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禁忌の生成《スワンプマン》

漆黒の超越者ビヨンド・ザ・ダークネス!!

 禁忌に触れようとも、俺はセシリアを助け出す」


僕の宣言と共に、目の前には人影が現れる。

背丈から見た目まで、ルイス=ストレイと瓜二つの存在。

もっと言えば性格や記憶、臓器まで全く人間と同じように動いている、そんな存在だ。


唯一の違いは魔力とそれを支える器の違いのみ。

僕自身の―――それは魂の複写といっても差し支えない存在だった。


「ご主人…これは…流石に…」


ビヨンは表情を引きつらせた。

まさか自身の魔法をこんな使われ方をするとは考えてもみなかったのだろう。

いや、考えたうえで普通の人ならば自重し、すぐに選択肢から外すのだろう。


僕だって“これ”がどういうことか知っていた。

だけどそれでもやるしかないと“僕も”わかっていた。


人体の生成。

僕は僕自身を、ルイス=ストレイを魔法で作りだした。


セシリアを助ける為ならば、倫理も禁忌も超えて見せる。

そう決めたのだから。


「……君ならもう、理解しているんだよね。僕の考えを」

「あぁ、当然だ。だってお前は“俺”だからな」


自分自身と全く同じ記憶と価値観を持った人間。

ならば生み出した時点で僕がやろうとしていることも当然わかっていた。


僕と同じ価値基準を持っているのだからセシリアの痕跡も僕と同じ認識で判断することが出来る。

痕跡の定義だとか、追跡方法だとか。

全てを度外視し僕の価値感覚で痕跡を把握することが出来る。


もっと他にやり方があったとは思う。

それでも今の僕にとってこれが最善だった。


ゲームの中ではセシリアを助けることの出来なかった。

その結果ルイス=ストレイは闇落ちし、世界を敵に回した。


だが今度はセシリアを守る為に、この原作(せかい)を破壊する。


「“今度こそ”絶対に助けるぞ」

「もちろんだ」


僕らの掛け声にビヨンは小首を傾げたが敢えて無視をする。

今はセシリアを助ける為に目の前の映像に集中した。


目まぐるしく動き回る画面、だがその数は半分となっていた。

いや、それどころか―――。


「もう少しこちらに情報を回してくれてもいい。

 お前はこの後もやることがあるんだろう?」

「……そうだね」


もう一人の僕に更に半分程の画面を渡した。

僕は従来の4分の1の情報量で済むようになった。


2人とは言え人海戦術。人手の多さが2倍となった恩恵は計り知れなかった。


「けど大丈夫?疲れるでしょう?」

「創った側が心配すんなよ。俺はお前の理想だろ?

