16.蘇生院という施設
時刻はまだ午後を回ったばかりの頃、コロニーのゲートをノルガマードとリゼリアが通って帰還する。
「さて、どうやらお前は蘇生が初めてみたいだからな、せっかくだからちゃんと見ておけ」
そう言ってギルドには向かわず、コロニーの西側へと歩き出すノルガマードの後ろを、リゼリアは黙ってついて行った。
………………
到着した場所は、飾り気の無い清潔感のある白い外壁くらいしか外見の特徴の無い建物だった。それを見たリゼリアは思わず、(あ、病院だ……)と失った記憶の断片からそう判断したが、その建物のすぐに後ろに聳え立つものを見てすぐに間違いだと気がついた。
それは、まるで巨大な溶岩石でも削り出して作ったかの様な、荒々しい漆黒の城だった。そんな怪物でも住んでいそうな恐ろしい城が、下の近代的な建物と融合する様に鎮座している。
「ここは治療院、怪我や病気を治す所だ」
(あ、やっぱり病院なんだ……)
自分の憶測が当たってしまった事にリゼリアは困惑する。
「えーと、じゃああの後ろのやつは?」
「あれが今回世話になる蘇生院だ、たまげただろう?」
「うん、ぶったまげた」
「もっとすごいものを見る事になる、気をしっかり持て」
そうして、自動ドアを抜けて施設の中に入る二人、そこは外観通りの病院然としており、そこの受付でノルガマードは看護師の女性と簡単に何かを話すと、すぐに奥へと向かう。
「こっちだ」
向かった先は何か巨大な扉のある部屋で、ノルガマードがその扉の際にあるパネルの↑と表記されたボタンを押すと、巨大な扉が開き彼はそこに躊躇なく入っていく。そんな様子を見ても、リゼリアは足がすくんで中々入れずにいた。
「……?どうした、早く入ってこい」
「いや、何これ……」
「ああ、これはエレベーターと言ってな、これで上まで登っていけるんだ」
「え……これエレベーターなの?大きすぎ」
これがエレベーターだと理解したリゼリアは、恐る恐る中へと入っていく。
「エレベーターは知っているのか、お前の元いた世界の文化系統が気になるな」
「それ、ザビメロも言ってたね、その文化系統ってなんなの?」
扉が閉まり、ゆっくりと上がっていくエレベーターの中でリゼリアが質問する。
「簡単に言えば、どういう技術をメインに使っていたかを分類した指標みたいなものだな。魔法技術を使っているか科学技術を使っているか、その技術がどの程度発展しているか……元の世界次第では、ギルド側がそいつにあったコロニーを薦める場合もある」
「はあ、なんとなく理解できたけど、元の世界の記憶が無い私には必要ない知識かも」
「正直おれもそう思う、まあここアルカネラ区域は魔法と科学をバランスよく取り込んだ区域だから、よく分からんもので混乱することも少ないだろう」
「ふーん、既にアルカネラっていうものに度肝を抜かれたけど、これでも普通なの?」
「そもそもアルカネラという言葉がどこかの世界で『平凡、特徴のない』という意味らしいからな、言葉とは裏腹にカードゲームの方は個性だらけだが、この区域自体は問題もなく過ごしやすい。お前みたいなのには一番合っているだろうな」
そんな取り留めない会話を二人がしていると、エレベーターが止まって目的の場所に到着した事を知らせる。
「やっと着いたか、ここの蘇生院は他より高い位置にあるみたいだな」
ドアが開き、蘇生院の全貌がリゼリアの眼前に広がる。
「えい!これでトドメだ!」
「ぬわぁーやられた!へへ、チビの癖にやるなお前!」
「チビは余計だ!」
真っ先に目に入ったのは、小さな子供と狼の耳を持つ青年が広めの台を使ってアルカネラを楽しむ姿だった。
「え、何これ……」
全くの予想外を見せられ、リゼリアはすがる様に別の場所へと視点を動かす。
「あら?すごく可愛らしいカードを使うんですね」
「わ、悪かったな……こんな大男が可愛いカードを使って」
「いいえ、全然悪くありませんよ、繊細な立ち回りが必要な黄のカードをこんなに使いこなしているんですから、貴方は素晴らしいプレイヤーさんです」
別の所では、背中に翼を生やした天使の様な女性が、褐色の大男と和やかに会話をしながらアルカネラをしている。
「え、えーと……ノルガマード、蘇生院ってこんなふうにワイワイといろんな人が集まる場所なの?」
想像とは違う光景に面食らってしまったが、蘇生院とはこういう場所なのだと理解する為に、リゼリアはノルガマードに恐る恐る問いかける。だが……
「いや、こんな光景おれも初めて見たぞ……一体なんだこれは……」
期待を裏切る返答に、足場を取られたリゼリアはガックリと崩れ落ちた。
本日のカード紹介コーナー
赤 ブーソフィアの歓待者 4
3/1 ユニット ブーソフィア シヴィリアン
【速戦】
このユニットが出た時、または他のユニットが出た時、自分はグロウゾーンからカードを一枚選んで裏向きにECゾーンにおいてよい。
フレーバー:ブーソフィアだからと言って、全ての者が俊足を利用しているとは限りません、彼の様に腰を据えてアルカネラをしてもいいではないですか。
まあ、その割には落ち着きはないですが。
〜アルカネラ蘇生院の院徒 アルフサム〜