第65話 有原vs石野谷
時はさかのぼること数十分前。
海野と飯尾たち六人が、梶のプロテクト・メサイアと交戦していた時のこと。
ゲルカッツは、ハルベルトたちミクセス王国軍の中で、周りと同様に界訪者同士の激しい戦模様を見守り続けた。
この時、ゲルカッツの心の中にあるのは、後悔の念であった。
「我はこんなにも法外な力を持つ方々を、ただ王へ仇なすかもしれないというだけで淘汰しようとしていたのか……色々な意味で見込みが甘すぎた……」
「わかればいいのです、ゲルカッツ様」
ありがとう。と、ゲルカッツは自分を慰めてくれたハルベルトに会釈した後、改めて界訪者――特に梶の凄まじさを見る。
「しかし界訪者の戦いぶりにはつくづく驚かされる。まさか【祈祷師】の梶殿があのように鋼鉄の巨人と化して、まるで邪神獣のような攻撃力と防御力を手にするとはな……」
「仰るとおりです。しかし、注目すべきなのは梶殿だけではありませんよ」
ゲルカッツはハルベルトが指さした先にある空を見上げる。
そこにいたのは、両チームのリーダー、有原と石野谷だった。
「【市杵ノ崩……」
「【ピュートーン・ブレイカー】ッ!」
たった今、有原が風を起こす前に、石野谷は己の燃え盛る拳を打ち込んだ。
「そうだ、何をやっているんだ我は……大将同士の戦いのことをすっかり忘れているなんて……」
「それは仕方ないことだと思います。あの巨人と同時に居れば、誰しもそっちに目が行ってしまいますから……かくいう私もついさっきになって二人を思い出しましたから……」
それからハルベルトとゲルカッツは梶と海野たちと、有原と石野谷、二つの戦いをなるべく交互に観戦する。
最中、ハルベルトは石野谷を見てある疑問を持っていた。
その疑問は言うまでもなく、現在空中に留まり、石野谷の相手をしている有原も思っていた。
「い、石野谷さん……あなた、ジョブ【狙撃手】でしたよね!」
同じく浮遊する石野谷は、ゆっくりと有原へ向かいながらはっきりと答える。
「ああ、それはマジだぜ!」
「なのに、どうして弓矢のスキルを格闘術のスキルとして使えるのですか……!?」
「教えるかよテメー! 【ミダス・ラピッド】!」
石野谷は両腕に黄金の炎を纏わせ、それで有原をタコ殴りにする。
有原は剣を振り、石野谷の技の速さに遅れをとりつつも、半分ほど防御し、
「【湍津ノ疾槍】……!」
隙を見計らい、足裏から突風を噴射し、石野谷から離れた。
そこで有原は一瞬下――梶のプロテクト・メサイアを見た後に言った。
「……ですよね。下で【祈祷師】の梶さんが、【神寵】で作ったロボットに乗って戦っているんですから、あなたも【神寵】のおかげでありえないことができている。と、思うしかないんですよね」
「まぁ、そんなところだな。俺の【アポロン】はそういうのなんでな……」
石野谷の神寵は【アポロン】。それは火属性を纏った破壊力バツグンの弓矢を射るスキルを多数会得できる代物だ。
彼の戦闘スタイルにおいて最も有用なスキルは【ヘリオス・アーツ】という。
その効果は『本来弓矢で使う攻撃スキルを、体術に置き換えて発動できる』ということ。
これによって、石野谷はジョブ【狙撃手】特有の物理攻撃力と素早さの高さを活かし、速攻型の【格闘家】めいた立ち回りも両立可能なのである。
「……っつーわけ」
……ということを、石野谷は自ら有原に伝えた。
「なるほど、ありがとうございます……ですが、聞いた身分で言うのもなんですが、それ、敵である僕に教えてもいいことなのですか?」
石野谷は自分の失態に遅れて気づき、一瞬ハッとして目を見開く。
「い、いいんだよー……どうせ知ったところで俺には勝てないんだからよ!」
そして石野谷は凡ミスをごまかすように、飛行用のスキル【イカロス・ライジング】の出力を高めて有原に急接近する。そこで炎を帯びたアッパーカットを繰り出す。
「【ダフネ・バースト】!」
これは交戦してから間もなく食らった技――二度と同じ過ちをしないと言わんばかりに有原は体を反らし、紙一重で回避する。
「【ピュートーン・ブレイカー】!」
刹那、石野谷は炎を纏った鋭い蹴りを有原の胴体に与え、また彼を吹っ飛ばす。
さらに追撃として、石野谷は両手に黄金の炎を纏わせて、
「【ミダス・ラピッド】!」
手のひらから、矢を象った黄金の炎を連続で撃ち出す。
「手から矢を……そんなこともできるのか……!?」
有原は体勢を立て直し、無数の炎が自分に飛んでくるのを見据える。
(地上にたどり着くまででは遅い……!)
