23.勝手にしやがるな
朝、外の騒がしさに目を覚ましたリゼリアが身体を起こし眠い目を擦る。
「ん〜……一体なに……」
窓から外を見れば、住民が何か話し合っており、その合間を抜けてコロニーガード達が通りを駆け抜けていっている。
「なにかあったのかな、ちょっと外に出てみるか」
「んぐぐ〜ん、もむぐんも△☆※◇◯〜?(もしも〜し、その前にこれを解いて欲しいんですけど〜?)」
リゼリアが準備のためにベッドから起き上がると、それ見越したようにひまるが拘束具からくぐもった声をかける。見ればベッドに仰向けになったまま微動だにしていない。
「あ、ごめん。拘束具の開放と体感重力下げるから待ってて、んでさっさとザビメロ探しに行くよ」
「ぷはっ、もう少し落ち着かない?まずはご飯食べようよ、昨日から何も食べてないし」
ひまるの悠長な提案を無視しようとしたリゼリアだったが、その時彼女の腹部から空腹を伝える音が発せられた。
「わ、分かったよ……さっさと食べたら出るよ」
ニタニタと笑うひまるの顔をなるべく見ないようにして、リゼリアは支度を始めた。
………………
食堂に入ると、有名人になっているはずのリザリアにすら目もくれずに宿泊客が昨日の出来事について話していた。
「やっぱり昨日のことはみんな知らなかったみたいだね、ザビメロとノルガマードが帰って来ないことも関係あるのかな」
「んなことよりさっさと料理出してもらおうよー、食った後に考えりゃあいいでしょ」
街の違和感が気になってしょうがないリゼリアに、ひまるはマイペースなことを言う。そんな彼女にリゼリアは不機嫌な表情を向けるが、ひまるは気にせず席に座ると、リゼリアの端末が昨日と同じように鳴り響いた。
『隷下対象と食事をする場合は、アプリから特殊動作解除ボタンを押してください。』
「……なんでこんなシステム作ったんだろ、ガチで面倒いんだけど」
端末に表示された文言に、リゼリアは思わず本音を呟く。
「それにはどーかん、とりあえず解除して」
ひまるの言葉に渋々アプリを開いて解除を押すリゼリア、するとひまるはおもむろにテーブルの上にある一番近い場所にあった花瓶から、花を一本抜き取りその茎を握る。
「あ、やっぱり動き制限されてるわ、これをあんたの目に突き刺すとかできない」
「ちょっと、なに考えてるのよ」
ひまるは「ちぇっ」と言いつつ花を捨てると、ちょうどいいタイミングでやってきた朝食を受け取って「いただきます」と言い、ナイフとフォークで少しずつ切り分けて食べ始める。
「私、元の世界の記憶とかないけどさ、このウインナーはなんか変な味な気がするよ」
左手でパンを掴んでかじりつつ、右手に握ったフォークで突き刺したウインナーにかぶりついたリゼリアがふと、そんなことを呟く。
「この世界じゃわざわざ家畜なんて養わないからねー、食材になるのはダンジョンに発生したどっかの世界でよく食べられていた原生生物の肉を使ってるのよ、あとグロブスタとか」
「ふーん、でもこれはこれで美味しいからいいや」
そう言って頬張るリゼリアを尻目に、ひまるは一食分を食器を極力汚さず完食すると、ナイフとフォークを右側に揃えて皿に添えて、「ご馳走様でした」とだけ言って席を立った。
「ふぉごいむの?(どこ行くの?)」
「トイレ、特殊なんたらとか言うのが解除されてるうちに済ませようと思って」
それを聞いたリゼリアは「ふーん」とだけ言って食事に戻る。結局、リゼリアが四人分の食事を平らげるまでひまるは待ちぼうけをくらってしまった。
………………
出る準備を整え、食事を済ませた二人が外に出ると、明らかに街はいつもとは違う雰囲気を漂わせていた。
「とりあえずギルドに向かおう、なにが起きてるのか萠丹歌に聞けばわかるだろうし」
そう言って、ひまるの鎖を引っ張って歩き出すリゼリア、それに対して眉をへの字に曲げつつもひまるは大人しく着いて行く。
街は騒々しく、明らかにいつもよりコロニーガードの数が多いことに不信感を抱きながらリゼリアがこの町で一番大きな建物の前を通り過ぎようとした時、その建物の前に集まっている人混みの中から声がかけられた。
「ん?あっ!リゼリアさん!」
「えっ?萠丹歌じゃん、何やってんの?というか今なにがどうなってんの?なんか街の様子がおかしいけど」
それは、リゼリアが唯一名前を知るギルド職員の萠丹歌だった。