 お前と俺の望の為に、限界だって超えてやる」

「頼もしい限りだな、僕の理想は」


それはまさしく僕が理想としていたルイス=ストレイそのものだった。

普段はおちゃらけて、本気の時はどこまでもクールでカッコイイ、そんなルイス。


何故か同一の存在であるはずなのに、僕よりもルイスに詳しくて少しだけ嫉妬した。


「それに俺は魔力体で漆黒の超越者ビヨンド・ザ・ダークネスも使える。

 付与魔法エンチャントを自身の身体に直接使うことが出来るんだ」


同一人物とは言っても、彼自身は僕の作った生成(クリエイト)で作られた存在。

通常付与魔法(エンチャント)のみの使用は出来ないが……なるほど、そういう使い方が出来るのか。


「何より自分の身体である分、同じく生成(クリエイト)された眷属の動きもわかりやすい。

 対してお前はこの後戦闘が控えてるかもしれない、そうだろう?」

「そう、それならお任せするよ。」


流石の連携速度。

ただどうにももう一人の自分自身という割には自立している感が否めない。


それも当然か。

ただの人間とは違い、生まれた理由を知っており、終わる瞬間すら自覚出来ているのだから―――。


そんなことを余裕の生まれた思考で考えていると―――


「見つけた……」


僕は約25分割された画面の中から2つをピックアップした。


襲撃場所から20㎞離れたストレイ家が所有する山林の中。

街道から大きく外れた木こり小屋の中。


本来はストレイ家お抱えの職人が作業する際に使うのだが、見慣れない人間が5~6人いた。


「少ないな……」


僕の隣で同じ視界を共有したもう一人の僕がそう呟いた。

僕も同意見だった。


まさか遭難して訪れた……とはとても思えない容姿をしていた。

見るからに山賊風の男たち。それは遭難したわけではない。

だが同時に山賊風情がセシリアの護衛たちを殺せるとはとても思えない。


決定打にも欠けている。

決め打ちしてしまって、全く関係の無い人だったら、セシリアを助け出すことが出来なくなってしまう。


「中に入ろう……」


僕はネズミを動かし空いた隙間から小屋へと侵入した。

中にも人がいた。足元からで人数を数えることが難しいものの、20足以上。つまりは10人の人間はいるようだ。


「これは―――」


隅を伝うようにネズミを歩かせると、銀色の髪の毛が落ちていた。

この髪の毛はまさしく―――


「お前は誰だ!?」

「!??」


声がした。瞬間、視界が途切れた。

殺されたのだ。召喚した眷属を。


動物を殺すのに躊躇が無い。

そして殺したのは剣などの物理攻撃ではない。

魔術……それも小動物程度であれば一撃で殺せるほどの力を持っている。


「決まりだ。

 あいつらがセシリアを誘拐した犯人だ」

「付近の眷属を除いて、残りを回収。

 シイナとは現場で落ち合うことで話をしよう」

「もうやっている」


流石の以心伝心具合だった。

思考が同じというのはこういう時にとても便利だと思う。


「……あとはお願いね」

「あぁ、任せておけ。上手くやっておくよ」


もう一人の僕にはいくつかの役目があった。


一つは外部からの支援。

交戦中、敵が逃亡した場合の追跡や、最悪の場合に備え王都へ援軍を呼んでもらう。


次に屋敷の中でアリバイを作ってもらうこと。

漆黒の超越者ビヨンド・ザ・ダークネスの発動や交戦時、ルイスが屋敷の中にいたことを周囲に印象付ける必要がある。


そして最後にもう一つ……。


「もし僕が死んだ時は――――」

「……お前が死んだから、俺がルイス=ストレイ役を引き継ぐ。違うか?」

「あぁ、そうだ。

 僕の死が、君がルイス=ストレイとして“転生”する条件だ」

「悪くない。思わず死んで欲しいと願いたくなるぐらいにはな」


笑えない冗談だが思わず笑ってしまうような洒落だった。

それぞれが自分の役割と代償を理解していた。


初めての実践。

相手が手練れの魔術師であることがわかった。

相手はこちらが偵察を仕掛けたことを知った。

きっと今すぐ迎えば、反撃にあうことだろう。


命の危険だって当然ある。

シイナに危険を及ぼすことだって。


だけど―――


「……おかしいな。

 こっちに来て今が一番わくわくしているかも」

「そりゃそうだ。

 今が一番、ゲーム内のルイス=ストレイ役として暗躍しているんだからさ」


そうだ、そうだった。

ここがゲーム開始よりも前の世界で、原作の流れも崩壊していて、慌ただしくしていたせいですっかり忘れていた。


僕の憧れたルイス=ストレイは友を欺き、世界を欺き、暗躍していた大悪党だ。

目的の為なら手段を選ばない。

それは世界への被害だけでなく、仲間や自分の被害すらもだ。


そんな冷徹で大悪党な―――彼に僕は憧れたのだ。


当初の目的を思い出す。

そうだ、僕はカッコ良く死ぬ為に、今回の生は生きると決めたのだ。


だからこそ――――僕は僕の人生を使って、この一幕を演じ切るつもりだった。


「さぁ―――舞台は整った。

 開幕だ、漆黒の超越者ビヨンド・ザ・ダークネス


死に際も最大限楽しみたいと思ったのだった。



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