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フォーチュン・ライト  作者: おじさま
第二章 愛を伝えよ、白銀の獣龍 〜辿り追う者の意志〜
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第四十三話 愛の暴走を止めるために

「サイト君、大丈夫かな? ランスさんって人と一緒に行動するって言ってたけど……変な事に巻き込まれてないか、心配」

「大丈夫大丈夫! ランスは信用できる奴だしな。俺らは俺らで、今回やるべき事をしっかりと聞いて作戦に備えようぜ?」


 サイトがランスとゲルダの二人と行動している、その時に。

 ソウジとアリスはラヴィーネで行う作戦の会議に参加する為に、ギルド『凍える龍の理想郷アルゲオドラコ・アルカディア』の廊下を進んでいた。

 会議室へと向かっている道すがらの会話は、サイトの事。

 彼を心配するアリスと、そんな彼女を安心させる為に、ソウジは背中を尻尾でポンポンと優しく叩いている状況だ。

 そのまま彼はあっけからんとした様子で、アリスに言葉をかける。


「心配いらねぇよ。アイツ(サイト)が強いのは、アリスだって知ってるだろ? 信頼、しようぜ?」

「っ。そう、だね。信じなきゃ、だよね。それに……いざとなったら、私達がいるんだもんね!」

「あぁ、そうだ。だから、そんなに不安にならなくても大丈夫ってなもんだぜ!」


 信じる、と心に決めたから。

 だからこそ、今は目の前の問題に取り組もうとする二人。

 

 そうして、彼女達は会議室手前の扉の前に辿り着き、そのまま中へと入っていった。


 すると。


「おや。来たね、アストラの勇者達。あたしはフロスティア、このギルドのギルド長さ。どうぞよろしくね。もう一人のメンバーについては、事情をグラディスから聞いてるよ。その子には後であんたたちから、事情を説明してくれなね」


 出迎えてくれたのは、龍族(ドラコノス)の女性。

 包容力のある優しげな声色。

 椅子に座っていてかつテーブルに遮られている影響か上半身しか見えていないが、その上半身だけでも分かる程に逞しい体つきをしており、鍛えられているのが分かる。

 鱗は水色で、瞳は緑。

 そんな彼女の話した内容を聞いたソウジとアリスは、頭を下げながら部屋へと入っていく。


「いえいえ! こっちこそ申し訳ねぇですよ。後でちゃんと、サイトには説明しときます」

「……ソウジって、荒っぽく見えて結構物腰柔らかだよね」

「ん、まぁ元々住んでた実家が実家だからなぁ……とっ、そんな事より早く席に座ろうぜ」


 こそこそと、ソウジに中々失礼な事を話すアリス。

 そんなアリスの頭にポンと手を置いたソウジは、そのまま促された長椅子へと座る。

 アリスもそれに倣って、ソウジの隣にいそいそと座っていった。

 そして、アリスは自分たち以外にもいる別の人々を観察する。


 銀髪を後ろに纏めたポニーテールで、無精髭が目立つ黒の隊服を身に纏った人族(ヒューマノス)の男性。

 先程ギルドに訪れた際、サイトの事情を説明して色々と動いてくれたグラディスという名の彼はフロスティアの近くで立っている。

 見つめていると、グラディス側からニコリと笑みを返され手を振られた。

 そんな様子を見てどこか緊張が緩んだアリスは、微笑んで手を振り返す。

 そうして一つ息を吐いた所で、彼女は次に机を挟んだ前にいる、長椅子に座る二人の人物に目をやった。


 一人は、エルフ族(ナチュラノス)であろうか。

 長い耳に鮮やかな翡翠色のバーイヤリングを付けており、暗い仄みのある緑の癖っ毛な髪に柔らかい黄緑の目を持つ人物。

 服装は黒を基調とした、柔らかな青の差し色が入ったローブを纏っていて、下には黒のブーツを履き、その足先は尖っている。

 表情を見ていると、頭の固そうな雰囲気が伺い知れた。

 何故ならば、常時眉間にシワが寄った仏頂面だから。

 男性か女性かで言えば、男性寄りな顔立ち。

 そんなエルフ族の人物を見ていると、隣にいた別の人物がそのエルフ族に何やら話しかける様子が見て取れた。


()()()()、さっきの店の宝石凄かったよなぁ! キラキラ輝いて、でも下品な輝きじゃない、正しく芸術品と称してもいい宝石! いやー、こりゃまた良い情報を持ち帰れそうだなぁ!」