「それが私にも分からないんです!私もまだギルドに入ったばかりの新人で何も知らされてないので……でも昨日から様子がおかしくて、しかもバデラさんとかギルドの優秀な方たちが今朝から見当たらないので他のギルドのみんなと探してるんですよ!」
萠丹歌自身も混乱しているのか、説明になっていない説明をリゼリアにする。よく見たら建物の前はギルド職員が立ち入り禁止線の中にいるコロニーガードやギルド調査局員に抗議しているようで、それを野次馬が見ている為に人集りができている様子だった。
「いつもの半分くらいしかギルド職員はいませんし、昨日集めたランカーの方たちとも連絡が取れないしで私たちもどうすればいいのか……」
「なに……?ザビメロって萠丹歌の用事で夜出歩いてたの?」
「ち、違います!このアルカネラ管理運営局から通達があったんです!ランカーと腕の立つ解明者を呼んでくれって!」
そう言ってその建物を指す萠丹歌、そこまで聞いて色々察したリゼリアはすぐに行動を開始した。
「あっ!リゼリアさん!!」
「なにやってんの?あのバカ」
リゼリアはすぐに人混みを押し除けながら進んでいく、萠丹歌が止めようとしたが間に合わず、ひまるが呆れるようにため息をついた。
そこまで体格が良くない彼女だが、意外に力があり様々な種族をさっさと掻き分けて最前列まで進み、そのまま立ち入り禁止線を跨いで中に入っていく。
「おい!ここは立ち入り禁止だ!線が見えなかったのか!?」
「おい止ま……ぐはっ!?」
無言で進むリゼリアにコロニーガード達が止めようとするが、死角からタクティカルプレートを当てられて一人が気絶する。
「このっ!捕えろ!」
「離せ!離してよ!何も言わずに封鎖だけして、あんたたち何様なの!?ザビメロは!?ノルマガードは!?どこいったのか説明しなさいよ!!」
「おい……」
数人のコロニーガードに拘束されたリゼリアが叫びながら暴れる。すると、建物の入り口からなにやら地の底から響くような声が発せられた。
「お前……アピナに喧嘩売ったという新人か……一体何のようだ……」
出てきたのは、ボロボロのローブを纏い、フードで見えない顔から紅い瞳だけが光って見える不気味な大男だった。
筋骨隆々の体を拘束するかのように鎖や金属類をじゃらじゃらとさせており、その無骨な見た目には似合わない透き通るような白い肌と、顔の部位で唯一見えている口元から異常に伸びている犬歯でこの男が人間ではないことがリゼリアには分かった。そんな体長が4mはあるこの大男が冷たい眼差しでリゼリアを見下ろしている。
よく見るとその男の腰にもタクティカルプレートがあり、どうやらこの男もカードプレイヤーのようだった。
「なに?カードプレイヤーって身長がバカみたいにデカくないとなれないの?というかなんで同じカードプレイヤーなのにこいつは良くて私はダメなの?」
「俺はランカーだ、昨日の晩はコロニーを留守にしていた……連絡を受けて急いできたらこの有様だ……今事後処理をしている……」
この期に及んで減らず口をのたまうリゼリアに、男が意外なほど丁寧に説明をする。
「じゃあ私もその事後処理とやらに参加させてよ、ランカーが世話をしている期待のルーキーならいいでしょ?」
「だめだ……お前は、弱い……」
そう言って男が踵を返す。
「この先は危険だ……弱いやつが入っていい領域じゃない……」
それを聞いたリゼリアが歯を剥き出し、タクティカルプレートを男に向かって飛ばす。
しかし、男は瞬時に振り向くと、当たり前のようにプレートを掴んだ。
「そんなの!まだ分からないでしょ!」
「……仕方ない……ザビメロには迷惑をかけた……やつへの謝罪を兼ねて相手をしよう……」
男が制すると、コロニーガード達は一斉にリゼリアを解放してその場を離れる、そして互いの前にプレートが音もなく飛んできた。
「お前の弱さ、俺が教えてやる……」
「上等……!」
「デワース……」「デワース!!」
二人の宣言と共に、フィールドが展開された。
本日のカード紹介コーナー
赤 奇襲 2
スキル
自分のユニット一体を対象とする。それに+2/0の補正を与え、更に【貫通】を付与する。
このカードが相手のターンプレイされていたら、自分はカードを一枚引く。
フレーバー:強者の驕りが、弱者にとっての最大の武器だ。