第66話 奥義炸裂!!有原と石野谷の決着!!
有原チームと石野谷のチームバトルが繰り広げられる中、そこから離れた土地に集うファムニカ王国軍は熱狂していた。
自軍の戦士である梶が、真の搭乗機【プロメテウス・メサイア】を操り、有原チームの五人を鎧袖一触の様子で圧倒していたからだ。
「やっちまえ梶ー! そのままミクセス王国の連中を鉄拳制裁してやれー!」
「いけー! 梶! 桐本様の仇をとってこーいー!」
特にファムニカ王国の王族兄妹、エストルークとエスティナは、群衆の最前列に立ち、軍内一位タイくらいに興奮していた。
そんな二人を執事のルチザはたしなめる。
「こらこらお二方、王族たるものもう少し落ち着いてください。それと姫様、桐本殿はそれなりに傷ついて、遠くへ飛ばされただけで、まだ生きておられ……」
エスティナはルチザの肩を片手でどついて、
「うるさい黙ってろ! そして勝手に説教の中に桐本様の名前を出すんじゃない!」
「は、はい……」
(名前出すのは別にいいと思うのですが……)
それからルチザは二人の傍に居つつ、無言で梶の優勢ぶりを眺める。
最中、ルチザは、地上にいない一味のリーダー、石野谷が今どうしているのかが気になり、ふと空を見上げる。
それを見たルチザはハッと驚き、エストルークへ尋ねる。
「殿下、梶殿の戦いも魅力的ですが、あなたの大親友の戦いはお忘れではないでしょうか?」
「ああ、そうだったな。たまには石野谷にも構ってやらないとな」
ルチザの勧めに乗っかり、エストルークも空を見上げる。
そこで石野谷は有原と面と面に向かって、身ぶり素振りを激しくしながら、話し合っていた。どちらも話に集中しているようで、お互い相手の出方に警戒している様子はない。
「何してるんだ石野谷? 動きからして、有原と滅茶苦茶熱く語り合ってるっぽいが、遠いから内容がさっぱりわかんないな」
「少なくとも、一触即発の事態ではなさそうですね。もしやこの戦争を円満に解決するための話し合いを……?」
二人が話しているのは、真面目な話でも、この戦争に関わるものでもない。
「そうだよな、やっぱそこかっこよかったよな!」
「石野谷さんも!? だよねー、あのここでそう来たか感がいいんだよねー!」
有原と石野谷は、お互いに大好きな漫画の話をして盛り上がっていた。
「まさか有原も好きなんてな。しかも俺くらい詳しいなんて」
「いやぁ、それほどでもないですよ」
「そんなことないって。多分お前が一番わかってるってきっと。久門さんだって最近のアニメを見たくらいで止まって……」
久門さん。その名前を口にした途端、自分が良くなかったことを理解しつつも、彼はうつむいた。
すかさず有原は自分の失言に気付いて謝る。
「……ごめんなさい、石野谷さん。なんか僕のせいで嫌なことを思い出させたみたいで」
石野谷は顔を上げて、『気にしてない』と言うように微笑んでから語った。
「久門さん、式部さん、塚地さん、五十嵐さんが死んだのは、邪神獣討伐のために、俺たち六人が別行動していた時だった。
俺たちが合流地点にくると、既に四人は死んでいたんだ。
当然俺たちは仇討ちしようとした。けど、久門さんは『何か鋭いもので滅多刺しにされた』以外の手がかりしかなく、犯人を追おうにも追えなかった。
だから俺は雰囲気の序列的に繰り上がって一味のリーダーになった。それから俺たちは、頼れる場所も行き着く場所もなく、数日くらい流浪の旅をしていた」
「そんな……でしたら僕たちが……」
「けど! ある日ひょんなことからファムニカ王国に来て、たまたま王子に会えて、でもって魔物を倒して、邪神獣も倒して、姫も連れ戻して……ファムニカ王国の人たちから感謝された。そして今は、有原、お前と戦わなくちゃいけなくなってしまった」
「……ファムニカ王国のお姫様の事件のために、ですね」
ああ。と、石野谷はうなづいた後、また無意識にうつむいてしまう。
「さっき『久門さんの敵は俺の敵』っていう感じのこと言ってたが、姫が襲われたのは事実だが、本当は根っこでわかってた。『有原は完全な敵じゃない』って。
けど、いっつも俺はこうなんだ。親とかリーダーとか仲間とかの意志に従ってばっかりで、自分の意志がわからないんだ。
俺は、みんなに気の利いたことも言えない。みんなを幸せな方へ導く腕もない。有原とかみたいに、絶対叶えたいって思えるような大きい目標もない。