相変わらず【田霧ノ威盾】が使えない。だから有原は眼前の空間を刻むように剣を連続で振り、全ての矢をかろうじて斬り落とした。
その時、石野谷は弾幕に紛れて有原へ高速で接近していた。
有原はそれに気づき、ある程度の矢を一気に斬り払ってから、
「【五十猛ノ斬刀】ッ!」
烈風を帯びた剣を石野谷めがけ振り下ろす。
「【ヒュアキントス・ソーサー】!」
対する石野谷は片足に炎を纏わせ、回し蹴りを繰り出す。
僅かに早く攻撃を当てられたのは石野谷。有原は首元を思い切り蹴られ、大きくのけ反った。
だが有原はすぐに起き上がり、石野谷の懐に拳を向ける。
「【市杵ノ崩槌】ッ!」
そこから拳から突風を起こし、石野谷をひとまず遠くへ吹き飛ばした。
つかの間の安全を得られた有原は、急ぎ剣を構え直す。そして有原はここまでの戦いを振り返り、そうつぶやいた。
「ダメだ、早すぎる……」
有原は分析する。自分が剣を一振りする間に、石野谷は五発の打撃を出した。ステータスの違いだけでなく、剣と拳という攻撃の『出の速さ』がその差を生んでいる。
この差について、何らかの対策をしなければ、石野谷のリーチに入ってしまえば最後、無傷ではいられない。
ここまで傷ついて有原は、自分と石野谷との戦闘スタイルの相性の悪さをようやく確信したのだった。
「どうした有原……こんなので真壁を倒したんじゃないだろッ!?」
その時、石野谷は有原に瞬く間に接近し、矢継ぎ早にパンチとキックを放つ。
有原はそれに合わせて剣を操り、その連撃の半分を受け止める。
さっきのように【市杵ノ崩槌】で吹き飛ばせば、極力ダメージを抑え、逃れられる可能性は大いにあった。
しかし彼は、それをあえてせず、次々と傷ついた。
この連撃の中にある石野谷の癖や弱点を見抜きチャンスを掴み取るための行動だった。
この途中、石野谷は連続攻撃を続けたまま、有原へ特に目的もなくこう尋ねた。
「なぁ有原、お前、真壁との戦ってるときに、城の塔が一本折れたのを覚えてるか?」
「覚えてます。あれは、貴方がやったんですよね?」
「何でそこまでわかってるんだよ!?」
「さっきから貴方が放っていた炎の矢と、あの時僕たちの頭上をよぎった矢と同じだったからです。気づいた時には驚きました……まさかあの時僕たちを助けていた人が、今こうして僕たちの敵になってるなんて」
「あれはなー、あんまりにも真壁と矢野がムカついたからで……たまたまだ! だから今はそんなの関係ない! かつては流浪の久門一味! 今はファムニカ王国の石野谷一味――あれからも今も、ずっと敵同士だ!」
「僕は別に、その『かつて』の時もあなたたちを敵とまでは思っていませんし、今だってそうです! 僕はまだ、あなたたちとわかり合えるって信じています!」
「図々しいなお前! エスティナ姫に……俺たちの仲間に一生物の深い傷を負わせた分際でよ!」
「さらに図々しいこと言ってしまいますが、それはまだ僕たちミクセス王国の誰かがやったとは決まってないじゃないですか! だからこんなことしないで、またお互い協力して真犯人を探したほうが……!」
「うるせぇ! そもそも俺たちは久門さんの遺志を継いでここまでやってきたんだ! だから俺たちはお前らの敵のままだ!
