第111話 農村暮らし陰キャ物語~畠中、新たな居場所へ~
飯尾、三好、石野谷の一斉攻撃により【邪悪のテラフドラ・テュポーン】はついに倒れた。
それを見た鳥飼は、もはや言うまでもなく顔が青くなっていた。
「そ、そんな……私のテラフドラ・Tが……あッ……!」
鳥飼は僅かな望みをかけてテラフドラ・Tへと駆け寄ろうとする。
「ついさっきのことだぞ? 【一心の世戒】を忘れちゃいないよな?」
鳥飼は今、松永が発動した【一心の世戒】により、一対一での戦いを強いるバリアの内側にいる。
彼女はそのバリアに阻まれ、テラフドラ・Tに近づくことも、ダメ元の魔法をかけることもできなかった。
「お、起きてくださいましテラフドラ! さもないと私は……私は……!」
鳥飼はバリアを両拳で何度も叩く。
このバリアには一般人なら軽く痺れるくらいの電流が流れているのだが、焦りに焦った彼女はそれすらも、そもそもこのバリアは『自分では壊せない』ことも忘れて必死に叩き続ける。
松永はその諦めの悪さに呆れつつ、彼女の元へと歩く。
「真壁からテラフドラまで、お前はただ他人の力を頼ることでしか能のない奴だったな……」
鳥飼は顔をしかめながら松永へ振り向いて、
「ち、ちちちち違いますわ! 私は代々受け継いできた才能と気品のある才女の鳥飼楓……」
「だったら自分でどうにかしてみろ! ろくでもない生まれの俺に出来るならなおさらな!」
「ひ、ヒィィッ!」
鳥飼は松永へ何らかのデバフをかけようとした。
が、その前に松永は、鳥飼のみぞおちに思い切り拳を叩き込み、彼女をあっけなく気絶させた。
そして松永は【一心の世戒】を解除して告げる。
「こっちも終わったぞ、皆」
こうして鳥飼とテラフドラ・Tによるウェスミクス村での激戦は終結した。
*
数十分後――日が昇る兆しが見えかける頃。
戦いを終えた五人は丘に避難したウェスミクスの村人たちにその報告をし、彼らとともに村へと戻った。
もっとも、今のウェスミクス村は民家も田畑も全て破壊しつくされ、かつての面影が一切残っていない。
そんな変わり果てた村の有様に、村人たちは呆然と立ち尽くす。
そこで三好は真っ先に村人たちへ向いて、
「ごめんなさい、アタシたちが自分たちの問題を持ち込んで、アイツをここで好き勝手させたばっかりに、皆さんの村をこんな滅茶苦茶にしてしまって」
続いて他の四人も村人へ頭を下げた。
すると村人たちの先頭にいるネーナは、多少無理をしつつも笑顔を作って、
「……いいんだよ。村は壊れたけど、ここにいた人全員は無事なんだから。もちろん、アンタたちを含めてね」
これに後ろの村人たちも頷いたり、思い切り笑って見せたりして、一年二組の五人を安心させた。
「そうですか……だったら、本当にごめんなさい」
「「「「色々ご迷惑かけました……」」」」
「だからいいってばぁ」
それからしばらく、一同は悲しみを少しでも紛らわすためにクスクス笑いあった。
その後、一同は壊滅した村を見渡す。
ついさっきまであったテラフドラの遺骸は、蓄積したダメージの影響で、既に崩壊した。
だがその跡には、奴の邪結晶が燦然と、村の跡地の中でひと際目立って輝いていた。
それを見て飯尾は一言。
「『よくぞ勝ってみせたな』と達成感を煽ってるのかな、あれ?」
石野谷は言う。
「死んだあとにガビガビ光ってやがるんだから煽ってると思うぜ。だってああいう敵が死ぬときは清々しくきれいさっぱり消えるのがセオリーだと思うからな」
三好は言う。
「それは石野谷さんの趣味じゃないの?」
松永は言う。
「しょうがないでしょう、邪神獣はこういうものなんですから。本当にきれいさっぱり消えてしまったら俺たちの元の世界の帰還に響きますから」
「そうですよね……邪結晶は十三個ないとダメらしいですからね」
と、畠中が言った後、
「それと、邪神も忘れずにな」
「だな」
「だね」
「ええ」
「ですね……」
五人は一斉に下を見る。
そこには、手足を縛られた状態で地面に寝かされている鳥飼がいた。
「うう、よくもこの私を二度もこのような屈辱を……」
「自業自得でしょ、温室育ちの箱入り娘さん」
「この、三好……」
鳥飼が何か言いかけた途端、松永は屈んで彼女を睨みつけ、威圧で黙らせる。
松永は尋ねる。
「それはそれとして、今度こそ邪神珠返せよ」
