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第113話 畠中vs槙島

 ミクセス王国最南端、トリゲート城塞にて。


 深夜、畠中はそこの北東門の門番に声をかけようとした。


 その寸前、

「おい、こんなおっかない真夜中にお出かけか? 度胸はある方がいいのは確かだが、ありすぎるのもアレだぞ畠中」

 と、背後から石野谷に話しかけられ、


「ヒィィィィッ!」

 畠中はいかにも畠中らしい悲鳴を放った。


「こらこら、あんま騒ぐな畠中。見張りの皆さんはいいかもだけど、寝てていい人まで目覚めちまうだろ」


「す……すみません……」


「あいよ……で、お前、どうしてこんな時間に門の近くにいて、今さっきあそこの門番に話しかけようとしたんだ? マジでおでかけのつもりか?」


「あ、そ、そ、そそれはですね、ね、ね、ね……」

 と、口で奇妙なエコーを奏でながら、畠中は考えてからこう答えた。

「……今日は眠れないので、ちょっとお散歩して疲れて眠気を……」


「そうか、眠れなくて散歩か……俺もそうだぜ。気合が入りすぎて逆に目覚めすぎてるって感じでな」


「ああ、そうですか……わかりますわか……」


「けど、散歩くらいなら城内ですればいいんじゃねーの? 外は危険だぞ? 魔物とかもそうだし、ワンチャン槙島軍の奇襲があるかもしんないし。というより……お前、急にどうしたマジで?」


「いや……そ、それは……その……」


 畠中は不自然に両手をバタバタさせながら、石野谷は不動のまま。

 しばらく二人は北東門の付近にて、無言で向かいあった。


 そして畠中は観念して、白状する。

「わかりました……僕は今、ここから外に出て、たった一人で英傑(ひでとし)に会いに行こうと思いました」


 反射的に石野谷は大声を上げて驚いた。さっき騒ぐなと言ったことは当然忘れた。

「は!? ま、槙島ァ!? 何でお前がそんな渦中のど真ん中に飛び込むんだよ!? あ、まさか槙島に寝返ろうとか……」


「いやいやいやいや! それは流石にないですよ! 昨日からこれだけ皆さんにお世話になってますのにそんなこと出来るわけないですって!」


「じゃあ……一体何だよ!?」


 もう白状してしまえば焦ることは何もない。畠中は先程とは打って変わって比較的落ち着いて続ける。

「アイツに『こんな戦いはやめてくれ』と説得したいからです。ご存知の通り、僕と英傑は一年二組の根暗卑屈陰キャ同士で、友達でした。だからその縁を使って説得すれば、多分丸く収まるんじゃないかって……」


 石野谷は食い気味に言う。

「わかってる! お前と槙島が仲いいのはわかってる! けどそれでも無謀だっつーの! お前、ウェスミクス村で俺たちの話聞いただろ!

 アイツは、加害者だった俺はまだしも、ただ俺をかばっただけの祐まで親の仇みたいに恨んで襲いかかったんだ! 真壁と久門さんには敵わなかったとはいえ、一応アイツを助けようとした恩人の祐まで!

 だからきっと友達のお前がどうこう言ったって絶対奴の心には響かないぜ!?」


 畠中は返す。

「それはわかってます……けど、それが今僕にしか出来ないみんなへの最大の貢献方法なんです!

 皆が色んな強敵と戦っている間、僕はずっと田舎でなまけてたせいでレベルが低いし、【祈祷師】としての技量も内梨さんと比べたら月とスッポンですし、最近になってようやく【神寵】に目覚めてもまるでダメですし、現状、皆さんが通った【栄光の遺跡】にすら挑めませんし……ハッキリ言って僕は戦力としては何の期待もできません!

