ルイスともう一人の僕と・・・
「時間葬送の無効化」
「!?」
薄れゆく意識の中で聞いた言葉は、全く聞いた事の無い魔法の名称だった。
だが名前だけで心の底からおぞましさを覚える。
そう、それはルイスとして漆黒の超越者という名前を聞いた時と似たような……。
「根源魔法?」
「!?」
思わずそう呟いた時、僕の意識は既に落ちていた。
零れ落ちる意識の中で最後に見た光景は、女性の姿をした―――
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「大丈夫ですか、ルイス様!!」
「起きましたかご主人!!」
目を覚ますと頭上に見えたのは満点の星空。
そしてシイナのふくよかな胸元と顔。そして涙目を浮かべるビヨンの―――
「なにやってるのビヨン?」
「ごしゅじんからもいってくださいよ!!!!!」
吊るされているビヨンの姿だった。
あと僕はシイナに膝枕されていた。
「いえすみません。
こちらのおタヌキ様が自分のせいでルイス様が気絶したと言ったので……つい」
「言葉通りに受け取らないでくださいよ!!
決まってそういう時って事情があってってやつじゃないですか!!」
「いや、犯人の自白なのかと思って。
ほら、罪を軽くする的な……出来ればひと思いにやって欲しい的な……」
「何一つ罪が軽くなってない!?」
「まぁ、二人が無事でよかったよ」
軽口を叩ける程度には二人に負傷という負傷が――――
そこで思い出す。気絶する前に起きた出来事について。
「ビヨン、さっきの敵は!!
ていうかどれぐらい眠っていたんだ!!」
「落ち着いてくださいルイスさま。
行きなり起き上がるのは身体に悪いですよ」
慌てて起き上がろうとするが、シイナに器用に身体を抑え込まれる。
主に胸とか、胸とか。
「安心してください、ご主人。
最後の敵はあの後すぐに撤退しました。
我々を狙ったというよりも……」
ビヨンは視線を奥に送った。
僕も頭だけを動かして視線のほうを向いた。
「なっ……」
それは異様な光景だった。
そこにあったのは骸骨の群れ……いや魔物のスケルトンという意味ではなく、文字通り白骨化した骨がいくつも存在していた。
それどころか骨の周囲には砂漠かと思う程に砂の山が形成されていた。
「時間葬送。
時間を操る魔法です」
「!?それって……」
風化した骨の正体が、もし対峙した誘拐犯たちだとしたら。
その地面に転がる砂が、かつてそこに生きていた人物たちだとしたら。
「うっ――――」
僕は再度立ち上がり、次の瞬間には跪いた。
胃が競り上がって来る。
その勢いで消化しきれなかった物質が喉奥まで迫ってくる。
吐くことはなかった。
だが喉奥に感じる苦い味と鼻孔の奥に感じる腐臭。
これこそが現実のものだと物語っている。
ゲームでは何度も敵を殺してきた。
ルイスの記憶でも、何度も狩りと称して野生動物を殺すことがあった。
そして今回だって相手は僕やセシリアを殺そうとした相手だった。何より僕自身は殺そうとなどしていない。むしろ――――
自分自身に言い聞かせる。
そうでもしなければ罪の意識に押しつぶされてしまいそうだった。
(大丈夫。これがこの世界での当たり前なのだから……)
この世界で感じる、初めての死の感触。
敵だったものの少しだけ心が渡った相手への死はどうにもなれそうにない。
(だが慣れないといけない―――)
僕は自分の犯したもう一つの罪を背負わなければならないのだから。
「落ち着きましたか?」
「うん、もう大丈夫。
それよりもうすぐ動かないといけないよね?」
「はい、既に憲兵の方々は呼んでおります。
もうじきこちらに来られるかと思います」
「わかった。それで彼は?」
「……はい。自室に待機しております」
既にシイナにはバレているのだろう。
僕がもう一人の自分を生み出したことを。
そして僕がこれからやろうとしていることを。
「大丈夫ですか?」
シイナは再度聞いた。
今度は覚悟を問いているのだろう。
「うん、もう大丈夫。
僕が蒔いた種だからね。
僕自身の手で刈り取るよ」
僕は今から僕自身を殺す。
自分の手で“僕”の命を終わらせる。
視線の先の骸骨をみて、決意を改めた。
「やぁお疲れ様。セシリアは無事に屋敷に帰って来たよ。
救出に向かったシイナが痕跡を追って小屋を発見。
誘拐犯同士が争っている隙をみてセシリアを奪還。
依頼者に口止めされたのか。はたまた第三勢力の存在が現れたのか、男たちは殺されてしまった……という筋書きにしておいたよ」
「流石は僕。完璧だ」
記憶も思考も共有されているのだから、僕が思いつくことはスワンプマンも思いつく。
彼の行動は僕が思い描いた通りの行動そのものだ。
ルイスは屋敷にずっといた。シイナも屋敷のメイドたちもスワンプマンを目撃したことでそう証言するだろう。
だから小屋での出来ごとを誰かに追及されることはない。
おおよそ全ては解決できたと言える。
「それじゃあこれで僕はお役御免だね。おつかれさん」
「―――」
そう終わらせなければならない。
僕自身が作りだしたスワンプマンを。
僕と同じ意思を持ち、思考能力を持ち、感情を持ち、生きている僕の分身を。
その存在を今から抹消しなければならない。
彼の存在は禁忌だ。この世界の倫理に大きく反している。
もしルイス=ストレイが二人いることを知られれば、僕もストレイ家の存亡すら危うくなる。
セシリアを危険にさらしてしまう。
そうでなくても彼の存在は僕の魔力器を大きく消費させている。
生み出したものの責任だ。僕が作りだしたのだから僕が壊す権利がある―――のだろうか?
「大丈夫、君は権利がある。僕自身が保証する。
君だって反対の立場ならそう思うだろう?」
当たり前のことだった。僕自身なのだから当然そう思うに決まっている。
大丈夫、殺すのではない。あくまで体内に取り込むだけ。切り落とされた腕が手術でくっつけるように、元あった場所に戻るだけ。
僕はもう一人の僕の手を取った。
「それでいい、僕は君を恨んでいない。生み出された理由はわかる。僕だってそうする。
自分の右手を痛めた時、右手に御免なさいと謝る必要はないんだから」
知っている。彼ならばそういうことも。
逆の立場ならそういうのだから。
そして本当は消えてしまうことを怖く思っていることも。僕は理解できる。
それでもカッコつけて必死に隠し笑顔を向けていることを知っている。
その貼り付けた笑顔を引っぺがす。
「君は―――何をしてるんだ、ルイス!!」
彼は慌てて僕の手を払い落そうとする。だがそれを両手で無理やりに抑え込む。
魔力はまだ僕の方が上だ。筋力も多少僕の方がある。だがそれも時間の問題だろう。
「どうして僕に魔力を送っているんだ!!」
血が抜けていく感覚がする。意識も朦朧とし始めた。
既に握られている手の感覚だって遠のいている。それでも無理に手を握る。
立っていることが出来ず、膝をつき、もう一人の僕へと寄りかかる。
「これが…僕の答えだよ」
「そんなはずない。僕はこんな選択を選ばない」
「僕はほんの少しだけ…君よりも成長したんだ」
わずかに笑ってもう一人の“僕”に手を重ねた。
九割の魔力器を手渡す。それこそが僕の決意と覚悟と―――贖罪だった。
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