”。」


「わぁ……!」


 みつきの瞳が輝きを増した。あぁ、これはきっと暴走が始まる前兆だ。




 その予想は見事的中。みつきは小学生の時はどうだっただの、反抗期はどんな調子だっただの、それはもう暴れた。湯呑みは倒しかける、茶筒はふっ飛ばす、机は横転、俺の肩につかみかかって前後に振るわ振るわ。その状態でなにやらたくさんまくし立てるものだから、湯呑みの避難に精一杯だった俺の耳にはみつきの声はもう右から左、まるで頭に入ってこない。いつきはいつきで、暴走を感じ取ってからみつきが動くまでのわずかな間に急須ののったお盆を持って後方に避難。お盆を置いたあとは俺の頭より茶筒を優先し回収、そしてみつきを止めに入った。


 いつきが回収を終えて魔獣を止めるまでのおよそ十秒間、俺の脳は揺さぶられ続けた。この十秒間というのがなかなかに長く、止まった後もしばらくは色々とはっきりしなかった。




 その後、今日の会議は解散ということになった。みつきから謝罪を受けた後、まだ少しふらつく頭で、次は助っ人をもう一人連れてこようとぼんやり思った。


 そしてみつきと連絡先を交換し忘れるという失態。もういい、いつきを通して予定を入れておこう。





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