 だから、僕はこの英傑との仲っていう数少ない取り柄を使って、皆さんを助けたいんです!」


「……それは、一部事実かもだけど……そんな卑屈になるなよ畠中! 俺たちにとっちゃ、お前が一年二組の中で生き残っているってだけで気持ちの部分で十分貢献できてんだ! 困るんだよ俺たちは! お前が行って殺されて、それすらもなくなったらさぁ!?」


「いいえ! 行くと言ったら僕は行きます! 僕はもう皆の影で怯えて逃げないと……たったそれだけの後ろ向きな貢献の仕方はしないと決めましたから!」


 石野谷は目を点にした。

 畠中はこの数日で畠中のダサい皮をビリビリに破った。

 元の世界でいじめていたころの臆病でなよなよしている奴とはまるで違う、勇気と自信に満ち溢れた人物が、ここにいた。


 それでも、当人が自己申告したように、畠中は一人で敵陣に突っ込ませるのは無謀という言葉に対しても失礼なほど無謀。


 石野谷が硬直する中、畠中は改めて、堂々と頭を下げて頼む。

「……だからお願いします! ここは僕のわがままを聞いてください!」


 すると石野谷はフッと一瞬笑ってから、畠中の横を通り過ぎた。

 石野谷はさっきのやり取りをじっと見ていた北東門の門番に近づき、告げる。


「……なぁ、今一瞬、ここを開けてくれないか? 外出したい奴が一人いるんだ」


「はい、ただいま!」


 門番が快く門を、人一人が通れるくらいの間隔で開けてくれている間、石野谷は、門の方をキョトンとして見ている畠中の元へ戻る。


「ほら、さっさと行って来い。こんな真夜中に門が開いてると怪しまれるからな」


「え……いいんですか……」


「いいに決まってんだろ。臆病なお前が勇気をもって言い切った決断なんか、誰にも悪く言えないっての」


「……わかりました……あ、ありがとうございます、石野谷さん! 必ず、英傑を説得してきます!」

 と、畠中は礼をしつつ言ってから、直ちに北東門を駆け抜ける。


 その寸前、畠中は足踏みしつつ振り返り、石野谷へ言う。

「すみません、言い忘れました! このこと、他の皆には言わないでくださいよ!」


「当たり前だ! 安心しろ、俺はこう見えても口が堅いからな!」


「は、はい! ありがとうございます!」


 こうして畠中はトリゲート城塞から出て、

「【夜食国(よるのおすくに)の願(ねがい)】!」

 自分の素早さをミリ増強して、槙島がいるとされる真南の土地へと駆けていった。


*


 明け方。


 トリゲート城塞から真南に約二十五キロメートル先にある荒野にて。


 そこには今、おびただしい数の野営地が仮設されていた。

 ヒデンソル王国軍の陣地。ここに槙島率いる十五万の兵士――彼が保有する戦力の九割――が一夜を過ごすためのものだ。


 一秒でも早く復讐を為す。

 この軍の最高指揮官である槙島は、外が明るくなったばかりのこの瞬間に、配下たちへ速やかに撤去、そして行軍の支度を行させていた。


 それを陣の最奥で槙島は眺め、自分の意に従わず迅速に動こうとしない兵士たちに苛立っていた。


 その時、

「陛下、伝令です!」


「何だ……簡潔に伝えろ」


「この野営地に、不審な人物が一人訪れました!」


「そんな奴、さっさと手打ちにしてしまえ……たかが不審者一人で仰々しく騒ぐな」


「しかし、その少年は『俺は畠中(はたなか)新(あらた)だ! その名前を槙島英傑に聞かせればきっとわかる!』と、意味深なことを言っておりまして……」


 畠中新――その名前を聞いた途端、不機嫌な様子から一転して兵士に命ずる。

「畠中……!? 直ちに連れてこい! 言うまでもなく丁重にだ!」


「な? は! し、承知しましたぁ!」


 そして槙島はすみやかに、部下に陣の一箇所にテーブルと椅子を用意させ、来客用の空間を設ける。

 その上座に座り待つこと数分後、


「久しぶりだな、新」


「ど、どうも、ごぶさたです……英傑」


 何発か殴られた痕跡が顔に残っている畠中がやってきた。

 槙島は、朗らかに笑いながら、畠中に着席を勧めた。この世界に来る前のこともあって、畠中は、こんな普通の少年が今、邪神に次ぐ悪の親玉と見做されていることに、畠中は疑問を抱かずには居られなかった。


(ただ、こういうのはよくあるからな……オモクソやらかした有名人の身内が『アイツはそんな奴じゃないんですよ』って擁護するくだりだか恒例行事だか)