だから俺にせいぜいできるのは、今地上にいる仲間たちを守るくらいしかないんだ……」
「それは僕も一緒ですよ?」
石野谷は顔を上げつつ、同時に素っ頓狂な声を出す。
「へぇ? あの【勇者】有原がぁ?」
「はい、だって僕だって言ってしまえば、みんなを助けることで精一杯になっている人ですから。
だから僕は、石野谷さんが意志のない人だと思ってたりはしませんよ。立派じゃないですか、仲間五人を守りつつ、立ち寄った王国の英雄になるなんて」
この時、石野谷は自分のことをバカだと思い、恥ずかしくなった。
言われてみれば自分のしてきたことは、有原と何ら変わりない偉業であったことに気付いていなかったこと。
こんな自分のことを気遣ってくれる聡い人を、今まで元主の遺志を引きずって嫌っていたこと。
そして、
「あんがとよ、有原……けどさ」
今自分が、有原へ向いて拳を握り、構えを取り、戦闘続行の意志を見せていることを。
「まだ、戦うつもりなんですね、石野谷さん」
石野谷は目を見開き、石野谷一味のリーダーとしての矜持をもって叫ぶ。
「ごめんな、有原。肝心のリーダーが説得されて降参するなんて、これまで頑張ってくれた五人に対して失礼極まりないし……俺個人としても、お前と一度決着を付けないと気がすまないんだよッ!」
この石野谷の思いを受け取った有原は、
「……わかりました。決着はつけよう」
得物の剣を鞘に納め、石野谷と同じく拳を構えた。
「剣は使わないのか?」
有原は一切の躊躇なく答える。
「はい、こっちのほうが貴方にとって良いと思ったので。あの作品でも、剣使うキャラも最終的に使いませんし」
「そうか、それは嬉しいぜ……!」
石野谷は再び有原に接近し、殴る蹴るの連撃を容赦なく繰り返す。
さっきの通り、石野谷の動きは早く、防ぎきれない攻撃も少なくはなかった。
だが、徒手空拳で交戦することで、剣装備の時よりかは防御できるようになった。
格闘技使いの相手に至近距離に回られた場合、やはり剣では比較的大振りになってしまう。
あえて納刀する有原の決断は『石野谷と同じ趣味の仲間だ』ということを示すだけでなく、実戦的なことも考えていた。
「思ってたよりダメージが入らないな! だったら……」
石野谷は有効打を求め、右腕に炎を纏わせ、思い切り有原へ振りかぶる。
「【ピュートーン・ブレイカー】ッ!」
これ合わせて有原は、それよりも早く、石野谷の胴体に向けて拳を突き出し、
「【市杵ノ崩槌】ッ!」
突風を炸裂させ、石野谷を吹き飛ばして【ピュートーン・ブレイカー】も中断させる。
だがこれは石野谷も想定済み。程よい間合いを確保したところで空中に留まり、両手に黄金の炎を蓄積し、矢を象った炎を立て続けに打ち出す。
「【ミダス・ラピッド】!」
迫りくる矢の雨に対して、有原は物怖じせず、精神を研ぎ澄ます。
「グレドさんから不可能かもしれないという三つのスキルも、存在しなかったスキル【虚剣】も編み出してきたんだ。だったら……」
精神統一の最中、有原は足の真下に空気の塊を作り出す。
「地上で普通に使えたスキルを、空中で使うくらいすんなりできるはず!」
そして有原は足元にある空気の塊を踏みしめて、周囲に竜巻を作り出す。
「【田霧ノ威盾】」
今、有原の周囲で渦巻いている竜巻は、地上で発動したものの半分の勢力しかなかった。
だが、石野谷が放った矢の雨を周囲へ散らして無効化するのには十分だった。
(どうやらあちらも、本来の用法でないから威力が落ちているみたいですね……)
さっきのように石野谷が弓を使わずに炎の矢を放っているのはスキル【ヘリオス・アーツ】の技変換の応用によるもの。打撃に纏わり付く属性エネルギーだけを飛ばしているのだ。
咄嗟に攻撃を使えるという利点があるものの、魔力などのエネルギーが技の精製に割かれるため、威力は落ちてしまう。
「俺がチンタラやってる間にますます成長してやがる……だったら、せせこましい技はもうやめだ!」
石野谷は合わせた両手を右腰へ持っていき、両手の中で火の玉を作る。
それが大きくなるにつれ、周囲の空間が陽炎のように揺れ、辺りに熱気が広がっていく。
「こればっかりは竜巻じゃあかき消させないぞ……さあどうする、有原!」
「こうするよ!」
有原は両手を寄せた状態で左肩へ持っていき、そこで周囲の空気を圧縮する。
「だよな、わかってくれてありがとよ」
そして両チームリーダーは、奇しくも同じ瞬間に、エネルギーを充填し終え、