 

 それは、もう一人の人物。

 獣族(ベスティアノス)の、鳥種。もっと詳しく言えば、隼の種族。

 体つきは人に近しいが獣のそれで、逞しい。羽毛が生えて尾羽もあり、翼も立派。

 そんな翼とは別にある腕は人族に近いもので、手はそれこそ鳥のような鋭い爪を有したものではあるが、そんな指を器用に動かしている。

 黒色のチュニックに緑の挿し色が入った上着、下には黒色のサルエルのズボンを履いており。

 また、フード付きの翠色のマントを羽織っている。

 体毛の色は白であり、目の色は濃く煌めいた翠色。

 嘴や趾は黄色で、立派な形をしている。

 そんな獣族の恐らく成人なその人物は、軽い調子である口調と男性らしい低めな声で、口を真一文字に結んだままのエルフ族にずっと話し続けていた。


「さっすがラヴィーネって感じ! 屈指の鉱脈から掘り当てられた鉱石を美しく加工させるその技術は随一! こーんなすげぇ所に今まで取材に来てなかったなんて、勿体ないってなもんだなぁ!」


 テンションが上がったまま話し続ける隼種の男性に、エーテルと呼ばれたエルフ族はそんな彼に向かってピシャリと一言。


()()()()()、うるさい。今すべき話じゃないし、静かにして」


 それを受けたコルヴァスと呼ばれた隼種の男性は、しかしてその言葉に屈することなく喋り続けていく。 

 

「すまん、エーテル。でもでもよ? 宝石でなくても、ラヴィーネ(ここ)って景色もすんげぇ綺麗だって思わねぇ? 白で染め上げられた一面の雪景色! 見てるだけで心が洗われるようなそんな感覚! あー、もう一回見に行きてぇなぁー!」

「……はぁ。君ってほんっとうに人の話を聞かないよね? 好きに喋ってていいよ、僕は適当に聞き流すから」

「おっ、そうか? ならよー、さっきここを出てちょっと進んだ先にあるパン屋があったんだけど、そこの細長いパンが美味そうだったんだよなぁ〜! この会議終わったら行こうぜ! そういう情報ももしかしたら必要になるかもだしさぁ!」


 喋り続けるコルヴァスに、エーテルは呆れたような、けれどどこか満更でも無さそうな表情を見せてつっけんどんな返答をする。

 そして、それに対してコルヴァスは素直に受け取って会話を続けていった。

 そんな光景が、ずっと目の前で繰り広げられている。

 アリスはその光景に、どこか微笑ましさを感じた。

 仲が悪いのかと思ったら、どうもそういうわけではなさそうで。

 寧ろ、こういう距離感がお互いに丁度良いとさえ感じているような気さえしてくる。

 気の置けない間柄、気兼ねなく話せる親友。

 そうした関係性を、アリスは尊く、そして素敵だと思う。 

 

 そんな彼らの姿を暫く眺めていたら、ふとエーテルがアリスを見つめ返してきた。

 ビクッとするアリス。

 何か言われるのかと身構えるも、すぐにエーテルは視線を逸らした為に、特に何も言われることはなかった。

 アリスはそんなエーテルに首を傾げるが、その疑問を考える前に手を打ち鳴らした音が部屋に響き渡る。

 鳴らしたのはフロスティア。

 その音に注目するアリスやソウジ、エーテルにコルヴァス。

 何となく察せるものがあった。

 今から会議が始まる、と。

  

「さて、まずはこの場の人達に感謝を。遠くから来てくれた事、心より感謝するわ。そして、早速本題を話すけど……我がギルド『凍える龍の理想郷アルゲオドラコ・アルカディア』が調査している、市場に出回っている()について。グラディス、頼むよ」

