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第125話 友情は止まらない

 ヒデンソル王国の王都第一層。


 既に第三、二層を制圧したミクセス・ファムニカの連合軍は、そこで王城を包囲していた。


 彼らの目線の先にあるのは、開戦よりもずっと先に崩れ、今はほとんど土台しか残っていないヒデンソル王国の王城。

 

 そこからでは高低差故にハッキリと見ることは出来ないが、数々の轟音が鳴り響き、衝撃やエネルギーの余波が飛び散る様子から、何が起きているかは容易に想像できた。


「ついに始まったのですね……有原さんたちと、英傑(ひでとし)の戦いが」


「そうですね、畠中殿。やはり、こうならざるを得なかったか……」


「ですね。とにかく今は皆さんを信じましょう、ハルベルトさん」


「ああ……」


 畠中とハルベルトら、王城を包囲する者たちは、有原たちの勝利と、全ての無事を祈り続ける。


 その王城にて。


 各々の力で作り出したバリアで身を守る【神々】らに見守られながら、

「【兵霊詔令(ミズガルズ・サモン)】」

 槙島は戦場と化した玉座の間を占拠するほどの数多の暗黒兵を、有原たちへと一気に放つ。


「【スピード・グレイス】!」

 内梨は仲間全員に速度強化のバフを与えた後、他の七人は大挙する暗黒兵へ立ち向かう。


 かつてのようにこれで精一杯になることなく、有原たちは次々と暗黒兵を倒し、槙島へと徐々に迫る。


 その最中、槙島は自分の両脇に氷の狼を作り出し、

「【双狼猛弾(ゲリフレキ・クラッシュ)】」

 比較的一番近くにいた武藤へ狼二体を突撃させる。


 武藤は自分を囲む暗黒兵らを全員薙ぎ払った後、クラウ・ソラスの刀身を狼たちへ向けて、

「【ヴァハ・ガード】!」

 クラウ・ソラスの刃から光属性エネルギーを盾のように放つ。


 氷の狼二体はそれに激突して爆散する。武藤を傷つけることは決してなかった。


「【凍裁擲槍(ミーミル・ジャベリン)】」

 槙島は数百本の氷の槍を周囲全方位に展開し、八人へ放射する。


「【ルドラ・ブラスト】!」

 槍の半数は三好が横薙ぎに撃った闇属性エネルギーによって崩壊され、


「【ゾス=オムモグの饗宴】」

 もう半数の槍は海野が放った、恐竜の頭部を模した水の塊によって食われる。


 槍を食らい尽くした水の塊は巨大化するとともに威力を増し、槙島へと迫った。

 だが、槙島が回転させたグングニルによっていとも容易く霧散させられた。

 