「ふざけないでくださいませ……! そもそもこうして縛られている状況でどう返せばいいのですか!」
「あ、その言葉、返す気はあるっていう風に捉えていいよな? じゃあ、三好さん」
「おけ、今度はパパっといこうか」
そして二人は鳥飼を調べ上げる。
間もなく、松永は彼女が袖の中に隠していた完全な漆黒の宝玉――【邪神珠】を強奪する。
「思ったより安易なところに持っていたな」
「だって、そこの方が取り出しやすいんですもの……」
松永は取り上げた邪神珠を、二度と奪われないようにと飯尾へ渡す。
飯尾はそれを両手で持って見つめながら、
「【栄光の遺跡】と【邪神珠】……これでどっちも達成だな、松永」
「ええ、ものすごいラッキーでしたね」
「だな、これぞまさしく一石二鳥ってや……」
この時、邪神珠は飯尾の手から転がって落ちた。
「何やってるんですか飯尾さん。俺はアンタの腕力と責任感を信じて渡したってのに……」
「いいや、違うんだ! 俺はしっかり握ってたんだがコイツが……」
飯尾の手から落ちた邪神珠は、ドリブルされているサッカーボールとくらいの速度で転がり、飯尾から離れていく。
邪神珠が向かっていく先は、拘束状態の鳥飼の方だった。
「おいコラ! せっかく取り返したのにまた行くな!」
「ちょっ、何かこれ早くない!?」
「と、とにかく止めませんと!」
石野谷、三好、畠中は足を出したり、飛びついたりして邪神珠を止めようとした。
しかし邪神珠は、あたかも意思があるかのように三人を避け、前進し続ける。
そして邪神珠は鳥飼のすぐ側まで転がり、
「え、何でまた私の元……へっ!?」
そこで突然急加速し、鳥飼の腹部に当たる。
直後、鳥飼の周囲に邪悪な黒いオーラが放たれ、
「ひやぁぁぁぁ!」
彼女は邪神珠と共に西へと飛んだ。
何故このようなことになったのかは理解できないが、五人は鳥飼を追おうとした。
しかし、彼女は、村人はもちろん、神寵覚醒者ですら目に追えない速さで、遠く、高く飛んで行ってしまい、テラフドラ・T戦後の疲れも抱えた五人は追うことはできなかった。
石野谷は地団駄を踏みながら、
「クソッ、願い叶えた後のアレみたいに急に飛んでいきやがって……!」
松永は小さくなっていく鳥飼を睨み、
「……これは王都にしっかり報告しないとですね」
飯尾は軽く頭を抱えて、
「これはきっと海野も困るだろうな……あるいは『つまんない冗談言うな飯尾』とか言われるかな」
そして三好は飯尾へツッコむ。
「流石に海野さんもその辺わきまえると思うけどね」
「安心しとけ、俺たちも証人になってやるから」
「『示し合わせたんだろ?』とか詰められないといいですが……んなわけないか」
結局、飯尾たちは邪神珠を回収できなかったのだった。
*
数時間後、日がしっかりと昇った頃。
一年二組の五人は支度――邪結晶の運搬準備など――を整え、王都へと帰ろうとしていた。
その前に彼らは、自分たちを見送る村人一同へ顔を合わせることにした。
石野谷と飯尾は村人たちに尋ねる。
「本当に、この、今はほぼ焼け野原な村に残るんですか?」
「事情を話せば王都で匿って貰えると思うぞ? それでもいいのか?」
村人たちは素早く答える。
「ああ! いくらボロボロにされようとも故郷は故郷だからな!」
「死にものぐるいで働いて、すぐに元の田舎に戻してやるさ!」
「そっそ、だから心配しないで、みんな!」
「そっか、じゃあ頑張ってください!」
「ずっと応援しています」
という三好と松永の言葉へ、村人たちは威勢よく返事した。
そして、村人たちの中からネーナは数歩出て、向こう側にいる畠中へ近づいて、
「やっぱり、アンタは帰るんだね……王都に」
畠中は銀色に変わった前髪をいじりつつ、
「はい、ここでみんなと一緒に村を復興することもいいとは思いましたが、やはり、この大陸を根本から平和にするために……仲間を支えることにしました」
「肝心なバフは弱かったけどな」
「こらこら、冷めるようなこと言わないの松永さん」
「そっか、この戦いが終わったら、たまには顔を出しに来てくれたりする?」
邪神を倒した後、一年二組の面々はすぐに元の世界に帰ることになっている。
なので畠中は自然とこう答えることになる。
「……いいえ」
「そっか、アンタからはかれこれ長い間迷惑被ったけど、こうなると寂しくなるね……」
((((ここに来ても『お世話』でなく『迷惑』の方が出てくるんだ……))))