「了解。さて、まずあんた達も名前を聞いたことはあるだろうが……この薬の名はアモール。現物はこんな感じで、凝った意匠の小さな空き瓶にピンク色の液体が入っている。見かけても飲むなよ?」


 グラディスは自身の胸ポケットから取り出した小瓶を手に取り、その様に説明をする。

 薬に注目する彼女達を見渡した後、グラディスは更に説明を続けていく。


「この薬が出回ったのは、三ヶ月程前辺りからだ。恋愛が必ず成就する、という触れ込みで最初は売られていてな。その内この薬は、どんな嫌なことも忘れさせてくれる物としてこぞって買う奴が増えちまった」

「そんな危ない薬……どうして皆、買っちゃうのかな」

「原因は色々ある。災厄による恐怖で日々怯え続ける精神的負担、そこに重なった人間関係の縺れ。薬を服用した奴からの証言に、そんなものがあった」


 暗い影をその顔に落としながら、グラディスは説明を続けて行う。

 

「んで、何でこの薬が市場に出回っちゃいけねぇのかについてだが……理由は明白だ。人の精神、とりわけ愛情を暴走させる効能がある事を確認している。その影響で、ここラヴィーネでは路地裏に溜まってぶつくさと愛を囁く奴や、誰彼構わず見境無しに人に襲い掛かる奴も現れてるんだ。他の国とかでも、何件かこの問題が報告されている」


 そこで一度話を区切り、グラディスは苦虫を噛み潰したような表情をする。

 そのまま彼は、こんな情報を出した。


「俺ら『凍える龍の理想郷』は王族の人達と協力して何度か薬の出品を止めさせようとしたが……どれだけ止めさせても、また別の店で薬の売買が再開されていてな。店を差し押さえようとしても、いつの間にか店も責任者も行方を眩ますもんだから、後手後手になっちまって。おまけに、製造元と思われる場所へ向かったギルド員も、そのまま行方が分からなくなってしまっているんだ」


 話された内容に、アリスは思い当たる節があった。道端にいた浮浪者達も、その薬の被害者なのだろうか。

 それに、製造元へと向かったギルド員の消息不明。話を聞いている他の者も、悩ましげに顔を変化させている。


「そして、ここからが作戦の概要だ。薬の出処である、『魂命の洞窟』という場所に向かってほしい。目的地は地図を渡すから、目を通してくれ」


 一通りの説明が済み、グラディスはざらつき色褪せた紙を面々に手渡していく。

 その地図には、確かに目的地を記すバツ印が付けられていた。

 地図を見る中で、エーテルが仏頂面のまま手を挙げる。


「ここでやるべき事は、具体的に何?」

「そこに関しては、私から言うよ。もし薬が製造されていて、尚且つ製造者達が反抗してきたら……その時は死なない程度に止めてあげて欲しい。罪を後で償わせなきゃならないからね」

「なるほど。まっ、どうなるかは分からないけど……僕は荒事が苦手だし、そこら辺は他の人に任せるかな」


 そう言う彼に、アリスは疑問符を浮かべた。

 荒事が苦手、とはどういう事なのか。

 勇者であるのならば、どの人物でも魔獣と戦える力は持ち合わせているのではないか、と。

 気になった所で、ソウジがこっそりとアリスに耳打ちをしていく。


「アリス。お前多分、荒事が苦手の部分に反応してるだろ? 一応説明しとくが……サイトや俺みたいに戦う勇者もいれば、後方支援に徹する勇者もいるんだぜ? 例を挙げるなら、ウチのギルドの医療班とかはそうだろ? 怪我を治す事に特化してて、戦闘に関しちゃあんまし得意じゃないっつー感じだ」

「あっ、そっか。勇者って、戦うことが大得意って印象があったから……そうだよね。そういう事も、あるよね」

「そうそう。だからまぁ、そういう役割があるって事も覚えておくといい」


 ソウジの説明に、アリスは納得して頷く。

 そんな微笑ましい二人に対し、フロスティアは優しげな視線を送り――――そのまま話の締め括りをしていった。


「まぁとにかく、作戦としてはこう。洞窟にて作られている薬の製造を停止させ、薬の売買も取り締まる。それが、今回実行する作戦だ。行う日時は三日後。その時のメンバーはその日に追って報せるから、そのつもりで頼むよ。んじゃあ、そろそろ解散かね。作戦開始までの三日間、身体を休めて英気を養っておくれ」