 畠中はヘコヘコしつつ、反対の席に座った。


 そこから二人は約一ヶ月半ぶりの再会を喜び、軽い会話をして空気を温める。


「まさか俺だけでなくお前まで生きていたなんてな。世の中は本当にどうなるかわからないな」


「ハハハ、だねだね……」


 最中、畠中は切り出す。

「ところで英傑、お前は、トリゲート城塞から生還した後何してたんだ」


 槙島は即答する。

「決まってるだろ、俺たちをいじめた社会のダニどもを始末してた」


 その話は既に石野谷たちから聞いているが、ここは話の自然さを優先して知らない振りをする。

「社会のダニ……それってもしかして、真壁とか久門とか?」


 槙島は平然と笑いながら答える。

「そうだ。真壁は俺が殺る前に死んだが、久門は俺が殺した。あそこで目覚めた時に得た神寵【オーディン】を使ってな」


「オーディンか……北欧神話の主神か、当たりだね」


「当たり前だ。善き神は正義に味方するべきだ。だから俺は久門と、それから奴の仲間も殺せたんだ。塚地、五十嵐、式部、梶……石野谷と逢坂と有原はいいところまで追い詰めたんだが逃げられちまった」


 梶は逢坂によって殺され、逢坂は槙島を翻弄し尽くしてから去った。と、皆から聞いているのだが、畠中は機嫌を損ねないように愛想笑いする。

「ハハハ、それはひどい話だね」


 その後、畠中は確認のために尋ねる。

「待って、今お前、『有原』って言ったけど……学級委員も復讐対象なの? 一応僕たちのこと守ろうとしてくれてたのに」


「そうだ。お前が言った通り、奴は俺たちを真壁と久門から半端にしか助けられてなかった。ただあの二人を逆上させて俺たちのいじめを加熱させ、自分は『弱い者の味方』ぶってるだけの偽善者だ。アイツも殺す価値は有意にある。しかも」


「しかも?」


「石野谷を仕留めようとした時、アイツはここに来ても『弱い者の味方』ヅラして、あり得ないことに石野谷をかばった。アイツは最低だ、誰かのヒーローになることでしか自分を維持できない承認欲求の塊だ」


「そ……そうか……そうだね、よくよく考えてみれば確かにひどい人だね……」


(そんなこと無い。有原さんは必死に僕たちを助けようとしてくれたじゃないか。そのためにあれだけ強くなって、暴政を敷いてた真壁を倒してくれたじゃないか)

 と、畠中は槙島に言いたいことを心の中でつぶやきながら、辺りを見渡す。


 周りには重厚な装備を身に纏う兵士たちが何百何千と並び、王と自分を警護している。

 槙島は本当にヒデンソル王国を国盗りした。

 この事実を改めて思い知らされ、畠中はただただ圧倒された。


 その様子を見て槙島は言う。

「どうだ、凄いだろうこの軍隊。これは暗君が無駄使いしていた品を正しく活用して生み出した、俺の軍隊だ」


「暗君……ヒデンソル王国の先代国王?」


「そうだ。奴は貧富の差が激しい王国の歪んだ道理を悪用して、贅の極みを尽くしていた。だから俺は奴を討ち取った」


「それでヒデンソル王国をクリーンにしたんだね……」


「それもそうだけど、それだけじゃない。俺はこのヒデンソル王国の兵力を礎にして、今度こそ大義を果たす」


 畠中は、ズボンのポケット辺りに置いた手を支柱とし、前のめりに構える。

「世界を正す……どうやって?」


「新、俺としたらもっと頭を使ってくれたほうがありがたいんだけどな……まあいいよ。結局俺の口で言ったほうが早いだろうし。

 ――復讐だよ。俺を苦しめた奴全員鏖殺するんだよ。

 人よりちょっと優れた部分があるからって俺たちを虐げて、ただ甘い汁を吸いつづけた連中を全員皆殺しにするんだ!