 海野は小さくため息をつく。

「あの槍は魔法を無効化する槍だ……つくづく厄介な神器だ」


「【双烏舞刃(フギンムニン・エッジ)】」

 槙島は自身の両脇に一対の氷のカラスを作り出す。

 二羽のカラスは戦場を複雑に舞いながら、刃の如く鋭利な翼を当てようと八人へ飛ぶ。


「ここは俺が!」

 と、言いつつ石野谷は横に倒して持った弓に二本の矢を掛け、

「【ピュートーン・ブレイカー】、二連!」

 氷のカラス二羽を的確に撃ち落とした。


 そして槙島は、苦虫を嚙み潰したような顔をして、数の減った暗黒兵たちと戦う八人を睨む。

「俺の魔法をことごとく防がれるとは……ならば!」


 槙島はグングニルを掴み、それを虚空に突き立て、黄金のゲートを作り出す。

「【英霊顕現(ヴァルハラ・アドヴェント)】!」

 そこから槙島は、まずジークフリートとクー・フーリンの英霊を召喚し、すぐさま八人へ突撃を命じる。


「本日四体目ェ! 【水卦旋刈脚】!」

「【絶対至敗(ぜったいしはい)】!」


 そして二体の英霊は飯尾と松永によって瞬く間に撃破された。


 これには流石の槙島も、第三の英霊を呼ぶのを止めて驚く。

「馬鹿な……俺の英霊がこんな早くに……」


「当ったり前だ! 俺たちは本気でお前を止めたいんだからな!」


「そのためにできることはとことんした。今更そんな仮初めの姿の偉人でどうこうできると思わないでくれませんかね……!」


「ぐっ……」


 ありえない。と、槙島は壊れたラジオのようにぶつぶつと繰り返しつぶやきながら、虚空からグングニルを引き抜き、再び刺す。

 続いて作り出されたのは、暗黒のゲートであった。


「……【兵霊詔令】」

 槙島は暗黒兵をさらに呼び出し、一気に有原たちへとぶつけ、

「【凍裁擲槍】」

 続けて氷の槍の弾幕を押し付ける。


「アイツ、あれで延々と波状攻撃を仕掛けて俺たちをすりつぶすつもりだよ、祐」


「教えてくれてありがとう隆景……だったら、ここは僕が一度押さえつけてみるよ!」


 有原は剣の構えを正し、右足で一歩前に踏み出す。

 自身を竜巻で包み込むと同時に、右足の裏に突風を作り出し、一気に推進する。


 飛んでくる氷の槍を竜巻で弾き、道を阻む暗黒兵は槍の反射と竜巻の勢力でどかし、瞬く間に槙島との距離を詰める。

 そして有原は自身が帯びる竜巻を全て剣に集約し、槙島めがけ振りかざす。

「【天羽々斬(あまのはばきり)虚剣(きょけん)】ッ!」


「【極氷神楯(アースガルズ・シールド)】!」

 咄嗟に槙島は自身の周囲に円形の氷のバリアを展開し、有原の一刀を受ける。


 だがその刹那、氷のバリアは木っ端微塵に砕け散った。


 槙島はグングニルを有原の前に置き、彼の剣を止める。


 幸い、氷のバリアの時点で威力は落ちていたことと、槙島を傷つけないようにと威力を加減していたこともあり、グングニルは槙島の眼前まで押されたところで、有原の剣を止めきった。


 有原は逆にこれに安堵して、槙島から一歩退いて、剣をゆったりと構えつつ言った。

「……槙島さん、本当にもうやめましょうよ……」


 槙島は何も言わず、ただ顔をしかめた。


 槙島も薄々理解しつつあった。

 もはや今の有原たちは、自分の力量を超えてしまっているのではないかと。


 しかし、ここで負けを認めては、自分のこれまでの歩みが何もかも水泡に帰してしまう。


「……嫌だ、俺は……俺は……このまま負けっぱなしでいられるものかァァァ!」


 槙島はグングニルへ魂を込めるように握った後、上へ投げる。

 グングニルは半分直された玉座の天井を貫き、空高くへ飛び、そこでグングニルは穂を真下へ向けた状態で留まった。


 刹那、王城の上空に、大樹の枝の如くおびただしい数の氷槍が現れる。


「この技はまさか……」

「確か、俺たちが槙島に襲われた時に使ってきた……」

 内梨や飯尾など、八人がこの忌々しい光景を見上げる中、槙島はありったけの憎悪を込めて詠唱する。


「有原……貴様らの正義の勇者パーティーごっこはここで終いだ……【界樹理啓(ユグドラシル・オーダー)】!」


 そして空に浮かぶ氷槍は、無慈悲に有原たちへ降り注ぐ。


「【湍津(たぎつ)ノ疾槍(しっそう)】ッ!」

 有原は後方へ高速移動し、暗黒兵を粗方片付けた仲間たちの元へ戻る。


「皆、次こそはあれを乗り越えるんだ!」


「「「「「「「おう!!!!!!!!」」」」」」


 八人は団結を強め、あの忌まわしき氷槍の束を見上げた。


「【櫛名田(くしなだ)ノ豪砲(ごうほう)】ッ!」

 有原は両手から豪風を撃ち出し、

 

「【天卦咆穿拳】!」

 飯尾は空へアッパーカットを繰り出し、音波を炸裂させて、


「【神器錬成:勝利の剣】! お願いします、勝利さん!」

 内梨は空へ浮かせた勝利の剣に弾き落とさせ、


「【ゾス=オムモグの饗宴】!」

 海野は恐竜の頭を象った水の塊に食わせ、


「【ルドラ・ブラスト】!」

 三好は闇属性エネルギーを空目がけ噴射して、


「【トゥアハ・グローリー】!」

 武藤は光を纏い刀身を伸ばしたクラウ・ソラスを思い切り空へ振るい、

 

「【崇奉の世戒】……! はっ!」

 松永は分身五体と共に電撃を放ち、


「【ロクシアース・ノヴァ】!」

 石野谷は一筋の豪火を撃ち出し、降り注ぐ氷の槍を全て消した。


 その時、天高くに浮かんでいたグングニルは氷を幾重にも纏い、世界樹の幹の如く大きな氷の槍と化していた。


「これで、これで、死にやがれ有原ァァァァ!」

 この怨嗟の声を合図に、極大の氷槍は、王城へ地上へと迫った。


「皆諦めないで! 今の僕たちが団結すればきっと、あれは絶対に止められる!」


「いいや、そんなもんじゃないぜ祐」


 有原は目を見開いて石野谷の方を向いた。

 それに気づいた石野谷は有原と顔を合わせて、思い切り笑って見せて、


「……悪いな祐、槙島に俺の誠意って奴を見せてやりたいから、この場は貰うぞ! 【イカロス・ライジング】!」

 石野谷は空へ、極大の氷槍へと飛翔した。


「待て石野谷さん……そんな無茶はするな!」

 嫌な予感がした松永は床に拳を向けて、【一心の世戒】で彼を止めようとする。


 その寸前、有原は松永の肩に手をおいて、

「大丈夫、今の陽星を信じて」


「……すみません、有原さん」


 地上からの応援を浴びながら、石野谷は可能な限り氷槍まで迫る。


「こんなことでどうにかなるって確信はないけれど……待ってろ槙島ァ! 今、俺が本気で生まれ変わろうとしてるってとこと、お前は今、間違っているってことを見せつけてやらぁ!」