ネーナはさらに数歩進み、畠中を目前とする。
そして彼女は畠中の肩へ手を置き、優しく告げる。
「これからはしっかり成長するんだよ、畠中」
すると畠中は顔を真っ赤にしながら、ネーナから小走りで離れてしまった。
「おいおい畠中。ここは『はい』って言えば終わるとこなんだぞ」
「そうだぞ、せめてここだけでも堂々としてくれよ」
などなど、他の四人が畠中のコミュニケーションの下手さへツッコむ中、彼はネーナの畑があった場所へ行き、そこにバフをかける。
「【夜食国の願】」
そうして畑に眠る種を無理くり活性化させて、トウモロコシを五本ほど実らせた。
ネーナはすぐ尋ねる。
「……どうしたの畠中?」
「こ、これはですね……最後なんで、少しでもネーナさんの畑を明るくしてあげようと思って……」
「なるほどね。それはいいサプライズかも……」
「けど、タイミングが心地悪いですね」
すごいでしょう僕。と言いたげに、畠中は実ったトウモロコシを指さす。
それを見たネーナは一瞬、でかけたため息をかろうじてこらえてから、
「そうかい、わかったよ……最後までありがとね、畠中……」
どこか腑に落ちない風に言った。
「はい、僕からも色々とありがとございました!」
そして、畠中たち五人は、ミクセス王国・ファムニカ王国にお世話になったウェスミクス村を離れ、村人たちに見送られながら、清爽とした気持ちで王都へと帰っていった。
一行が声が届かなくなるほど離れた時、ネーナは自分の畑に行く。
「気持ちで受け取るものなのはわかってるんだけどさ……忘れちまったのかなアイツ、『魔法を使って育てた野菜はマズい』って」
そこについさっき、畠中が育てたトウモロコシをネーナはもぎ取り、なんとなく、畠中への義理を果たそうとそれを一かじりする。
「……え、あれ、これ、普通のトウモロコシよりもすごいおいしいような……?」
スキル【夜食国の願】で育てた野菜は、魔法で育てた野菜の法則から外れて、通常よりも美味しくなる。
その副効果があることを畠中は、まだ知らない。
*
一方その頃。王都への帰路につく五人は。
「ところで、本当にウェスミクス村にいなくてよかったのか?」
「今更だけど大丈夫かお前? 今残ってる敵は相当おっかないんだぞ?」
と、松永と飯尾は畠中へ問う。
畠中は首を横に振ってから、
「いいんです、松永さん、飯尾さん。僕はもう何でもかんでも逃げたりしないと決意しましたし、さっき言った通り、皆を支え抜くつもりですから」
「舐めてるわけじゃねーけど、別に無理して戦う必要はないんだぜ」
「そっそ、畠中さんが色々あって戦力として取り残されてるのはわかってるからさ」
という石野谷と三好の勧めに対しても、畠中は首を横に振って、
「いいんです。僕は一日でもみんなと元の世界に帰れるようにしたいので……なぜなら……」
「「「「なぜなら……????」」」」
「この世界、インターネットなくて退屈ですから」
この畠中の言葉へ、
「……そんなくだらない理由でですか?」
と、松永は即座にツッコんだ。
「「「確かにそうかもなー、スマホ使えないし」」」
「……あ、皆さんはそっち側でしたか」
【完】
話末解説
■登場人物
【畠中 新】
レベル:16
ジョブ:【祈祷師】
神寵:【ツクヨミ】
スキル:【夜食国の願】
一年二組の男子。
唯一の友達の槙島と同様、典型的な陰キャであり、人とのコミュニケーションが苦手。さらにとてつもない臆病で忍耐弱く、少しでも嫌なことがあるとすぐ逃げ出してしまう性格。
ただし今は村での生活を経て、多少なりと自信がつき、幾分か打たれ強くなった。
ジョブ【祈祷師】らしく回復・補助魔法を得意とするが、大きく成長した仲間へのサポートをするには明らかに技量が追いついていない。
神寵【ツクヨミ】に覚醒し、人や魔物だけでなく、技や物にまでバフを与えられる【夜食国の願】というスキルを使えるが、力不足な現状では、残念ながら『だからといってどうにもならない』。
Vtuber界隈に精通しており、二人以上誰かが同時刻にライブをすると、死ぬほどどちらへ行くか迷う。
ツクヨミ(月読命)とは、日本神話に登場する月の神。アマテラスの弟でありスサノオの兄。日本神話の主な出典元である『日本書紀』と『古事記』のどちらにおいても異様に伝承が少ない。