「【ロクシアース・ノヴァ】!」
石野谷は紅蓮の炎を、
「【櫛名田ノ豪砲】ッ!」
有原は蒼碧の風を、相手めがけ一直線に放つ。
二つのエネルギーは、二人の間でぶつかり、空に青と赤のマーブル模様が投影されるほどの、周囲に激しい熱風を撒き散らしながら、一進一退の押し合いを繰り広げる。
「見てください、ゲルカッツ様! 上空の二方も二方で凄まじいことになっています!」
「本当だ、海野殿と梶殿だけでなく、こちらも決着が付きそうだな……」
「負けるな石野谷!」
「せめてそいつだけには勝てー、石野谷!」
この壮絶な光景を、二人の騎士団長と、王族二人を始めとする、両軍の半分の観戦者が見上げた。
半数しか見てくれなかったのは、地上は地上で、梶のプロメテウス・メサイアに、海野の【ダゴンの祝福】が炸裂しようとしていたためである。
「わかってるよ、エストルーク、エスティナ姫……下にいる五人だけじゃない、今の俺には、こんなのにだって応援してくれる奴がいるんだ! だから何としても、この試合は勝つんだぁぁぁ!」
仲間のため、信じてくれる友のため、ひたすらに頑張る――その不変の意志をもって石野谷は火勢を強め、有原の風を徐々に押し返す。
やがて、勢力の高まった炎は有原の近くまで迫った。
「いまだーーーーっ!!!!」
そして炎は有原に命中した――竜巻を纏った有原に。
「……普通なら食らうのがベタだと思いましたが、僕にだって助けたい人が大勢いるんです!」
有原は竜巻を纏ったまま、足裏から突風を噴射し、石野谷の炎を周囲へ流しながら、彼へと接近する。
「そうか、その手もあったか……」
自分の【櫛名田ノ豪砲】が負けるとわかった途端、それを速やかに中断し、【天羽々斬虚剣】を使い、身を守ると同時に反撃を仕掛けた。
有原は、ただその場の空気に乗っていただけではなく、先を見据えた上でこの勝負に挑んでいたのだ。
始まる前から有原は、自分の一つ上の段階を見越していた。この事実に負けた石野谷は【ロクシアース・ノヴァ】を止め、棒立ちし、潔く有原の一撃を受けようとした。
しかし、有原は石野谷を目前に据えたところで纏った竜巻を消し、剣を納めた。
「これでいいですよね、石野谷さん」
「……一発くらいぶん殴ってもよかったんだぞ?」
「そんなことする必要はないですよ。どんな形であれ、勝負は決まりましたから」
「……今まで迷惑かけた分の仕返しとかでもよかったんだぜ?」
「わざわざそんなことをしませんよ。助けるべき人を無駄に痛めつけるなんて」
「助けるべき人、か……つくづく、一途だな」
「そうですね。あ、けど、せめてこれだけはいいですか?」
と、言いながら有原は右拳を石野谷に向ける。
「ああ、いいとも」
そして石野谷は有原へ拳を突き出し、彼の拳にコツンとぶつけた。
「じゃあ、降りるぞ! 有原!」
「はい、石野谷さん!」
そして二人は何があってもいいように背中合わせで、得物を構えた状態で地上に降りる。
「ん、終わったのか、祐」
「急に降りてくんなよ、陽星。で、どうしたんだ?」
二人が降り立ったのは、海野たち五人と、梶たち五人、双方のチームのちょうど間だ。
そこで石野谷は、両チームだけでなく、両国の軍に伝わるように大きく叫ぶ。
「お前ら! この戦いはもう終わりだぁぁっ!」
【完】
話末解説
■登場人物
【石野谷 陽星】
レベル:65
ジョブ:【狙撃手】
神寵:【アポロン】
スキル:【ピュートーン・ブレイカー】、【ヘリオス・アーツ】
一年二組の男子生徒。石野谷一味のリーダー。
その場のノリ、もしくは仲間の物言いで動くお調子者。けれども仲間への思いはとても固い。
久門の信奉者の一人だが、彼と比較するとまだ良心がある方。
好きなものは漫画。特に某バトルマンガ。
ジョブは【狙撃手】なのだが、肝心なときにしか矢が当たらないクソエイムの持ち主。
しかし神寵【アポロン】に覚醒して会得したスキル【ヘリオス・アーツ】のおかげで、弓矢のスキルを格闘技に変換し、あたかも【格闘家】のように敵を殴り倒す高速近接アタッカーともなれるため、ただのお飾りという評価では決して納まらない実力を持つ。
サッカー部に属し、フォワードを務めているが、未だにシュートが入ったことがない。
アポロンとは、ギリシャ神話の芸術と太陽の神。アルテミスの双子の弟。オリュンポス十二神の一柱(これで十二神出揃いましたね)。




