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第124話 我儘だけど言わせてくれ

 最終決戦の舞台、ヒデンソル王国王都にて。


 槙島が放った渾身の刺客――選りすぐりの【英霊(エインヘリャル)】八体は、有原たち八人の界訪者によって撃破された。


 王都中央部の第一層のさらに中央にある半壊した王城の、半分吹きさらしになっている玉座の間で、その事実を知った槙島は憤激した。


「あれほどの実力を持ちながらも、どうしてあの愚者どもを止められないんだ……! それに、それに、大義は、俺の方にあるんじゃなかったのか!?」


 当然ながら、その問いには、誰も答えることはなかった。

 玉座の両脇に半々で佇み周囲に控えている、世界観に似合わない背広姿の老人六人――【神々】は、沈黙を貫く。


「いいや、まだ……まだ俺に勝機は、大義は、天命はまだある……!」


 槙島は傍に浮かせていたグングニルを虚空に突き刺し、黄金のゲートを開く。


「これで勝ったと思うな有原、石野谷……【英霊(ヴァルハラ)……」


「【スコール・ガトリング】!」

 そこへ水の弾丸による弾幕が飛んできた。


 槙島は【英霊顕現(ヴァルハラ・アドヴェント)】を中断して、目前でそれを回転させて弾丸を全て弾く。


 槙島は右横にグングニルを移す。その後の彼の視界にいたのは、八人の少年少女。


「ついに来たのか……有原!」


「はい、来ましたよ……槙島さん!」


 有原、飯尾、内梨、海野、三好、武藤、松永、石野谷の八人――大陸の救世主たちは、槙島の元についにたどり着いた。

 

 この時、王城の周囲は、完全に包囲されていた。

 ミクセス王や騎士団長三人、ファムニカ王族姉妹、おまけにこれから起こりうる激戦に入るには実力不足で、王城には行けなかった畠中……討伐軍の主戦力がここに集結している。


 即ち、ヒデンソル王国の王都はほぼ制圧され、残すは本丸王城のみとなった。


 王都が落ち欠けた事実と、目の前に有原たちがいる事実。

 これに槙島が至極不愉快そうに顔を歪ませたのは言うまでもない。


「再確認ですが、我々はこの場に残ったままでよろしいのですよね」


「ええ、この際は逃げないほうがよろしいですから」


 その間、神々の面々が怪しくヒソヒソと話し合っていたが、槙島はそれに聞き耳を立てる余裕がないほど憤激していた。


「貴様ら……どうしてここまで来たんだ……?」


 有原は即座に答える。

「もちろん、槙島さんを助けに来まし……」


「それさえ言えば何もかも許されると思うな貴様ァァァ!」

 と、血眼になりながら叫んでから、槙島は語る。


「何度言わせれば気が済むんだ……貴様は俺の気持ちを考えたことがあるのか……どれだけ久門たちに理不尽な暴力を浴びせられたか、どれだけ真壁に理不尽な暴言を浴びせられたか、そして、どれだけ有原――貴様に俺の期待と希望を裏切られたのかわかっているのか!」


 有原は一瞬下を向いた後、槙島へ一切濁りの無い瞳を向けて、真剣に言う。

「わかってます。僕がもっとしっかりしていれば、久門さんや真壁さんが槙島さんたちに危害を加えることはなかったって。ですから僕はあの二人に押し負かされないように強くなりましたから」


「それは何度も聞いている! そもそも、そんなの今更遅いだろうが!」


「遅くなんてありません。またもう一度僕たちと取り合ってくれれば、きっと元の世界に帰って普通の日常を過ごせるじゃないですか!」


 これに続いて石野谷は言う。

「それにお前が散々嫌っている久門はもういない! 俺だってもうお前に嫌なことしないと誓う!」


 さらに松永も続く。

「真壁一派も全員死んだんだ。もうお前を嫌う奴はここにはいないんだ。お前は今、誰にも拒まれてはいない。だから今お前を阻むものは特にないってのに、一体お前は何にそこまで抵抗する?」