 そこで石野谷は弓に五本の矢を掛けて、先に行ってしまった仲間たちの分の遺志を伝えるように力の限り弦を引き、一気に射る。


「行くぞお前らァッ! 【アルギュロトクソス・ネクサス】ッ!」


 一本目の矢は他のどの矢よりも早く飛び、高熱を宿して突き刺さり、氷槍の表面を脆くする。

 二本目の矢は黄金の炎を纏い、氷槍に命中する。豪傑がぶちかましたような強い衝撃を放ち、氷槍全体にヒビを入れる。

 三本目の矢は火を帯びつつ縦に回転し、当たる寸前に炎の斬撃波を放ち、氷槍に一筋の大きなヒビが広がる。

 四本目の矢は途中で炸裂し、無数の火弾と変わり飛び散る。火弾は氷槍の各所に命中し、ますますヒビを広げる。

 五本目の矢も炎を纏う。その炎はやがて大きな拳を象り、氷槍の先端に命中し、そこを平たく潰す。

 

 石野谷は半壊した氷槍を見据え、両手を挙げ、炎をそこに集め、特大の火の玉を作り出し、

「これが、俺たちの友情だぁぁぁぁッ!」

 全身全霊で氷槍へぶつける。


 一瞬、炎の乱反射によって、空が赤く染まって光輝いた。それが元に戻ると、氷槍は粉々に砕けていた。

 飛び散った破片は一気に溶け、水滴さえも瞬時に蒸発する。

 そしてついには、氷槍のコアとなっていたグングニルにも火が灯り、燃え尽きた。


【完】

話末解説


■登場人物

【松永(まつなが) 充(みつる)】

 レベル:79

 ジョブ:【呪術師】

 神寵:【バアル】

 スキル:【絶対世戒】、【〇〇の結界】


 一年二組の女子生徒。かつての名前は『十束(とつか) 十華(とつか)』。救済者パーティーの撹乱役。

 あまりにも暗く重く悲しい過去を乗り越え、自分に思いを託した熱血漢の遺志を引っ張って未来へ進むため、有原たちと共に戦う。

 ジョブは【呪術師】。神寵【バアル】。

 敵をより苛烈に苦しめるルールを課せるゾーン【世戒】で相手の行動を制限しつつ、電撃と格闘術を混ぜ合わせて、ジョブに囚われない戦闘を行う。

 バアルとは、カナン地域を中心に崇められていた嵐と豊穣神。聖書においては異教の神らしく批判される記載がある。

 現代においては『バエル』の呼称でソロモン72柱の一人として悪魔と扱われている場合もある。


【石野谷(いしのや) 陽星(ようせい)】

 レベル:98

 ジョブ:【狙撃手】

 神寵:【アポロン】

 スキル:【ヘクトル・スパーキング】、【アリュギュロトクソス・ネクサス】


 一年二組の男子生徒。石野谷一味のリーダー。救済者パーティーのサブリーダー役。

 何よりも自分の意志による自由を望んだ尊敬する人物と、思いのままに先立った親友五人の情熱を受け継ぎ、贖罪のために戦い続ける。

 ジョブは【狙撃手】。神寵は【アポロン】。

 火属性を軸として、ジョブ本来の弓による遠距離攻撃と、スキル【ヘリオス・アーツ】による格闘技での近接攻撃の両方を繰り出し、立ちはだかる壁を焼き尽くす。

 アポロンとは、ギリシャ神話の芸術と太陽の神。『鍛冶の神ヘファイストス』と同じくオリュンポス十二神の一柱。


■英霊(エインヘリャル)

【ジークフリート】


 竜殺しの剣バルムンクを携えた英霊。

 元ネタは『ニーベルンゲンの歌』などの伝承に登場する英雄。

 竜を倒し、その返り血を浴びて『背中の一点を除き、どんな刃も通さない強靭な肉体』となった言い伝えが有名。


【クー・フーリン】


 魔槍ゲイボルグを携えた英霊。

 元ネタはケルト神話の半神半人の英雄。

 影の国の女王スカアハからゲイボルグを授かった説話。敵国の女王メイヴとの戦争で活躍した説話が有名。

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