 フロスティアが作戦を説明していき、そのまま彼女は会議を終了させていく。

 各々が立ち上がって部屋から退出していく中で、アリスはフロスティアに引き留められた。


「あぁ、アリス。あんたには少しだけ話したいことがあるから、ちょっと残っててね」

「えっ? あっ、はい、分かりました」


 ソウジがチラリとアリスに視線を向ける。

 その目はどこか心配そうに彼女を見つめていたが、アリスはそんなソウジに対して顔を向けると、口パクで「だいじょうぶ」と伝えていく。

 そんな彼女にソウジはニッと笑い返すと、そのまま部屋から退出していった。

 そうして、部屋に残ったのはフロスティアとアリスの二名のみ。

 そのまま、フロスティアは話を振っていく。

 

「アリス。あんたの事情は聞いているよ。覚醒石(デザイアギット)に目覚めていない一般人で、かつ厄者によって故郷を滅ぼされた被災者。そんなあんたが、今回の任務に同行してきた理由……それを訊ねたくてね」

「理由、ですか?」

「そう、理由。何でそう思ったのか、どうしてそうしたいと願ったのか。聞かせてほしい」


 緑色の瞳が、鋭く真っすぐにアリスを射抜かんと向けられている。

 心を骨の髄まで見透かされそうな、そんな感覚を覚えるアリス。

 この問いは、生半可に答えていいものじゃない。

 そう考えた彼女は、その唇を震わせながらもフロスティアに理由を話していく。


「役に立ちたい、と思ったから。サイト君や、ソウジに、イニティウムギルド長。それに、不滅の物語ペルペトゥス・ファーブラのギルド員の皆。良くしてくれる人達に、少しでも報いたいと思ったからです」

「……それだけ? 今回の任務に着いてきたのは、それ以外にも何か理由があるんじゃないのかい?」

「っ。そ、れは」


 見透かされた。

 そうアリスは思った。

 

 ――――誤魔化せない、けれど話していいのか分からない。

 ――――こんな、身勝手でどう考えてもお前が言うべき立場ではない本心なんて。

 

 けれど。

 ここで言えなければ、後悔する気がしたアリスは。

 意を決したようにフロスティアの目を見つめ返して、話していく。


「……実のところを言うと。サイト君が、心配だと思って。彼の近くにいないとって、それで、支えてあげなきゃならないとって思ったんです」

「うん、それで?」

「彼、ボーデンにも任務で向かってたんです。厄者を倒す為に、ソウジと一緒に。その時に、私の中でサイト君を明確に感じたんです。遠く離れていたのに、ボーデンで何かあったサイト君が、そのまま消え失せてしまいそうになる感覚……それを、感じてしまって。それからずっと、私の中で不安感が増してるんです。サイト君が消えてしまわないかっていう不安を、強く」


 言い切ったアリスは、そのままフロスティアへと強く視線を交わしていく。

 とても、永い時が流れたような感覚に陥るアリス。

 フロスティアの眼光は、それ程までに強く彼女を貫いていた。

 そうして、緊張が解かれたのはフロスティアが息を一つ吐いて目を閉じた時だった。

 アリスも釣られて息を吐く。

 そんなアリスに対し、フロスティアはニコリと微笑んでみせると彼女に話しかけていった。


「悪いね。あんたの気持ちを全部、ちゃんと聞いておきたかったんだよ。中途半端で、何かを隠したままの気持ちでいられてちゃいけないからね。もしあんたが気持ちをひた隠しにするようだったら……アストラに返していたよ」

「……そう、だったんですね」

「うん。それで、あんたはこうも思ってるだろ? 自分は他の皆と違って戦えないから、ちゃんと分相応な行動を心掛けないといけない。無理やり着いてきたものだから、迷惑はかけられないってね」