 これは石野谷や有原や奴らの仲間だけじゃない! 元の世界にいる奴らの親族や真壁グループ、行政、とにかく俺の人生に陰りを齎した要因を持つもの全員を抹殺する!」


「も、元の世界まで……!」


「ああ、詳細は言わないが、俺は知ってるんだよ。【神寵】含むこの異能を元の世界に持ち出せる方法をな……」


 そして槙島は己の理想を語る。まさしく新国王の貫禄と雄弁さをもってして。

「世の中が歪むのは、心の貧しい奴が身の丈に合わない権力を振りかざしているからだ! 俺はこの復讐を通して、そういう奴らを迫害する意義を訴えたいんだ!

 そして悪徳を持つ権力者がいなくなれば、俺たちみたいな何の罪もない連中は二度と苦しまなくていい! これが正された世界の終着地だ!」


「それが、正された世界の終着地……」


「そうだ……同感だろ、新」


 畠中はうなづいた。

 もし真壁や久門にもう少し人を思いやる気持ちがあれば、あるいは、二人がいなければ自分たちはいじめられることはなかったし、トリゲート城塞での悲劇もなかったかもしれない。

 だから畠中は思う。槙島の言葉は、筋が通っている。一理ある。と。


 しかし、畠中は言う。

「けど、『槙島さん』……これが本当に正しいことなのかな」


「……は?」


 畠中は、ここに来る時に出した勇気を発揮して語る。 

「実は、僕はついさっきまで、貴方が恨んでいる有原さんと石野谷さんのところにいた。そこで貴方がしてきたことは全部聞いた。だから思うんだ。君の復讐は、やりすぎじゃないかって。

 確かに久門と真壁は同情の余地が少ない人だった、石野谷さんも一緒になって悪さした人だし、有原さんも清廉潔白とは言えない人だった。

 けど、石野谷さんは反省して罪を償おうとしている。有原さんは今度こそ僕たちを救えるように、二度と誰かに屈しないように修行して強くなっている。この二人は、久門と真壁くらい悪い奴ではないよね。

 なのに槙島さんは、どうしてそれを全て考慮しないで、全員悪者って言い切れるのかな?」


 槙島はテーブルへ拳を一回叩きつける。その箇所は案の定、ひび割れていた。

「……それで、何が言いたんだよ新?」


 畠中は再び辺りを見渡す。槙島の意を微かに感じて、何人かが槍を構え始めている。

 それに少々怯えつつも、畠中は話を続ける。

「ヒデンソル王国の人もだよ。悪い王様から開放された後に、見方次第ではたった一人の私怨のために戦わされるのもどうかと思うよ」


 槙島は再びテーブルに拳を叩きつけた。今度はひび割れた箇所が凍り始める。

「私怨じゃない、大義だ! ……どうした新!? さっきから俺の揚げ足を取るようなことを言って! 言いたいことがあるなら早くはっきりと言ってくれ!」


 お言葉に甘えて、畠中は、有原の仲間であり、彼の友達としてはっきりと言う。

「わかった言うよ……お願いです槙島さん、この無益な戦いを止めてくれませんか?」


「無益な、戦いをだと……!?」


「何度も言うけど、貴方の恨みは痛いほどわかります。僕も同じ仕打ちを受けたからよくわかります。けど、それを大きくしすぎてしなくてもいい戦いをしないでください!

 僕たち一年二組の最終目標は『腐った権力者を倒す』ことじゃなくて、『元の世界に帰る』ことでしょう!?

 もう邪神獣は十三体全部倒したから、後は親玉の邪神を倒せばすぐ帰れるかもしれないんです! なのに、今有原さんたちは『槙島英傑』っていう本来なら戦わなくていいクラスメートと戦わなきゃいけなくなっているんです!」


「いいや、戦うべき相手だ! こちらも何度でも言う! お前はいじめられっぱなしで悔しいとか、いじめた奴らは幸せそうにしてて憎いとか、そういう感情はないのか!」


「あるにはありますよ! けど、どうせ僕はいじめた人たちには勝てないし、そんなこと延々と気にしても何にもならないから忘れましたよ! 僕は生還した後、ある田舎の村で暮らしてました。そこで僕は学んだんです! 『幸せになるには自分から踏み出して頑張らなきゃいけない』って!

 だから僕は昔のことは忘れて、怖がらずに有原さんと石野谷さんのところへ帰りました!