「抵抗するに決まっているだろうが……反省しただけで済まされるものか、有原、石野谷、他の日和見連中ともども、全員殺さなければ俺は『次の段階』に進めないんだよ……」


「……『次の段階』って、何ですか?」


「……世界に正しい秩序を齎すためだ。

 悪徳を持つ人間が権力を持ち、何の罪もない人間が虐げられる。それが今のこの世の道理だ。

 あの久門や真壁が一年二組内で幅を利かせていたのもそのためだ。

 だから俺は貴様らを殺し次第、表の世界で武と大義をもってして世界の秩序を革新する。それで俺の復讐は本当の意味で完成する」


 槙島は後ろ――神々の六人の方を見る。

 すると神々は槙島の意を介し、『お好きなように』と言う代わりに無言でうなづいた。


 そして槙島は八人へ向き直して語る。

「この後ろにいる皆は【神々】という能力者の集い……この大陸の創造主にして、かつて俺たちが元いた世界の支配者だ」


 創造主と支配者……その二つの衝撃のワードを聞いた八人は、程度の差はあれど情報の整理が出来ず愕然とする。


「あの方々が、大陸の創造主……」

「そしてあれが、ボクたちの世界の支配者さんなの……!?」

「なんか、やけに高そうなスーツ着てるおじいちゃんおばあちゃんにしか見えないけど……」

「てか、この世界にスーツあったのか? なあ海野?」

「ああいう肩書名乗るからには、ああいう異質な様相でも一周まわって相応しいだろうがよ、飯尾」


 槙島はそれで多少の優越感を感じつつ、話を続ける。

「ごく少数の才気と人徳に優れる絶対的権力者と、大多数の劣る民。この区別によって【神々】は何千年もの世界の統治を行った……これこそがまさしく社会があるべき規範だ。

 絶対に正しいと言える存在のみが権力を持ち、その他はただ権力に従えばいい!

 真壁や久門のように、人並みの道徳もなければ、『大企業の令嬢』や『不良の頭』や『学級委員』などの称号で雑に箔付けされた半端な権力を持つ人間は……死ねばいいんだ」


「……死んでいい人間なんているわけないじゃないですか!」

 と、我慢しきれずに有原は槙島に言った。


 すると槙島は有原たちを暫し無言で睨みつける。

 そして数十秒開けて、槙島は尋ねる。


「そもそもだ、どうして貴様は俺に拘泥する」


「……どうしてって、それは勿論槙島さんが同じ一年二組の……」


「もう既に一年二組は二十六人、木曽を足せば二十七人死んでいるんだ。もはや俺がいようがいなかろうが誤差に過ぎないだろうが。

 その上貴様らにとって、邪神に関連しない戦を増やした元凶にして、貴様らとは決別した俺まで助ける意味がどこにあるというんだ?

 一抹でもそう思うのなら言ってみろ、『槙島英傑さえいなければ幾分かこの大陸での戦いがマシになった……」


 有原は空を裂くように、激しく怒鳴った。

「そんなこと言えるわけないじゃないかぁッ!」


「……!」


 槙島や仲間の七人が、彼にしては珍しい怒りの声に動揺した。

 そんな中、有原は目から涙をこぼしそうになりつつ、彼へと訴える。


「我儘だけど言わせてくれ……

 勝利も、御崎さんも佐伯さんも、トリゲート城塞で死なせたくなかった。

 柊さんも、今川さんも、黒磯さんも、斯波さんも、武藤さんの友達のままで生き残らせてあげたかった。

 梶さんも、大関さんも、桐本さんも、稲田さんも、改心して貰えたんだから、また一から僕たちや陽星と共に歩んでほしかった。

 酒井さん、辻さん、桜庭さん、矢野さん、衛守さん、小清水さん、豊本さん、都築さん、鳥飼さん。あと、塚地さん、五十嵐さん、式部さんたちと、仲たがいしたままで関係を終わらせたくなかった。

 どうにかしてでも真壁さんとも久門さんとも逢坂さんとも分かり合いたかった。

 そして木曽先生、クローツオさんやグレドさんみたいに、僕たちのせいで無駄な争いに巻き込まれて死なせてしまった大勢の人たちも生きてて欲しかった。

 けど、それは出来なかった……僕が、色々な意味で弱かったばっかりに……」

 

 有原は両目を片手で一気に拭い、そして槙島へ真剣な眼差しを向けて訴える。

「だから僕はずっとずっと強く思ってた……今生きているみんなは全員助けるんだって。せめて、せめて一人でも多くの人を助けて、みんなで明るい気持ちで帰るんだって。

 だから、冗談でも『自分さえ消えればいい』なんて言うんじゃない、槙島さん!

