セシリア奪還作戦③
はじめの攻撃はフードの男からだった。
ローブの下から生えた無数の触手が風を切る音と共に、弾丸のような速度で向かってくる。
「漆黒の超越者」
剣の生成。
それはシイナとの訓練で使い慣れた、ルイスが最も扱いに長けた西洋剣だった。
正面から一振り。
次いで攻撃を躱しつつ、黒い外套を翻して一振り。
静かな剣戟。
演武のように洗練されつつも、どこか演技めいた……決められた動きを当然の如く捌く。
「甘いですよ!!」
今度は左右からの同時攻撃。
手に持っていた剣を取り込み、今度はトンファーを作り上げた。
左右で重さも形も異なる、異形のトンファー。
左の軽い造りの物で左の触手を受け流す。
そして左右の触手が重なった所で右手に持つ重い造りのもので、両方をドスッと鈍い音を立てて撃ち落とした。
だが――――
「!?」
何かが割れる音と、同時に立ち上がる土の匂い。
そして床が隆起―――刹那、大蛇が床を突き破り巨大な口を迫りくる。
(あえて声を上げ本命から意識を逸らすフェイクか。嫌いじゃない)
生死の境界に立ちながら、それでもふふっと笑みが零れてしまう。
この光景と抱いた気持ちを一生忘れまいと心に刻み付けた。
「1次試験は合格だ」
「!?」
打ち上げられ今にも大蛇の口が迫る刹那、言い放った。
「これより2次試験を始める。
漆黒の超越者」
作り出したのは小さな花の種3粒。
それを下から迫りくる大蛇の口の中に放る。
その程度……と相手は思っているかもしれない。
だが―――
「!?」
大蛇は舌根から裂けるような形で引き裂かれた。
僕は突然生えてきた木々に足着地し、見下しながらローブの男を見た。
「樹木の種の成長速度を先鋭化して、私の触手を引き裂いた……ということですか?
ですがこれほどの急速成長など……」
「あくまで真似事だがな。
宮廷魔術師ならこれぐらいやって当然だろう」
漆黒の超越者」を持つ僕は、一般魔術を扱うことは出来ない。だから真似事。
だがこれぐらいのことは“宮廷魔術師”なればやって当然だ。
「それで秘策はこの程度か?」
「くっ―――」
男は今度は更に速く、触手を弾丸のように放つ。
今度は僕も似たように枝を伸ばし迎撃する。
が、枝が触手に当たった瞬間、枝は発火した。
「忘れていたかもしれませんが、私は触手しか使えないわけではありません」
「そうだろうな。だがそれがどうした。
もっと宮廷魔術師並みの力を見せてみろ」
「……そうですね。貴方相手に出し惜しみをしても仕方ありません」
ローブの男は一度触手を全て引っ込めると、今度は5本程の触手だけ自身の周りに展開させた。
触手は至ってシンプルな形。
だが包み込む形でいくつかの道具を抱えていた。
(ほう、面白い……)
男は両腕をこちらに向けた。
その瞬間、ブワッと熱気がこちらまで届いた。
「火の熱さを先鋭化。風に指向性を先鋭化。」
火炎放射器のような鋭く熱い炎が噴き上がる。
離れた距離からでも肌が焼け、肺が熱気にやられ息苦しい。
木製の足場は一瞬で焼け焦げ、黒煙を巻き上げた。
延焼を避け、作り出した木から避けるような形で床に降り立った。
だが―――
「!?」
「水に動きづらさを先鋭化……言い忘れておりましたね」
ニヤリと笑う男。
―――それが男の狙いだった。
いつの間にか床にまかれていた水。
それはピタリと靴に張り付いて身動きを封じた。
「炎に焦がすほどの熱さを――」足元の空気が熱で揺らぎ始める。
「嵐に吹き飛ぶ程の指向性を――」吹き抜ける風が一点へと吸い寄せられる。
「木に燃え上がる程の火力を――」木造の床が一瞬で乾き、火が這い上がる。
それは三重奏だった。
バチバチと爆ぜる炎。
うねる空気と鳴り響く風が炎を導く。
二つを支え低く唸る水の音は鎖のように足を縛る。
――――死の三重奏が僕の目の前で奏でられた。
「先鋭化する!!」轟と、男の叫びにこだまするように、世界が灼熱に包まれた。
ただでさえ逃げ場がない。
それに加えて足を取られて動くことすらままならない。
一巻の終わり―――。
チラリと奥を見た。
(なるほど……)
小屋が吹き飛んだ。
「――――やりましたか!?」
「知らないのか、その言葉はやっていないフラグだって。
……この世界の住人が知るはずないか」
「!?」
炎と黒煙がまだ残る中、僕は当たり前のようにローブの男の後ろに立っていた。
男は慌てて翻り、距離を取る―――が足がもつれ、そのまま慌てて尻もちをついた。
「どうして、どうやって!!」
「そんなこと、俺が魔王だからの一言で終わりだが……あえて言うなら、あの大蛇の穴が呼んでくれた」
「呼んだ……?」
「業火が牙を剥いた刹那、地を縛る水鎖は蒸散し、我が身を束ねる枷は闇へと溶け落ちた。あとはただ、深淵に身を委ね、闇の呼吸と共にお前の背へ立った――それだけだ」
「つまり炎のせいで水が蒸発して、大蛇が空けた大穴から私の足元へってことですか」
「説明するな、かっこ悪いだろ!!」
コホンっと一つ咳払いをして、男へと向き直る。
「何よりお前自身もまさか勝てるとは思ってなかろう」
「……そうですね」
だからこそなのだろう。
男の5本の触手。そのうち4つは僕に対して使われていた。
だがうち1本だけは、自分自身。そして“仲間たち”を守る為に使われていた。
「合格だ」
「!?」
「5本の触手による5個同時の魔法の展開。
それをやってのける魔術師は、宮廷魔術師ですらまずいないだろう。
そして練度。5つのこと、更には戦局を見定める頭脳。それを同時にやってのけるのは努力の賜物だと言える」
「あっ、ありがとうございます……?」
「そして仲間を思う心。それこそが大切だ。
仕事上、仲間を見捨てることだってあるだろう。
だがそれは“見捨てて当然”というわけではない。
策を講じ、出来る限り善処を尽くし、それでもダメで初めて行う選択肢だ。
何より貴様のやったことは、王の為に自分をも犠牲にする覚悟のある行動ととれる」
その証拠に仲間が無傷なのに対し、男のローブは焼け焦がれている。
男は最小限の魔力だけ自分に回し、他を仲間に回したのだろう。
「故に合格だ。
貴様ならば宮廷魔術師になれたことを、魔王の名に誓ってやる」
「ありがとうございます」
命を懸けた戦闘中であるにも関わらず、男は深々と頭を下げた。
「では貴様の望み通り、ここから私の全力を見せてやる。
次元と次元を超えた、究極の魔術の神髄をお見せしましょう」
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