 それも、アリスが思っていた事だ。

 ラヴィーネに来る前にも自分で言ったりもした。

 

『戦力外なのは事実で、自分に出来ることをしなければ』


 それが、今の自分に出来る精一杯だと思っているから。

 アリスは拳を握りしめる。

 そんな彼女に、フロスティアは尚もその微笑みを絶やさずに話し続ける。


「身の程を弁える、は確かに大切なことだね。けど、アリス。それを優先しすぎて、本当に自分のしたい事が疎かになっちゃあいけないよ?」

「本当に、自分のしたい事」

「そう。目的を見失っちゃったら、元も子もないだろう? あんたは、多分今でも色々と心の中に抱え込んでる。故郷を滅ぼした厄者に対しての復讐心とか、サイト君やソウジ君の様な人達の役に立てていないだとか、とにかく色んな感情を。でも、それらを踏まえたうえで、あんた自身の為したい事がある筈。それを、見失わないようにね」


 スッ、と。

 心に入り込んでくる言葉に、アリスの気持ちにふわりと和らぐ感覚が生まれた。

 それは、ソウジと話す時にも感じるようなあの感覚。

 肯定的な、見守る様な言葉とその内容に彼女は安堵を覚える。

 そして、それと同時に自身の中で気を引き締めなければならないとも考えていく。


『目的を見失わないように、自分の中にある為したい事を見つけて為す』


 その目的は既に見つけている筈だ。

 サイトや、他の人々を守れるような人になりたい。

 彼の隣に立っていたい、共に戦いたいのだ、と。


 ――――指針を得た。ならば私が、すべきことは。


 アリスはフロスティアの目を見る。

 真っすぐに、見つめていく。

 そのまま彼女は、その真剣な眼差しを向けたままに言葉を紡いでいった。


「ありがとうございます、フロスティアさん。私は、まだなりたい自分になる為の土台が出来ていない。けど、なりたい自分がちゃんとあることが改めて理解出来ました。その為に、私は頑張っていきます」

「うん、それがいい。んじゃ、話はこれでおしまい。あんたもゆっくり体を休めるといいよ」

「はい、そうします! ありがとうございました、フロスティアさん! 失礼します!」


 そう言葉を交わして、アリスは部屋から退出していった。

 シン、と静まった会議室の中で一人、フロスティアは顎に手を添えて考える素振りを見せる。

 その内容は、アリスについて。


「……本当にただの一般人、なのかしら。ランスが視ればもっと詳しく分かることもあるのでしょうけど、少なくとも私が感じた感覚的に、あの子の在り方はまるで()()()()()だった。良くも悪くも純粋で、色んなものを素直に吸収するような、そんな存在」


 龍族(ドラコノス)は魂に関する事柄に秀でている。

 魂を知覚し、その色を視て異常があれば浄化する。

 そうした治療を施す関係上、龍族は人の感情にも敏感になっていった。

 

『魂とは、人類がその身に宿す“業“であり、“鏡“である。この鏡とは即ち“自分自身“を指し、魂は自身の行いや周りの環境、それに伴った心境の変化によって善にも悪にもなり得る』

『故に、魂を視る事の出来る我ら龍族は、そんな魂を腐すことがあってはならない。魂を浄化する事が可能な我らが自身の魂を腐らしてしまえば、それは他者の魂に深く染み込む黒い泥を与えてしまいかねないのだから』


 龍族に古くから伝わる伝承を、フロスティアは思い返す。

 アリスはこれから何でも素直に吸収することだろう。

 良いことも悪いことも、全部ひっくるめて。

 これから先、彼女に降りかかるかもしれない苦難を想像して、思わず眉間にシワが寄ってしまうフロスティア。


 それから、彼女の気がかりはもう一つ。


「ハスタ……あんたは今も、怒ってるんだろうね」


 自身の息子とも呼べる、獣龍種の存在。

 今どこで何をしているのか、フロスティアはまだ知らない。


 暗くなる気持ちをどうにか振り切って、彼女は事務作業を始めていった。

 これから始まる作戦に向けて、少しでも自分に出来ることをしておくために――――。

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