だから俺たちはお前らなんかとこれ以上対話する気は金輪際無い! わかり合えない奴はとことんわかり合えないんだよ! 何でもかんでも助けられると思うな! 大人になりやがれ有原!」
ここから激昂した石野谷は、腰を低くして構え、力を溜めてから瞬発的に有原へ接近し、有原の右頬を殴打。
間髪を入れず、有原の背後に回り込み、両足で蹴り上げる。
悲鳴を上げる暇もなく、突撃、それにキックをお見舞いした。
このようにして、石野谷は苛烈に有原へ連撃を与える。
有原はどうにか防御を続けていた。だが、時が経つにつれダメージが蓄積し、その質はだんだんと落ちていく。
しかしこの劣勢の真っ只中でも、有原は、石野谷の技の洞察を続けていた。
その中で、有原はあることを感じていた。
(あれ、この動き……どこかで見たことがあるような……!)
傍から見れば、石野谷が繰り出している攻撃は、適当なパンチとキックと飛び道具の連続。だが有原は、今は具体的に表せないが、何らかの既視感を感じつつあった。
「もう殴るのも飽きてきた……そろそろトドメを刺してやるッ!」
石野谷は連撃を終えるとすぐに右腕に炎を纏わせる。
これに合わせて有原はすかさず剣の柄頭に空気の塊を作り出し、
「【ピュートーン・ブレイ……」
「【市杵ノ崩槌】ッ!」
石野谷の懐めがけ柄頭を突き出し、突風を炸裂させて彼を吹き飛ばす。
吹っ飛ぶ最中、石野谷は左手を上に伸ばして、
「そっちもそうくると思ってたぜ! だからこうしてやらぁ!」
頭上に火の玉を作り上げ、それを直径二メートルほどの円盤に変形させて、有原めがけ射出する。
「【ヒュアキントス・ソーサー】ッ!」
「こ、このスキルは……!?」
この時、有原は今まで感じていた既視感の正体に気づいた。
(どういう技か見切れんのか……いや、見切れる!)
有原はその気づきによる感動の渦に流されそうになったのを堪えて、迫りくる円盤へ剣を向けて、その切先より風属性エネルギーの光線を撃つ。
「【大屋津ノ閃刀】!」
風属性の光線は火の円盤の中心を貫く。穴を開けられた円盤は不安定化し、散り散りになった。
石野谷は軽く肩を落とした後、有原に尋ねた。
「けっこう自信あったのにアレ……やっぱ追い詰めると手強くなるタイプか、お前?」
「そうですかね……ところで石野谷さん。急に聞きますけど、あなた、漫画好きですか?」
戦闘の最中、本当に急過ぎる質問に石野谷は面食らってから答える
「……好きだぜ。妹が毎週買って貰ってる本誌をしょっちゅう盗み読みしてるからな」
「特に、どの作品が好きですか?」
「色々好きなのはあるけど、一つに絞れって言われたら一択だな。梶とかからは『古い』だの『子供っぽい』だの『インフレ凄まじ過ぎ』だの言われてるが……」
そして石野谷はその漫画のタイトルを答えた。
すると有原は弾むような声を上げた。
「やっぱり、そうだったんですね!」
「え、まさかお前も……嘘だろ!?」
互いに、自分と同じ趣向を持つ人間に出会えた。
この偶然に二人は戦闘中であることをすっかり忘れて、純粋に驚喜した。
【完】
話末解説
■用語
【プロメテウス・メサイア】
全高:約3メートル
重量:約10トン
主要材質:極限まで鍛えられた神の鋼鉄
主な武装:両手に備わった排熱機構
パイロット:梶昇太
梶が神寵【ヘファイストス】の能力で作り上げる巨大人型ロボット兵器【プロテクト・メサイア】の内部で作り上げる人型ロボット兵器。
前機よりも大幅にサイズダウンしているものの、鍛冶の神の力で極限まで鍛えた鋼鉄で装甲を作ることにより、前機よりも遥かに高い防御力を持つ。
さらに内部機構を人工筋肉のように瞬発性と機動性に優れたものにすることで、軽量化も相まって、パワーとスピードでも前機を超える。
もちろん仮に傷つけられたとしても、梶が自身のスキルですぐに修復可能。
こちらでも普通の徒手空拳をメインとする。それに加えて、排熱も兼ねて両手のひらからスチームを高圧噴射する奥義【パンドラ・バーニア】も使用可能。




