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セシリア奪還戦①

僕とシイナは、誘拐犯がいるという小屋の前にまでたどり着いていた。


道中何人かの盗賊を見つけたがシイナが忍者のように暗殺(気絶)してくれた。

やっぱりサムライじゃなくて忍者だよ。いやそもそもメイドだった。


僕とシイナはゲーム内で来ていた魔王軍衣装(生成魔法による出力)を纏っていた。

夜に紛れる漆黒のコート。僕はフードとマントが、シイナには赤い色のマフラーを付けている。

更には付与魔法(エンチャント)による認識阻害の効果もついている。

これで姿を見られたとしても、曖昧にしか姿を思い出すことが出来ない。


「小屋の前まで来ましたが、ルイス様、ここからどうしましょうか?

 合図と共に突撃でも良いのですが……」

「それだとセシリアの身柄が心配だよね」


一手でも間違えればセシリアが人質に取られたり……。

下手すれば相手が自棄になりセシリア諸共――――なんてことになれば最悪だ。


「ここは任せて欲しい。僕に考えがあるんだ」


そういうと小屋へ手を向け、深呼吸をする。

初めての実践。だけど大丈夫。

イメージ通りにやれば、きっと出来るはずだ。


「漆黒に染め上げろ。漆黒の超越者ビヨンド・ザ・ダークネス


瞬間、小屋を中心にドーム状の闇が展開されていく。

蝋燭に灯された火は消えることすら忘れ光源としての機能を失う。

烏合の衆の喧噪は空気を揺らすことなく留まり続ける。


「今のは?」

漆黒の超越者ビヨンド・ザ・ダークネスによる、闇の展開。

 中に居るものの五感を奪うフィールドを展開したんだ」

「そんなことまで出来るんですか……。

 一体こんな魔法をいつ、どうやって……」

「詳しい話はまた後で。

 それよりも今は―――」


ルイスとシイナは小屋の扉を開け、当たり前のように立ち入る。

周囲には異常に気付いた盗賊が床に伏して悶えている。

視覚聴覚、更に嗅覚や触覚、気づいていないだけで味覚すら失っている空間。

平行感覚すら失った世界で立ち上がられる人間など居ない。

更に触覚を失ったことで、自分が今倒れていることにすら気づけていないのだ。


「念のために無力化しておきますね」

「うん、あっ……うん」


バッタバッタと床に伏してじたばたしている男たちに、シイナは刃先を当てていく。

瞬間、男たちは動かなくなる。

気絶の付与魔法(エンチャント)が利いているからなのだが……無表情で突き刺す絵面がとても怖い。


シイナは身内以外にはどこか冷たい。

いや、セシリアを攫った犯人相手なのだから、容赦は無くてもいいのだろうけど……。

その適用範囲が世界そのものに変わったのが、殺戮者として活動していたシイナということなのだろうか?


中央まで来ただろうか。

2人の男。さっきまで倒れていた男たちとは少し雰囲気が違う。


一人はクマのような大柄な男。

無精ひげを生やし、山賊って雰囲気を感じさせるそんな男。


そしてもう一人はフードを被って顔の見えない男。

雰囲気や手に掴んでいるワンドから魔術師だと考えられた。


そして更に奥には―――


「セシリア……」


長い銀髪の少女が手足を縛られて椅子に座らされていた。

その姿は間違えなく最愛の――――


「ルイス様!!」


キッ―――ンっと甲高い音が響き渡る。

瞬間、目の前には大男のナイフとシイナの刀が僕の目の前で交差していた。


「僥倖ですよ、お頭さん」

「何がだ、旦那」

「貴方が水を浄化するようにしてくれたおかげで、倒れた拍子に身体にかかり無効化できました」

「そういうことだったのか」

「……気づいていませんでしたか」


男たちは飛び上がり、そして1歩後ろへと下がる。

その際にセシリアを持ち上げた。

不覚だった。


「それでお前たちは何者だ。

 この娘を取り返しにきた、関係者か?

 それとも払うお金が惜しくなって殺しに来た依頼主か?

 見た目的には後者だが」


現在僕とシイナは黒いフードに仮面をつけている。

どっからどう見ても怪しい組織の人間にしか見えないだろう。


「面白いことを聞く。

 前者でも後者でもいいじゃないか。

 どのみちお前たちを殺し、その娘を取り返す。」

「そりゃ確かに。

 だが冥途の土産に聞かせてくれないか?」

「くくくっ……いいだろう」


僕はマントを翻し、高らかに言いのけた。


「我こそは漆黒の超越者ビヨンド・ザ・ダークネス

 混沌を愛し、漆黒を超え、深淵の具現者。

 またの名を――――魔王!」

『魔王だと―――』


僕の口上に二人は驚き慄いていた。

いいぞ、この反応を待っていた。


「魔王だと?頭湧いてんのか?」

「大層な力を持っているものの―――どうやら脳をやられているようだ。

 いや魔術の深淵に近づくにはやはりイカれてなければならないということなのか?」

「お前らを殺す」

「なんか知らねーけど、お相手さん怒っているぞ」

「すまない、イカた相手との会話術を持ち合わせていないんだ。許して欲しい」

「お前はお前で火に油を――――」


瞬間――――


キ―――ンっと二たび鳴り響く甲高い金属音。


「おまえ……一体どこから……」


大男は“シイナ”の攻撃を咄嗟にコテで防いだ。

火花が散って、仄かにシイナの身体が見える。


漆黒の超越者ビヨンド・ザ・ダークネスによる透明化の付与魔法(エンチャント)

正確には色味の変更を用いた光学迷彩と言ったところだろうか。

シャイニングの色味をダークネスにする技術をいかんなく発揮させられた。


しかし不可視の攻撃を経験則なのか、それとも野生の勘だろうか。

一度は完全に防ぐことが出来るとは、この大男もかなりの手練れなのだろう。

だが―――相手が悪かった。


大男は咄嗟にセシリアを投げ飛ばした。

シイナにセシリアを受け取らせ、その隙に反撃に出るためだろうか。

または壁にしつつ二人ともを同時に突き刺す為だろうか。


だがどちらにしても、既に終わっている。


「私はそこにはいませんよ」

「!?」


一瞬で相手の背後に周り込んでいたシイナが間髪入れず、男の首筋に一太刀を浴びせる。

それすらも防ごうと抵抗するが―――シイナの滑らせるような太刀筋には僅かな抵抗すら無意味になった。


その間に投げ飛ばされたセシリアは宙を舞い―――すかさずシイナが優しく受け止めた。

その手にはいつの間にか刀が納められていた。


男も負けずと体勢を立て直すが―――


「既に終わっています」

「なっ―――」


男は刀に触れた。それだけでゲームオーバーなのだ。

透明化+触れたら即死+シイナという強敵。

あまりの理不尽クソゲーに実力者ですら成す術はない。


それこそがシイナという存在の恐ろしさなのだ。


だが―――

あまりにも最適化されたその身のこなしにどうしても思い出してしまう。


戦闘機械。

殺戮の人形。


……それでも今はセシリアを愛おしそうに抱き寄せる。

誰よりも人間らしいその仕草が、本物であることを、僕は信じたい。


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