 ……いじめの主格が消えたってのもありますけど、皆、僕のことを喜んで受け入れてくれました!

 槙島さんも、過去のことを引きずって敵を作るよりも……自分の中で落としどころを作って、もっと先のことを考えたほうがいいんじゃないんで……」


「ヴワァァァァァァッッ!」


「!?」


 槙島は頭をテーブルに思い切り打ち付けてから、絶叫した。


 この時、槙島の脳裏には、


『他の何かにばかり頼って、自分はろくな学習をしない……だからこんなわかりやすい攻撃もかわせないんだよお前は!』


 久門の単純な背後からの攻撃を食らった過去が、


『この世の中、誰でも仲良くするとか、いい権力手にするとかが全てじゃあないんだよ。社会に迷惑をかけない範疇で、最低限で自分の居場所を見つけてそこでのびのび暮らせるかどうかが価値があるんだよ。

 けどお前は自分の居場所を確保するよりも、他人の居場所と自分の居場所を比べて「ずるいずるい」とひどく恨んで、その割には特に本質を見直すこともしないで……極端な話、そんな居ても空気が悪くなる人間、いじめられても当然だと僕は思うけどね!』


 梶が自分の本質を酷くも的確に解いた過去が、


『例えば、真壁や久門さんみたいな『確固たる信念』がある人は、『被害』を受けても自分の確固たる信念を持って相手に押し返す。これは素晴らしい。人間とは意思が宿ってこそであるから。

 一方で、例えば有原みたいな『自他への思慮』がある人は、『被害』を受けたら、相手と自分の落ち度を分け合い、自分が持って帰った分は今後の反省に活かす。こちらも素晴らしい。人間の務めは平和と成長が主なのだから。

 ……そしてテメーはどちらにも程遠い、なんせテメーは『被害』を受けたらプリンの上のさくらんぼみてーなトッピングをして、そっくりそのまま押し返して終わりなんだからよォォォッ!

 だからお前は弱っちいままなんだッ! 成長しようとしないから弱っちいままなんだッ!』


 逢坂が自分を断じた過去が、連続して、ループして流れていた。

 

 槙島はこの屈辱と苦痛を吐き出すように、テーブルのヒビを両拳で広げながら、獣のように絶叫した。


 畠中は立ち上がり、槙島に寄ろうとする。

「な、なぁ……大丈夫か英傑……!?」


 その最中、畠中は硬直した。

 突然、頭をゆっくりと上げて、殺気に満ちた両目を向けた槙島に戦慄した故に。これだ、これが邪神に次ぐ脅威の姿だ。


 畠中は思わずガタガタと震える。かつての臆病者の仮面は置いてきたはずだが、この槙島の殺気を前にしては仕方がなかった。


 そんな畠中へ、完全に立ち上がった槙島は冷酷に告げる。

「畠中……俺は最後まで信じてたんだぞ……なのに、貴様も、そっち側に堕ちやがったんだな……!」


「……違う、堕ちたとか目覚めたとかじゃな……」


「……そもそもだ……お前がいたのも一因だったんだ……お前みたいな泣き虫が俺の隣に張り付きやがったから、俺も一緒にいじめられたんだ……やっぱお前も真壁や久門や有原と一緒だ……もっと早く気づくべきだった……俺にはもう味方は居ない、どいつもコイツも俺を社会から淘汰しようとする最低の連中だったんだァァァァァッ!」


 槙島は右手を真横に伸ばして唱える。

「【神器錬成:グングニル】ッ!」

 

 右手の先にある虚空から、刃にルーン文字の刻まれた槍――神器【グングニル】が出現する。

 刹那、グングニルに持ち主の絶大な憎悪が移り、畠中一直線に飛ぶ。


「消え失せろォォォ、このクズがァァァッ!」


「ヒィィィィ!」

 畠中は目をつむり、死を覚悟した。

 しかし、いつまで経っても痛みが襲ってくることはなかった。


「あれ……?」

 これを不思議に思い、畠中は目を開ける。

 

 すると目の前には、火を灯した両手で余裕そうにグングニルを掴む石野谷がいた。


【完】

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