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海の落とし者と釣り竿  作者: うにまる
第十九章 アスグレイヴ侯爵家訪問と魚との戦い

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第六節 釣るための工夫と釣り続けるという意味

 海岸航路を順調に航海するオランド号の船尾楼では釣りが難航していた。おおむね釣り糸は切られなくなったがたまに「ブチッ」と切られていた。


 リベルグの鍛冶工房で釣り針に棘を加工してもらった釣り針が消えていく。リドルとマルセリオとフィリクスとレイチェルは頭を抱えていた。


 その横では真似して頭を抱えているエグリアとエグリアの頭を撫でているレグルスがいた。羽根棒は未だにテーブルの上に放置されていた。


「そういえば風魔法大全には探知が書いてあるよね? 土木魔法大全には探知と地形探査があるでしょ? 水属性大全には探知と探査がないよね?」


 ルクレイからの疑問形の羅列にヴィオナは目を丸くして頷いた。


 二人は船首区画に移動して冷やした紅茶で雑談をしていた。釣りはレジン液の固化だけで子どもたちの悩む時間となっていた。


「実は水属性の探知はあることが分かったんだ。さっき試して周囲の魚とか探知する事が出来たんだよね。でね、探知があるなら探査もあるのかなって」


 ルクレイは新発見をスルッと流してその先の話を始めた。


「えっ?……またですか。レイは魔法局を過労で殲滅するつもりですか? 『散水』の発動言語を送ってそれほど日は経ってませんよ?」


 新発見を一応は拾ったヴィオナだったが揶揄る方に逸れた返しをした。


『またです……この二人は新発見を適当に扱い過ぎです』


 拾った振りをして揶揄るネタにしかしていないヴィオナをユミナはチラッと見て小さく首を振った。更に新発見を積み重ねそうな状況に頭が痛かった。


「思うんだけど風属性にも探査はあると思うの。本来は火属性にもね。正直なところ火は思い付かないんだけど風は『空域探査』か『空間探査』だと思う」


 ルクレイはユミナの気配の変化を気にせずにヴィオナに考えた事を話した。そして魔力ちゃんにお願いして発動してとお願いした。


「仕方ないですねぇ。レイに頼まれるのは嫌どころか嬉しいからやりますよ? 魔力ちゃん、レイが言うならあります。まずは……空域探査!」


 ヴィオナは張り切ったが空振り首をコテンと倒した。それを見ていたルクレイは『めっちゃ可愛い!』と見惚れるより凝視した。


「……ハズレですね。では次にいきますよ。……空間探査!――あっ! オランド号の甲板が分かりましたよ! 船尾楼にいる子たちも分かりました!」


 ヴィオナの表情がパッと輝き目がキラキラしてルクレイに抱きついた、


『やっぱり……そうくると思いました、揶揄り始めた時からヴィオナ様は狙ってましたよね? あの首を倒したのもあざとすぎます』


 予定調和のようなイチャイチャにユミナは目が細くなり視界を物理的に狭めた。そして一緒していたリアンはちょっと苦しそうに肩を震わせていた。


「ルクにぃ掛かった!……あっ! 切られた……」


 船尾楼から喜びの声と悲痛な声が届いた。ルクレイとヴィオナはクスッと笑い席を立って船尾楼に向かった。ユミナも立つとリアンも一緒についてきた。


「ルクにぃ、なんでたまに切れるの?」


 レイチェルがルクレイに尋ねた。


「ふふ、それは前の昼食の時にリクが気が付いてなかった? あの時にリクはなんて言ったか覚えてる?」


 ルクレイは楽しそうにフィリクスへ振った。


「えぇー……覚えてないよー」


 リベルグの記憶でいっぱいのフィリクスは覚えていなかった。ルクレイがチラリとレグルスに視線を投げた。それを受けたレグルスは肩を竦めて口真似をした。


「クラムのはそれ三個は口に入るよ?」


 レグルスの口真似が似ていてルクレイは「プッ」と吹き出した。代わりにフィリクスが「あーー」と声を上げて小さい餌でも大きいのが掛かると説明した。


「大きいのはいつでも掛かる可能性があるよね。そこで考えるとしたらどういう対策があるかな? 覚えてると思うけど手に負えない相手は危険だよ?」


 ルクレイは釣り糸の強化を意図的に封じた。


 ヴィオナを誘って船尾楼のテーブルにエスコートして席に誘導した。耳元で小さく「少し太めで」と頼みユミナに合図してレジン糸の生産を頼んだ。


 ルクレイは一度船尾楼を出て下甲板に向かった。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 ルクレイが船尾楼に戻ると双子たちはテーブルを囲み会議をしていた。それはどう対策するかというより何の対策が必要なのかという根本的な会議だった。