 例えクラスメートを死なせたとしても、国ごとぶつけて僕たちに復讐しようとしても、他のみんなは君のことを多少なりと恨んでいるかもしれないけれども、僕は、僕は……今でも、とにかく一年二組のクラスメートである槙島英傑さんを助けたいと思っているんだから!」


 そして有原は右手を槙島の方へ向けながら、仲間と最後まで争わなければならない悲しさ故に大粒の涙を流しながら、懇願する。

「だからお願い、一年二組に戻ってきてください、槙島さん……せめて一緒に帰りましょうよ……帰った後はもう、一切関わらなくてもいいですから……」


 この情けなくも真っすぐな学級委員、有原祐の姿を見た槙島は、うなだれた。

 彼の必死な『助けたい』という信念に心を動かされた。


 故に槙島は有原たちの方へ手を伸ばして、

「……悪いな、有原……我儘だけど言わせてくれ……

 俺はもう最後までこうすると決めたんだ……例えどんなに貴様らが頭を下げようとも、貴様らは、俺の人生を狂わせた怨敵でしかないと……俺は決めたんだよ……俺の心は、復讐を果たすまで晴れないと……」


 周囲に無数の氷の槍を生成し、

「だから、消えろ……【凍裁擲槍(ミーミル・ジャベリン)】!」

 一瞬の躊躇いを経て、有原たちへ一斉に放つ。


「……【田霧(たきり)ノ威盾(いじゅん)】ッ!」

 有原は自身の周囲に竜巻を展開し、氷の槍を全て飲み込ませる。そして誰もいないところへ散らして完全無効化する。


「わかったよ、槙島さん。だったら僕は……いや、僕たちは、君の復讐を止めて、君を本当に救い出して見せる!」

 と、言い放って有原は、師匠グレドの肩身である剣を引き抜いた。


 同時に、周りの七人も余計な言葉は交えず臨戦態勢を取る。


 そして九人の界訪者は強く思う――ついに全てを決める真の最終決戦が始まった。と。


【完】

話末解説


■登場人物

【武藤(むとう) 永真(えま)】

 レベル:83

 ジョブ:【戦士】

 神寵:【ヌアザ】

 スキル:【神器錬成:クラウ・ソラス】、【カラドボルグス・ヴァリアント】


 一年二組の女子生徒。救済者パーティーの切り込み役。

 元気はつらつで活発的な性格。

 もう二度と大切な人を失いたくないという一心で、自分を助けてくれた有原と、その仲間たちと共に戦う。

 戦闘ではジョブ【戦士】で神寵は【ヌアザ】。

 光属性エネルギーを放ち剣撃を強化できる彼女専用の剣【クラウ・ソラス】を振るい、輝かしい道を切り開く。

 ヌアザとはケルト神話の戦神。欠損した右腕を銀造りの義手で補ったという伝承から『銀の腕《アガートラム》』という別名を持つ。


【三好(みよし) 縁(よすが)】

 レベル:90

 ジョブ:【暗殺者】

 神寵:【シヴァ/ヴィシュヌ/ブラフマー】

 スキル:【トリムルティ・ディザイア】


 一年二組の女子陽キャのリーダー格。救済者パーティーの高速アタッカー。

 不本意だったとはいえ自らの手で友達三人を殺めてしまった過去を受け入れ、新たな友達と共に元の世界に帰るべく奮闘している。

 ジョブ【暗殺者】の個性と神寵【シヴァ/ヴィシュヌ/ブラフマー】の効果を組み合わせ、闇属性を用いた多彩な攻撃を素早く繰り出し戦う。

 シヴァ、ヴィシュヌ、ブラフマーとは、それぞれインド神話の破壊神、維持神、創造神。この三柱でトリムルティを成す。

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