 ルクレイが船倉から持ち帰ったのは丸太の輪切りと何枚かの木材だった。テーブルの横に荷物を置き席に座るとメモを取り出した。


 ヴィオナが興味深そうに「何を作るの?」とルクレイに尋ねた。


「魚を釣り上げる道具かなぁ。この辺りにいるのが力の強いやつばっかりみたいだから大きな滑車みたいなのを歯車で回す? ただ強度がちょっと……」


「サップにしたように女神様にお願いしたら?」


 ルクレイの強度不足懸念をヴィオナはお祈りで切り抜ける提案をした。


「女神様にお祈りするのはいつも通りなんだけど……サップの時は三日掛かったでしょ? さすがに間に合わないかなぁ。でも帰りには使えるかもだね」


 お祈りで『頑丈』の付与が付けば確かに解決するが時間が気になった。


「んー、そうだ! 先に前に話していた祭壇を作りましょう。祭壇にお供え物してからお祈りするの。そうすれば女神様も気が付いて力を貸してくれるわ」


 ヴィオナは顎に指先を付けて考えてます風の仕草をした。そしてパッと笑顔になり祭壇を作る提案をニコニコしながらしてきた。


「それ良いね。気が付いてもらえなくてもお供え物ができるし女神様に喜んでもらえる。女神様が欲しい物が分からないけど作ってみよう」


 祭壇の提案を受けたルクレイは大きく頷きメモに祭壇の模式図を描き始めた。ヴィオナは真剣に図を書いているルクレイに見惚れていた。


「ヴィオ、レジン糸を作らないとですよ」


 ユミナがヴィオナに忘れているやる事を小さな声で指摘した。ヴィオナは「えっ?」と目を丸くしたが頼まれ事を思い出して()()()()()レジン糸を作り始めた。


 ルクレイはコツコツと模式図を描いていた。小さな声で「欄干はいる?」や「扉は両開きだよな」といった不穏な独り言を呟いていた。


 ヴィオナはレジン糸を作りながらルクレイを堪能していたが図を見て首を傾げた。ヴィオナが考えていた祭壇とかなり違っていた。


「祭壇って屋根ありましたっけ?」


 ヴィオナは小さく呟いたが真剣に描いているルクレイを見て『カッコ良い』と多少の疑問はどうでもいいとレジン糸を作りながらルクレイを眺めていた。


「よし! これで祭壇の設計は終わりだな。今あるのは生木だけだから乾燥させる? 乾燥はさせよう。そうするともう何枚か必要だな」


 ルクレイはすくっと席を立ち駆け足で船尾楼から下甲板に降りていき木材をまた数枚と乾燥魔道具を持って帰ってきた。そして木材を乾燥し始めた。


 レグルスは会議中ではあったがルクレイの行動に疑問を持った。結構な量の木材を持ち込み乾燥させ何かを作り始めていた。


『ルクにぃは思い立ったら即工作だよなー。それを止めずに迷走させるヴィオナ嬢がいるから見てて飽きない。それよりこっちをどうするかな……』


 レグルスはなんとなくルクレイが考えている着地点は想像できていた。ようは大物は捨てて手ごろな魚だけを相手にすれば良いのだろうと予想していた。


『現時点でその目標は達してる。大きければ釣り糸は切れる。さっき課題にした釣り上げるとこ? ここは全然分かんないんだよなー』


「煮詰まった感じかな?」


 レグルスが考えに耽っていたらルクレイが会議テーブルにやってきた。どうやら乾燥が終わって会議の存在を思い出したようだった。


「何の対策か分からなくなっちゃった」


 マルセリオがこんがらがった議論で進めたかった方向を完全に見失っていた。その事を素直にルクレイへ伝えた。


「ちょっと課題が雑だったね。重要な点は大きいのは僕でもギリギリ釣り上がるか? という感じの魚なゆだよね。つまりみんなではまず釣り上がらない」


 ルクレイは課題の説明をし直すことにした。


「釣りは魚と勝負というか戦争みたいなものでしょ。指揮官たるもの考えなければいけない事がある。基本的に戦い続ける方法と倒す方法になる」


 少し分かり難い言い回しでルクレイは話を続けた。


「さっきリオとリクに出した課題はこの中で答えを知ってるのは二人とリドルだけだからだよ。そっちは僕の方で工作してみるから釣り続ける方を考えて」


 ルクレイは釣り糸と釣り針がなければ魚と戦い続けることは不可能な点を伝えた。レジン粉があればルクレイとヴィオナで補給はできるが有限であると話した。


「今のままだと釣り糸はなくなる。それを遅らせて釣りを続けるためにどういった工夫をすれば良いのかを考えて。釣りは魚との戦いだよ」


 やはり分かり難い言い回しでルクレイは話を終わらせて工作に戻った。


『そっちの方なのか。つまりは継戦能力の維持って事だよな。それをこのメンバーに求めるの酷では? 僕に期待……違うな答えを出すのが目的ではない……』


 レグルスはルクレイの課題の出し方に違和感は覚えていた。


『軍事という話なら答えは簡単だ。損害を減らして継戦能力を維持し続けること。これは武門の人たちに色々と教えてもらったから僕は理解できる』


 レグルスは思考を深めた。レグルスはフォルセリア侯爵家の名だたる武人である騎士団長と戦術論議など多くの武門貴族と接点があった。


『ただルクにぃは僕の知り合いは知らないから僕に答えは求めていない……はず。求めてる学びはなに? 継戦能力という意味そのもの? 投げ込んでみる?』


 ルクレイが何を考えさせたいのかレグルスには考えつかなかった。ただ、継戦能力というか戦い続ける意味はレグルスでも言葉にできる自信はあった。


「ねえねえ、みんなは戦い続けるという意味の継戦能力というのを知ってる?」


 レグルスの問いに会話が止まりリドル以外は首を振った。レグルスはリドルに顔を向けてリドルなりに知っている意味を促した。


「僕のは少し意味合いは違うんだけど船を動かし続けるという『航続能力』になるのかな。そこから派生させると戦力の維持って考えたけど……どうかな?」


 リドルは続けるという言葉の連想で船が航海し続けられる事に繋いだ。


「それで問題ないよ。ルクにぃの考えている物は分からないから少し視点を変えて戦い続けるという事の意味に繋がりそうな話をしようと思うけどいいかな?」


 レグルスはリドルの答えに頷き自分が知っている戦い続ける意味というものを話そうと思った。そして全員が頷くのを見て話し始めた。


「話すのは二つの戦場の話だよ」


 レグルスがこの訪問団に参加して初めて自発的に話し始めた。


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